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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第二章 王都への旅路
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78 ニノ森の地中魚

 ニの森。

 王都までは、二つの森を抜ける必要がある。


 この森は、ビルトリアン伯爵領を出発して、最初の森となる。

 これは、王都から数えて二つ目ということで、近年付けられた名称である。

 実は、この森は、昔は『深き大地の森』と呼ばれていた。


「何で、大地が深いのよ、深いは湖や海に使う言葉じゃないの? 深き森とは言うけれど」

 エスティルは、説明していたバスに聞いてみた。

「さすがは、女神・エスティル様です。良いところに気付かれます」

 バスは人当りが上手い。

 時折、聞いている方が恥ずかしくなる。

 けれども、エスティルは、褒められたあげくに、女神と呼ばれて笑顔である。


「昔、森の中で、誰かさん、みたいに泥沼でもつくった奴がいたんだよ。それで深いって言われているんじゃないのか?」

 ジルは最もな事を言っただろと、満足気な表情である。

 目をつぶり、腕を組み、やや胸を張りながら、背を反らしている。

 …偉そうなポーズである。

 

 カルは、また余計なことを言ってと思いつつ、聞こえない振りをして、静観していたところ、何だ、何だとジルセンセの声が、後ろから聞こえてくる。

 エスティルは、無言で、ジルの右耳と左耳を結んでしまった。


「カル~、う、う、うっ、少し痛いし、自分で取れないよ~。俺様の耳をほどいてくれ~」

 いつもの泣き声ではなく、もう、泣いている。

 実際のところ、自分で手は届くのだが、可哀そうなので手伝うことにした。


「人が気にしていることを言うからですよ。ほどきますから、もう、言わないで下さいね」

「うん、わかった」


 …バスの努力も、水の泡である。


「で、まさか、ホントにそうなの?」

 エスティルの視線は厳しい。

「い、いえ、そんなことは、決して御座いません」

 なぜか、バスの足は小刻みに揺れている。

 

 それはそうだろう。

 もし、ジルセンセの言う通りだとしたら、嫌みったらしいし、褒めた分だけ、ジルセンセよりも性質が悪い。

 そんな嫌味な事を言ったら、多分、走る馬車から、バスは放り出されてしまうだろう。


 バスの話だと、この森の地面は人では感知できない水地点スポットがランダムにあるという。水地点スポットとは、見た目は普通の地面であるのだが、そこへ足を踏み出すと、水面の如く足が没していき、ひいては土飛沫があがり、沈んで、溺れてしまうのだ。ただし、馬や馬車は、船みたいなものであって、地面に没することがないという。


 そのため、この森を徒歩で通り過ぎる者はいない。

 徒歩の場合は、森を迂回するしかないのだ。

 馬車の場合は、途中馬車から降りさえしなければ、森を抜けられるといった具合である。

 だが、よっぽどの事が無い限りは、馬車でも迂回するのが常識的な考え方なのだ。


「何それ、要は、馬車から降りなければ、安全ってことでしょう。何で、わざわざ、迂回するの?」

「あ、あの、この森の地中には地中魚というものがいて、溺れると地中魚に食べられてしまうという、言い伝えがあるのです。とても、危険ですので迂回を致しましょう」


「しないわよ。迂回すると10日もかかるんでしょ。突っ切れば1日よ」

 バスの説明も空しく、エスティルに迂回案は撤回されてしまった。

 エンデルの森の一件で、図太くなったのか、ジルもカルも納得の表情である。

 ランドルとバス、クミアの三人が、冷や冷や顔となっていた。


 オルガの手綱のもと、馬車は『二の森』に入って行った。


「それにしても、地中魚って、良く分からないな。土の中だから、魚に似たモグラのことですか?」

 カルは、バスに聞いて見た。

「私も、どんなものかは、良くはわかりません。ここ、100年間は皆、迂回しているのです。言い伝えであり。実際に見た者は近年では、いないかと思います。けれども、聞くところでは、本当に地面から、魚が跳ねてきたりするそうなのです」

