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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第二章 王都への旅路
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77 ニノ森へ・・・ 絶対はあるよう

 ランドルは、伯爵邸内の宛がわれた部屋で沈んでいた。

 室内は真っ暗である。


 繰り返し考えていた。

 けれども、なぜ、ヒムルカに命を狙われたのかが、わからない。

 それ故に、ショックが大きいのだ。


 自分としては、彼女のことが好きであった。

 昼も夜も一緒にいる関係性であった。

 全てが嘘だったのだろうか。

 であれば、一緒にいた時間は俺を殺すために油断させる時間か。

 

 いや、ヒムルカ自身に俺を殺そうとする意志があったのか。

 やむを得ない事情などが、あったのではないのか。

 誰かに命令されて仕方なくとか…。


 そうだ!

 彼女に限って、俺を殺そうとするなんて絶対にありえないことだ。

 いや、でも、認めたくないが、実際に俺が狙われたということは事実。

 自分で分かっているのだが、堂々巡りを繰り返している。


 やっぱり、裏切られたんだ…。

 


 裏切られるとは、こうも心を切り裂かれるものなのか。

 

 ランドルは衝撃的な出来事を受け、自分自身が砕け散った感覚になっていた。

 そこへ、ノックをしてバスが入って来た。


 ランドルは瞬時に振り返った。

「お飲み物をお持ちいたしました。そ、その、灯りをともさなくて良いのですか?」

「あ、ああ」

 ランドルは不安げな声をだした。

 ヒムルカよりは、普段から足蹴にしているバスの方が、よっぽど、自分に恨みを持っているのではないだろうかと、思ったからだ。

「お、お前は、俺のことを殺したいと思ったりしないのか?」

 言うつもりは、なかったのだが、思わず、口をついて出てしまった。


「そのような言葉、口にするのも恐ろしいです。もし、そのような気持ちになった時は、早々に、お暇をいただき、別の場所で生きていくつもりです」

「そ、そうか。でも、これ迄のことについて、謝罪をさせてくれ。ごめんなさい!! もう、暴力は絶対に振るわない」

 

 ランドルは、バスにこれ迄に振るってきた暴力の謝罪をしたことで、自分を少し取り戻せたような気がした。けれども、これで、すべがスッキリとした訳ではない。


 可能ならば、ヒムルカにあって話がしたい。

 罵られても、剣を向けられたとしても、話を聞きたいと思わずにはいられなかった。


 人は肉親でも、互いに、どこまで理解し合えているかは、わからないものである。


 バスが部屋を出て行った後、ランドルは、一人、紅茶を眺めていると、なぜか、涙が出てきた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌朝。

 既にオルガは、馬車を取りに行っている。

 その他の5人と1霊と1巻は伯爵邸の玄関先にいた。

 因みに1巻とは、カルの左腕に巻き付いているルバート(槍斧)のことである。


「エスティル、ランドルは、どうするんだ? 俺様が一声掛けてこようか」

「お願い。もうすぐ、伯爵様が見送りに降りてこられるらしいから。起きてこなかったら、仕方ない、置いて行きましょう」

 エスティルは諦め顔である。


「おい! お前ら! 聞こえたぞ! 置いて行くって、どういうことだ! 俺は雇い主だろうが」

「俺様らを雇っているのは、もう今日で終わりだろ。この町を出た時点で終わりなんだからな。ここで終わらしてもいいぞ」

「う、うう。って、おい! 大体、その馬車は、俺のだろうが! 俺を置いて出発なんて、そんな選択肢は、絶対ないだろが」


「朝から大声出して、煩いわね! 絶対なんて、ことは世の中には無いのよ。馬鹿じゃないの。遅いとホントに置いてくわよ」

 

 エスティルの言葉は、ある意味、ランドルの胸に突き刺さった。


「わ、わかった。わかったから、少しだけ、ま、待ってくれ!」

 秘書のバスが大慌てで、ランドルの荷物を運んでいる。

 バスは、ホントに置いて行かれると、理解していたようである。



 カルは一連の遣り取りを聞いていて、ランドルも飼いならされる日が近いと、感じていた。そして、思う。

 エスティルの言葉は、その内、彼にとって絶対になりつつあると…。

 こっちの絶対はあるように思える。



 王都までは、丸二日である。

 途中、二つの森を抜けるだけである。

 荒野もないので、トリケラバッファローの群れもいない。

 

