76 ビルトリアン伯爵邸にて
今回の事件についての騎士団の公式な見解は、つまり、領民に対しての説明は、盗賊団がレストランを襲撃してきたということになり、騎士と従騎士の二人が戦った結果、傭兵らと相打ちになったとし、真実は伏せられた。二人の剣の腕と釣り合わせるために、敵の中に傭兵が加えられていた。
騎士団は敵の死体を確認し、この二人はペイジュスであると結論づけてはいたものの、そこは伏したのである。
実際のところ、領内にペイジュスが二人も現れた等、公表出来るはずもなかった。
公表すれば、人々の恐怖を煽るだけだからである。
そして、今、なぜか、ここは伯爵家の屋敷の控室である。
カル達は、伯爵家の夕食に招かれ、出席することになってしまっていた。
先を急ぐ旅だと断ったのであるが、事情聴取の際に、グリズリン隊長に強引に約束させられたのであった。
伯爵に何か意図があるのか、それとも、事件に巻き込まれたランドルの慰労のついでに俺達を誘ったのかはわからない。
どういう形にせよ、この夕食会を乗り切らねばならない。
下手をすれば、暫く、領内から出られなくなることだってあるのだ。
ランドルとバスは暗い顔のまま。
『女神の祝福』等メンバーはというと、深い溜め息をついている。
…俺もなのだが。
どうも、皆、揃いも揃って、貴族相手に食事を共にするというのは苦手なようである。
けれども、クミアだけは違っていた。
緊張しつつも感激している。
高級ホテルに続いて、今度は貴族の屋敷で食事が出来るのである。
しかも、一泊できる。
普通の村娘では、絶対に経験できない体験である。
「貴族と話すって苦手なのよねぇ。気を遣うし」
「お、俺様はそれ程でもないぞ! 多少は慣れているからな。いつかの公爵邸でのお前みたいに変に気を遣って、可愛く、振舞ったりなんてしないしな。ふん!」
ジルは、先程の仕返しとばかり、エスティルを少し弄ったのである。
今度こそ、してやったりといった顔である。
「良くいうわ。公爵邸では、自分のことを『私め』なんて、言っちゃてさ! シャルティエットの猿真似なんかして……聞いていて、こっちが恥ずかしかったわよ。なあにが、『私め』よ」
「げっ」
そう言われて、ジルは真っ赤である。
エスティルを弄るなんて、ジルには10年早いのであった…。
カルは、真っ赤になっているジルを見て笑っていた。
が、エスティルのジト目がこっちで止まり、笑いも止まる。
(次は、俺か!)
「カルは、カルでさあ、普段、自分のことを『俺』っていっているくせに、公爵邸では『私』なんて言葉を使っていたし、初めて聞いたわ。…はあ~」
確かに。何となく、雰囲気に呑まれて『私』とか言っていた。
クミアは苦笑いをしている。
「相当、嫌なんですね」
「貴族と話すのって疲れるのよね~」
エスティルは憂鬱で仕方がなかった。
一方の伯爵は。
ビルトリアン伯爵は、夕陽を背に自室の書斎の机で両肘を付き、手を組んだまま考え込んでいた。
時折、二本の人差し指を動かす。
実は、伯爵がカル達を夕食会に招いたのには理由があった。
決して、ついでで招いたわけではなかったのである。
伯爵はペイジュスに関することを聞きたかったのである。
既に、隊長のグリズリンからは、道中において、カル達がペイジュスを撃退したとの報告を受けており、さらには、今回もペイジュスを撃退したのは彼ではないかと思っている。
少しでもペイジュスの情報を収集したく、急遽、夕食の席を設けたのである。
なぜ、わざわざ夕食の席にしたのかというと、カルが公爵家の者で、いくいくは、王家に嫁がれるフレデリカ様のお付きの騎士であると、そこまで確認が出来たからである。
勿論、夕食の席には伯爵の家族も同席するため、その場で本題へと入ることはない。
夕食後に、グリズリンも同席させ、いろいろと聞きたいと思っているのだ。
