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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第二章 王都への旅路
71/129

71 納得させなければ

 翌日。

 ベッドから起きられない。


 馬車の中で座ったままで寝るのは、結構、疲れるのだ。

 その点、ふわふわのベッドはいい。


 正直、俺はエスティルらが呼びに来るまで、起きる気はない。

 ふわふわのベッドの中で、そう誓いを立てていたところ、扉がノックされた。

 立てたばかりの誓いを他所に、何の用かとドア越しに聞いてみる。

 すると、お客が来ているのだと宿の者がいう。

 不審の思い、どこの客かと尋ねると、ハークスレイ家の秘書と名乗っているという。

 バスだ!

 仕方なく、ジルセンセとともに部屋を出て1階のロビーに向かった。

 フェルビーは、オルガがいるものの、やはり、エスティルの安否が気になるらしく、女性陣の部屋に向かうと言うので、下に連れて来るように頼んだ。

 

 ロビーに着くと、女性陣は既に揃っていた。

 クミアは、全く歩けない訳ではないらしい。


「見て、ジル、約束の金貨よ。400枚だって! 今から直に、クミアのお洋服を買いに行って、その後、王都へ出発しましょ」

 エスティルは金貨を貰って、嬉しそうである。

 クミアも、初めての王都なので町を歩ける洋服が欲しいらしい。


「ま、待ってください。ランドル様の護衛は領内でもやっていただくことで、金貨を追加したのです」

「そんなことを言っても、私達が伯爵家の屋敷に泊まれないんじゃ、護衛の仕様がないじゃない」

 エスティルは金貨400枚で、もう十分といった感じである。

 

 エスティルの様子を見て、バスは青ざめている。

 これ以上、金貨を積んでも、引き止められそうにないと感じたからだ。

 それならばと、洋服屋を紹介するので、今からご案内しますと、強引に連れ出そうとする。多分、少しでも、出発を遅らせて、その間に伯爵邸への出入りが出来るよう手を打つつもりなのだろう。

 丁度、女性陣は、今から外出しようとするところであったので、一緒に出掛けることとなった。


 昨日、金貨はこちらから取りに行くと言っておいたのに、朝一番になぜ、来たのか?

 また、よく宿泊している場所がわかったなと不思議に思い、カルはバスに尋ねた。

 すると、バスは俯きながら答えた。


「あの後、お引止めしなかったために、ランドル様に叱られまして、昨日、お泊りになっている、宿泊所をお探し致しました」

「探すって、結構広い町だよ。大変だっただろ」

「いえ。金髪エルフの美女、ウサ耳、赤毛の筋肉質の槍士、そして極めつけは、女の子をお姫様抱っこした色黒で坊主頭の大男がいるパーティーとなれば、探すのはそんな大変でもありませんでした」


「な、なるほど」

(……俺以外は、特徴あり過ぎだな)


 そんな話をしながら歩いていると、高級そうなお店の前に着いた。

 さすが、一流商家の秘書が案内する店である。

 接客が丁寧で、緊張する。等と思っていたところ、奥からランドルが出てきた。

 そういうことか。

 ランドルは馬車でのエスティルの会話を覚えていたのだろうか。

 いや、バスからの連絡を受けて、急いでやって来たのだろう。

 しかも、朝から護衛付きである。

 警護は四人。その中に隊長のグリズリンもいた。


「金貨1000枚で、雇ったんだそ! 俺の傍から離れるなよ!」

 流石に、ランドルがクレームを言ってきた。

 当然だ。

 金貨1000枚を払っての護衛依頼であるのに、俺らの実際の護衛は、王都へ行くついでに護衛をしているといった感じである。

 怒るのも当然であろう。


 だが、エスティルはそんなクレームは、全く聞いていない。

 クミアと一緒に洋服を見ながら、きゃっ、きゃっ、言っている。


 その様子を見て同行している、ヒムルカがキレていた。

「ランドル様、こんな者達は、さっさと首にするべきです。先程、調べさせましたら、Fランクパーティーとのことでしたわ」

「首にしても、他に有能な者がいないから、朝から服屋まで来ているんだろうが!」

「ラ、ランドルさま…」

 珍しく、強い口調で怒られて、ヒムルカはショックを受けている。

「こ、こんな男、ど、どこから見ても普通の冒険者です。ペイジンを倒せる訳がありません。大方、倒したのは盗賊が雇った傭兵に違いありません。直ぐに首にするべきです。私が直にでも、別の護衛をお探しします!」