 俺らは、伯爵一家に見送られながら、屋敷を後にした。


 馬車は、ゆっくりと進み始めた。

 今回から御者は一部交代制とした。

 最初は、秘書のバスが担当である。


「……」

「……」


 バスがいないと、意外とランドルは口数が少ない。

 少し、暗いのである。


「ランドル~、ショックなのは分かるけど、みんな、夫々、いろいろあるんだから、明るく行こうぜ! 俺様みたいにな」

 ジルセンセの耳は、いつもよりも、さらにピンとしていた。

 耳に余裕が感じられる。


「そ、そうだな。悪い、悪い。そんなに暗い顔をしていたつもりはなかったんだけど……ははっ」

「カルなんか。魔人に命を狙われているんだぞ。それでも、前向きなんだからな」

「ブッ!! …何で余計なことを言うんですか、ジルセンセは!」

「言っちゃ、駄目なこと?」

「駄目というか、言わなくていい事です」

「魔、魔人…そんなのホントにいるのか!」

 ランドルの顔は引きつっている。


「………冗談だよ。冗談。俺様のエンデルジョークだよ」

「じょ、冗談なんですね。私も、ビックリしちゃいましたよ」

 クミアも、怖い思いをした経験があったので、同様に引きつっていたのである。

 ランドルは言葉が出ない。


「ところで、エンデルジョークって何ですか?」

「い、いや、別に。それ、聞き流して…お願い」

 耳が垂れてしまった。


 俺は、エスティルが話に入ってこないなと思って、目をやると、オルガと一緒に魔術の練習をしていた。

 空に向かって、何か放っているのだ。

 そう言えば、前も馬車の移動中に、シャルティエットに魔術を教えて貰っていたな。


「絶対に、ここで、水魔術をマスターするんだから!」

「エスティル様なら、絶対に出来ます」

 エスティルの剣幕に合致するように、オルガも気合が入っている。

「空であれば、幾ら放っても大丈夫です」

「わかってる。絶対にマスターして見せるから!」


 …エスティルなら、すぐにマスターしそうである。

 やはり、彼女には絶対はありそうである…。


 静かになった。

 休憩なのかと思ったら、どうも、魔術の知識に関することを話している。

 参考になるかと思い、俺はオルガの話に聞き耳を立ててみた。

 すると。


 基本的な考え方として、魔術の能力は、大別して三段階ある。

 一番簡単な魔術の能力は、操作能力である。

 これは個人の該当する魔術属性の自然物を自分の意のままに操ることである。

 そして、次の段階は、属性物質の質量増減の調整能力であり、最後は、創成能力という順番となる。


 例えば、水属性を持つ者は、傍に湖でもあれば、そこの水を操り、ウォーターボールを形成することが操作能力であり、そのウォーターボールを大きくしたり、小さくしたり、分裂させて、増やしたりすることが、質量調整能力とされる。

 そして、一番難易度が高いとされるのが、創成能力である。これは『無』から作り出すため、当然、魔力量の消費も多く、難しいのである。


 オルガが冒頭に話していたことは、ざっと、こんなところである。

 魔力の少ない俺にとっては、以後の話の内容を聞いても、全然ピンとこないこともあり、内容が頭に入ってこなかった。

 けれども、エスティルは共感するところもあるらしく、いざ、実践となると成功していた。また成功するので、嬉しいらしく、前回同様空へ、ウォーターボールを放ちまくって燥いでいる。


 暫くすると。

「カル、カル! 見て、見て! 虹が架かったわ」

「どれだけ、水撒いたんだよ!」

「たくさんよ。えへへっ。綺麗よねぇ。ねえ。王都では、パーティー名を『虹の女神』に変更しよっかぁ」

 エスティルは上機嫌である。褒めてもらいたそうである。

 

「エスティルッ!」

「な、なに!?」

 本人も良く分からないが、カルに呼ばれて、嬉しくなっている。


「遠くで、後続の馬車が立ち往生しているのが見えるよ…。後方の道が抜かるんで、泥道になったんだよ」


「 え゛っ」

 エスティルはカルの指さす方を見ると絶句した。

 流石に悪いことをしたと思い、落ち込んでいる。


「馬鹿なことしちゃった。凄い迷惑…オルガ、何とかならない?」

「無理です。何も考えていなかった、自分が悪かったです。申し訳ございません」

 オルガもバツが悪い感じである。


 一つ目の森(ニの森)が見えて来たので、御者がバスからオルガへと交代である。

 オルガは、そそくさ~と御者台へ小走りで逃げるように向かった。


 カルは、珍しく、落ち込んでいるエスティルを見ていて、少し可哀そうに思えてきたので、元気がでるようにと話しかけてみるも、反応が弱く、暗い。


 それではと、エスティルの大好きな、ポルンの力を借りようと思い、二人で見てみようと、ポシェットを開けてみた。…相も変わらず、ポルンはずっと寝ている。

 何も考えつかなかったので、最終的には二人で、ポルンの背中を突っついて遊んだところ、機嫌がなおったのであった。

 眠いポルンにしてみれば、迷惑このうえない。のだが。

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【御礼】

今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

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