72 ランドルの事情
ランドルは焦っていた。
彼は一流商家の三男として生まれ、これまで何不自由なく生活してきた。
だが、そんな彼も、独り立ちをするよう迫られていたのである。
王都での本拠は、将来は長男が後を継ぎ、次男が補佐するという形式でおさまる予定である。
この兄二人は母が一緒であり、昔から仲が良いのだ。
一方で、ランドルはというと、父親が愛人に産ませた子であった。
歳の離れた二人の兄とは一緒に育てられてはおらず、仲がいいかといえばそうでもない。
時が経った今では、二人の兄の考えていることなど全くわからなかった。
だが、ランドルは父親の考えていることはよく分かった。
それは、小さい頃からよく可愛がって貰っていたからである。
けれども、ランドル母子は家族の枠組みには入れて貰えてなかった。
それは本妻の強い意向があったからだ。
酷い扱いこそ受けなかったものの、幼いながらも、二人の兄と比べて明らかに地位は低いものであった。
だが、彼には大きな拠り所があったため、挫けることもなかった。
それは、父親と血が繋がっているということである。
これだけは確かなことであった。
なので、将来は重要な役職に就くかは別として、王都で仕事の手伝いくらいはさせて貰えると思っていたのだが、どうやら、そういうことにはならないらしい。
まだまだ先だと思っていた将来が、すぐそこに迫ってきていた。
要は、父親が年老いてきたために、長男が後を継ぐ日が近くなってきたのだ。
そこで、父親はランドルに対し、事業援助をするから、エンデルで独立しろと話をして来たのである。既に母が他界している今となっては、なんの後ろ盾もないランドルには、この父の話しを受けいれるしかなかった。
この日が来るのが決まっていたのか、昔一度だけ、父とともにエンデルを訪れたことがあった。
その時に、ギルドや地元の有力者らに挨拶をしたことはある。とは言っても、独立を念頭としたものではない。
面通しは済ませてはあるものの、当然の如く、何一つ決まってはいない。
そのため、何の商売をすれば儲かるのか、どこに店をだせば良いのか等自分の目でみてみようと、今回、3人でエンデルへ向かったのである。
正直、旅は楽なものではなかった。
旅の途中、ヒムルカが熱をだし、引き返そうとしたこともあったが、ビルトリアン伯爵家で看てもらえるということで置いて行った。
ランドルとバスは諸所からのアドバイスもあって、旅路では目立たない服装で移動していた。
なぜかと言うと、ハークスレイ家の者だと周囲の者らに気付かれたくなかったからだ。
そのため、護衛も一般商人が雇うレベルの者と契約をかわした。
それにも拘わらず、襲われた。
しかも、金目当ての誘拐ではなく、命を狙われたのだ。
彼には全く心当たりがなかった。
財産分与においては、二人の兄がハークスレイ家の財産をほぼ貰えることになっている。
彼は自分の命が惜しいこともあり、既にその財産分与には同意していた。
これまで、碌に仕事はしてこなかったから、同業者にも客にも、恨みを買ってはいないはず。仕事関係での恨みとあれば、これから店をだそうとしているエンデルの同業者に狙われても可笑しくはないが、誰も自分が成功するとは思っていないだろう。
そもそもが、何の商売をするのかさえ、決まってないのだ。
エンデルの同業者からすれば、自分が店を出したあと、どうせ業績が悪くなるだろうから、そこで合法的に乗っ取るなり、奪うなりすれば良いだけの話である。
ペイジュスに依頼して迄、自分の命を狙う者がいるなんて信じられなかった。
理解できないことが多い…。
それ故、護衛は実際に守ってくれた実力のある者に依頼をしたいのだ。
心配ごと、考え事はなるべく、増やしたくないのである。
ランドルは言葉に詰まっていた。
そこにキツイ一言がきた。
「お前も一緒に王都へ来ればいいだろ、そうでなきゃ、無理な話だ。俺様達は今日、明日にはここを出発したいんだ」
「こ、このままでは、王都の本店には戻れないんだよ。親の手前もあって、ある程度の商売の見通しの報告をしないといけないんだ」
ランドルは、自分の今ある立場を正直に伝えた。
「そんなことは、お前の都合だろう」
ジルの言う通りである。
ランドルには返す言葉がない。