「ふうん」

「見た者は死んでしまったから、見た者はいないということですか?」

「「「なるほど」」」

 クミアの言葉に皆、納得した。


 陽も暮れてきた。

 ここでは、馬車から降りることが出来ないので、馬車内で一泊となる。

 当然、横になるスペースは無いので、座りながら寝るのである。


 皆、分かりきっていることなので、敢えて口にしない…。

 『狭い』などといったら、馬車から追い出されると思っていていい。


 森の中といっても、一本道が通っていて、頭上には空が広がっている。

 要は、枝葉で陽光が遮られていないのである。


 真っ赤な夕焼けは、すぐに夜空へと移り変わる。

 満天の星達に照らされながら、カル達は車中で過ごした。



 朝を迎えると、遠慮の欠片もなく太陽の光が差し込んできた。

 目覚めた者は、順々にそれなりの伸びをする。

 体の節々が痛い。

 熟睡が出来た者はいないだろう。

 なぜかといえば、狭いからである。


 馬車自体は広めではあるのだが、体躯の大きな者が多いのだ。

 太っている者、筋肉質な者と。


 今日は、バスが御者台に乗り込み、出発である。

 馬車からは降りられないので、バスは荷台から御者台へと移動しようとした。

 バスの動きが止まった。


 荷馬車の中で、途中、動かなくなっているバスを見て、ランドルは苛立ち始めている。

 ランドルは、我慢出来なくなって大声を出した。

「お前! 何しているんだ、早く、御者台に移動しろ!!」

「ランドル様、そ、それが、う、馬がいないのです」


「「「「「 えーーーーーっ 」」」」」


「馬がいないって、それじゃ、移動できないじゃないか」

 ランドルは怒りだした。

 拳に力が入るも、バスを殴ることは、しなかった。


「手綱が噛み切られています」

 バスの一言に一同は、唖然とした。

 馬車の中にいれば安全だが、このまま、ずっと、こんなところにいる訳にもいかない。

 馬に逃げられて移動ができない状況に一同困惑した。


 沈黙が続いた。

「バ、バスが言っていた地中魚って、迷信じゃないのか」

 ジルは喋り終えた後に後悔した。

 こういうことは、言い出した者が確認をしなければいけない。


 もしもの時は、誰かに代わって欲しくて、ふと見ると、オルガとフェルビーは、まだ寝てる。

 カルは目を合わせないようにソッポを見ている。


 ピチャン、ピチャン。

 

 その音を聞いて、皆で外を見た。

 カルは驚いた。

 ピラニアみたいな魚が、地面から跳ね上がっては、地中に潜っているのである。

 相当な数が地中にいるように見える。

 地中に引き込まれたら、あれに喰われるのかと、思ったら冷や汗が出て来た。


「ど、どうするんだよ! お前が森を突っ切るなんて言うからだろ!」

 ランドルは怖くて、大声を張り上げた。

「綱が幾つも切られていたら、馬も逃げるでしょ!」


「あ、あの、助けを呼んだらどうでしょう。そ、そのファイアボールを空に打つとか」

 大喧嘩になりそうと思って、ランドルとエスティルの間にクミアが割って入ってきた。

「誰かが泥沼地帯を造ったから、誰も助けに来れないと俺様は思う」


「………カル~、ジルが虐めるよぉ」

 エスティルは小さくなりながら、カルの胸に飛び込んだ。

 いきなりで、驚いたものの、カルも悪い気はしない。

 むしろ、理由もなく、嬉しい。


「あああ、お、お前がそんな、タマか!」

 エスティルの以外な行動に、ジルも驚く。

「ま、まあ、ジルセンセ、過ぎたことを言っても、仕方ないですし、前向きに考えましょう」

 いささか緊張した声である。

 エスティルは、エスティルで、カルの胸の中で表情が綻んでいた。


「あ、あれって、うわっ、マジか!」

「な、なに?! へ、変?」

 カルの声にエスティルが慌てる。

 エスティルは、カルが驚いたのは、自分の匂いのせいかと焦った。


「あれ、あの背びれ…サメじゃないか!」

「「「「 さめ? 」」」」

「あ、ごめん。背びれだけ見てのことだから、気にしないでくれ!」

 どうも、俺以外は「サメ」を知らないらしい。

 多分、海の魚のことなんか、皆知らないのだろう。


「よく見ると、あの地中魚って、雷で形が作られているだけのような」

「あれ、多分、魔力よ」

「やっぱし、そうなんだ」

 二人で会話をしている間に、気が付くと、五匹の地中鮫が、馬車を中心に円を描いて、廻っていた。

 ゆっくりと、五つの背びれが、恐怖を植え付けるように等間隔で動き続けている。

=============================

【お願い】

今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、「興味がもてた!」「続きを読みたい!!」等と少しでも感じていただけましたら、★★★★★を押して応援いただけますと嬉しいです。

是非とも、よろしくお願いいたします。

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