それと、言うまでもないが、伯爵はハークスレイ家と懇意にしているため、ランドル襲撃の真相もつきとめるつもりではある。
こちらについては、サリィを捕縛したものの、所詮は連絡役であるために、情報も僅かで有力なものはない。やはり、ヒムルカを捕まえないことには計画の全貌は見えてはこない。
最終的にランドルの命を狙っていたのは、ヒムルカなのだろうか。
ヒムルカは、どのようにしてペイジュスと接触することが出来たのか。
解決には、まだ道程は遠い。
一方で、カル達は事件の解決など、望んではおらず、ただただ、開放されたかった。
唯一の望みといえば、ペイジュス二人を倒したのは、亡くなった騎士と従騎士の二人としておいて欲しいというくらいなもの。
これは二人の名誉や遺族のためでもあるが、とにかく、カル自身、自分が目立つのだけが嫌なのであった。
そんな風に考えていたところに、控室の扉がノックされる。
侍女が迎えに来たのだ。
扉が開くと、侍女の後ろに、なぜか、隊長のグリズリンもいる。
ヒムルカの捜索もあり、忙しいはずだと思うのだが、夕食会に同席するという。
とはいっても、後ろで立っているということであろう。
そんな彼が好意的に話し出した。
「俺も熊みたいだ、とか威圧感がある等と言われるが、あんたは別格だな」
グリズリン隊長は、フェルビーに話し掛けていた。
多分、体格のことを言っているのだろう。
「んぐっ」
フェルビーの一言に戸惑うも、グリズリン隊長は続けた。
「あ、ああ。では皆さん、参ろうか。伯爵がお待ちです」
グリズリン隊長の言葉を受けて、侍女が案内する。
「こちらは、ずっとお待ちしてました」
ジルは待ち疲れて、毒づいている。
「はははっ」
グリズリン隊長は、苦笑いをしつつ、頭を掻いている。
どうやら、ジルの小声は、グリズリンに聞こえてしまったようである。
みんなは、案内された部屋へと入ると、長めのテーブルに、伯爵と夫人、そして年配の方はご両親だろうか、他にも息子やら息子の嫁やらがいて、10人ちょっとが既に着席していた。
家族全員と食事をさせられるとは、思ってもいなかったので、皆、戸惑った。
クミアだけは、何も聞かれることもないので素直に喜んでいる。
因みにランドルは、具合が悪いという理由で欠席していた。
彼は屋敷到着後、すぐに欠席の意向を申し出たらしい
申し出に対して、伯爵も彼を気遣い承諾したのだろう。
何しろ、側近に命を狙われたのだから、ショックも大きいのだろう。
全員がテーブルに着席すると、最初に、当主である伯爵が、今回の件について礼を述べてきた。
事件は完全な解決には至ってはいないものの、進展させられた事が大きく、王都にも顔がたったという。
それだけ、聞いても俺達はピンと来ない。
サリィを捕縛出来たことで、王都に顔がたったとは思えないのだ。
彼女が有力な情報を持っていたのだろうか。
とても、そうには思えないが特に詮索はしなかった。
伯爵からすると、ペイジュスが現れたこと、敵を打ち取り、遺体があることだけでも、収穫であり進展なのである。
これまで、この暗殺集団の存在は確認されてはいたが、どのような格好で、どのような武器を用いているのかが分からなかったのである。それが、死体がそのまま残ったことにより、武具等が判明したのである。
事件については、一言のみで後は社交辞令を含めた会話が中心であった。
自身の記憶にはない家族団欒の光景は、カルやエスティルにとっては新鮮に映っていた。
伯爵は笑顔で、簡単に家族を紹介し始めた。
年配者からの紹介から始まり、やっと終盤にきて、ご子息と御令嬢の紹介となった。
といっても、御子息の内一人は王都の騎士団に配属されており、この場にはいない。
その分、自慢の娘なのだろう。
俺達は、美しい双子の娘を紹介された。