「ランドル様、なぜ、こんな者の言いなりになるのですか! 放っておけばよいのです」
ヒムルカは、もう話すのもウンザリといった顔である。
挙句の果てには、彼女は、突然ランドルに調子が悪いと言い残し、従者とともに屋敷へと帰ってしまった。
ランドルが呆気にとられていると、入れ替わりに兵士が急ぎ入って来た。
隊長のグリズリンは報告を受けると、その兵士を残すことで護衛の四名体制を維持し、自分は伯爵からの急用で、屋敷へ行かなければならないとランドルに告げると、すぐに去って行ってしまった。
ランドルは、ジルを説得できる良い案が浮かばない。
もう、苦肉の策である。
「そ、そうだ。エンデルで店を出すんだ。もし、ここに3日程、留まって護衛を続けてくれたら、君たちの望むものを売って商売するよ」
「そんな、適当な商売じゃ、直に潰れるでしょ!」
エスティルは手厳しい。
「はははっ」
「大体、お前は嘘つきじゃないか。商売なんかもう出来なくなるんだからな。俺様と約束したこと忘れたのか!」
「えっ?」
ランドルは言われた意味が分からなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ビルトリアン伯爵邸。
伯爵の表情は強張っていた。
王都からの情報で、自領内にペイジュスが向かっているとの報告を受けていたからである。
王族の情報網は確かなものである。
だが、困ったことに、どのような目的で、どれくらいの人数が領内に侵入しようとしているのかは、現時点では不明であった。
報告を受けてから、既に一カ月が経過している。
恐らくは、もう領内に侵入しているに違いない。
だが、怪しい者が領内に入った形跡はない。
敢えて言えば、ランドルと一緒に来た冒険者達が怪しいくらいである。
しかし、彼らは公爵家の剣をもっていた。
事前に公爵家から聞いていた人数とは違うのだが、三人は途中から加わったらしく、昔馴染みの仲間らしい。
今は、隊長のグリズリンに見張らしている。
しかし、早ければ、今日中にも領内を出発するかも知れないとのことである。
何か目的があるのであれば、一泊で去る訳がない。
未だ誰かが殺されたという情報も入ってはいない。
要は、今のところ、ペイジュスの足取りは何も掴めていないのである。
この世界では、魔力を授かった者は、それだけの責任を負わなければならないと考えられている。強い魔力を授かった者、さしずめ、王侯貴族らのことを指している。
彼らは、魔力のない者を外敵から守り、生活をより良いものへと変化させて人々の生活を守り続けている。
そんな、能力の高い彼らの手を焼く存在が、暗殺集団・ペイジュスなのである。
ペイジンは、暗殺剣術に長けているのは勿論であるが、それ以上にやっかいな技術を持ち合わせている。それは、自己の魔力量を打ち消すことができるという技術である。
人は意識する、しないに関わらず、魔力を感じることで、相手の位置を認識することが多い。つまり、自己の魔力を打ち消すことが出来るペイジュスは、敵の背後に容易に迫ることが出来るのである。
彼らの存在は、魔術で魔力探知をしても、見つけることが出来ない場合もある。
それ故に始末が悪い。
伯爵が窓を眺めつつ、腕組をしていたところ、一報が届いた。
ランドルを襲った盗賊の頭目を捕まえたとの報告であった。
領内に潜伏していたその男は強い抵抗もなく、捕縛されたという。
今、グリズリン隊長が捕縛した支部に向かっている。
伯爵は、ランドルは偶然に素性が知られて襲われたのではなく、依頼した者が必ずいるとみている。
今回の捕縛で解決に一歩近づくのではと思いつつも、気が晴れることはなかった。
暫くすると、窓からヒムルカが、従者も連れずに屋敷に戻って来るのが見えた。
伯爵は、戻って来たのがヒムルカのみということに、特に感心はなかったのだが、人を呼び、彼女には報告をしに自分のところへと上がってくるよう指示はしておいた。
今、伯爵は、グリズリンからどのような報告が届くのかと、そのことで頭の中は一杯であった。
そのため、時間が経っても、彼女が上がって来ないことに気が付かなかった。
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