シアチレイジーとトアチレイジーと名乗る彼女らは、シアとトアで呼んで欲しいと言う。
因みに、両親が二人纏めて呼ぶときは、チレイジーと呼ぶそうである。
そんなの、ありか、とも思うが…。
二人は共に勉強家で、今も王都の学術院に通っているという。
先週、実家へと戻ってきたばかりで、再来週には、また、王都へ出立してしまうらしい。
この後、娘達の弦楽器による演奏を聴かせてもらったりして、思っていたよりも、気を遣うこともなく、和やかな、楽しいひと時を過ごすことが出来た。
因みに出された食事のメインディッシュは牛肉である。
…多分、トリケラバッファローのような。
食事後、俺は別室に呼ばれた。
先程と同様にグリズリン隊長が迎えに来てくれ、別室まで案内してくれる。
廊下を移動中に話しかけられた。
「敵を討ったのを二人の手柄と証言してくれて、ありがとう」
「え、い、いや、彼らが…」
「誤魔化さないでもいい。彼らの剣には血が付着していなかった。相手はペイジュスだ。多分、気が付いた時には致命傷を受けていたのだろう」
「……」
俺は礼を述べられても、返事が出来なかった。
返事を対応すれば、ペイジュスを討ったことを認めてしまうからである。
俺は、この会話で察した。
伯爵はペイジュスについて知りたいのだ。
確かに、それ以外で俺に聞くことなんて無いはずだ。
伯爵の部屋に通される。
グリズリン隊長は退出はしなかった。
伯爵は笑顔で席に着くよう促すと、グラスにワインと注いでくれた。
相手は上流貴族なので、慇懃にお礼の言葉を述べた。
すると、伯爵は笑って答えた。
「言葉一つで、不敬罪を問うことなどしないから、もっと力を抜いてくれたまえ。これでは聞きたいことも聞けぬ。娘達にもう一度、演奏でもさせようか」
「い、いえ、とんでもないです。どうぞ、何なりと何でもお聞きください」
しまった。後半の言葉は余計であった。
ワインを口にしてもいないのに、口が滑ってしまった。
「では、遠慮せずに。失礼だが、『従騎士資格』の君が、なぜにペイジンを倒すことが出来たのかを知りたい。これまで、彼らが出没したと思われる場に遭遇した騎士達は、確実に殺され、証拠となり得るものも一切なかった。」
「そ、そんな私が倒した等と…」
「君の腕が確かなのは情報が上がっている」
「じょ、情報?」
「そうだ。男爵邸の地下室で、三本腕の魔物に深手を負わせ、捕らえられていた若者達を開放したのは君達であろう。あの、お淑やかで美しいエルフの美女と兎人の使用人、さらに護衛を従えて旅を続けている者なんてそうはいない。まあ、公爵家の剣を持っているのはもっといないかも知れぬがな」
(そうか、あの時のことが一帯に報告されていたのか。……それにしてもエスティルがお淑やかとは…。すぐに手や足がでるのに。ジルセンセが使用人なんて聞いたら怒るだろうな)
「それとも、あいつらを倒せる特別な魔道具でも、持っているのかね」
カルは渡りに船とばかりに、カル人形のことを話した。
何としても、腕が立つということを否定したかったのである。
実際に、カル人形を実物大にさせてみせたところ、二人は唖然としていた。
無理もない。大概、みんな驚くものである。
同時に、この人形は微量の魔力を注ぐことでしか使えないため、自分にしか扱えないものだということも伝えておいた。
「いや、驚いた。これが、からくりであったか」
「はい、これなしでは、私は太刀打ち出来なかったです」
「相手の虚をつく、魔道具が必要なのだな」
伯爵は一応は納得してくれたらしい
こうして、人形のお陰で、何とか一夜の難を逃れることができたのであった。
明日は、ランドルと共に王都へと出発である。
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