 やや涙声でヒムルカが話す。


 会話を聞いていたグリズリン隊長は驚いた。

 彼女が指さした男がカルであったからだ。

 彼にそんなことが出来るのかと。


 最初にFランクだと、耳にしたからかもしれないが、それにしてもだ。

 到底、カルがペイジンを撃退できるようには見えない。

 多少は体躯がいいので、体力はありそうだが、今、連れて来ている部下でも、カルのことを、ねじ伏せられるだろと彼はみていた。


 グリズリンらは、相手の魔力量を見通せる能力は持っていない。

 だが、感覚的に魔力がないように感じていたために、カルは強者では無いと結論づけていた。

 因みに、相手の魔力量を見通せるかどうかは、固有能力スキルであり、人族全てが持っている能力ではない。生まれた時から持ち合わせているものもいれば、ダンジョン等で覚醒して新たに取得する者もいる。

 もし、彼らがそのスキルを持っていたならば、カルを見るなり笑い出していたかも知れない。


 一方で、秘書のバスはヒムルカの発言に対して、驚いて俯いてしまった。

 機嫌の悪くなったヒムルカは、冷ややかにバスのその姿を見ていた。

 (一体、どこから、こんな護衛を探してきたんだか…)

 彼女は、続けてランドルの方へと目を移した。


「いや、しかし…」

 ヒムルカの涙を見たために、歯切れが悪い。

 ランドルは、お気に入りのヒムルカの言葉を受けても、カル達を手放したくはなかった。


 ランドルは、あの時、襲ってきたのはペイジンだと確信している。

 問われると証拠はない。

 直感である。

 死を目前に感じた時の直感だった。

 だからこそ、ジルの高額要求も受け入れたのである。


「いいんだよ。そもそも、伯爵領までの契約だろ。契約完了だよ。残金の金貨600枚は王都で貰えばいい訳だし」

「伯爵領にいる間も護衛してくれ!」

「いつまで、いるんだよ。俺様らは急ぐ旅なんだ。恩人の病を治すために旅しているんだ。呑気に長居は出来ないんだよ。それに伯爵家には隊長さんがいるじゃないか」

「そ、それはそうなんだけど」

 ジルに言われて、ランドルは次の言葉がでてこない。


「……そ、そうだ。朝食はまだだろ。おいしい、良い店があるんだ。これから行こう」

 苦し紛れのランドルの一言であった。


 『おいしい、良い店があるんだ』の、その一言には、エスティルらが反応した。

 都合の良い耳である。

 当然、行くことになった。


 バスは、有能な秘書である。

 急遽、開店するように店へ使いを出すが、さすがに朝食の準備が間に合うとも思えない。

 なので、昼食の約束としてもらうよう主人であるランドルへ提案する。

 ランドルの言葉に対して、勿の論で、エスティルはOKである。

 旅路の中、碌な食事をとっていないのである。

 楽しみが増えたエスティルとクミアは笑みを浮かべている。


 みんなで、笑顔で洋服店を後にした。

 クミアは前の服を捨て、新しい服に着替えてのお出かけで、やや恥ずかしそうである。


 朝食のため、宿泊先へと戻るのだが、ランドル一行も付いて来た。

 ひと時でも離れたくないらしい。

 護衛する者に護衛される者が着いていくという。可笑しな構図となっている。

 ヒムルカは、剥れたままである。

 


 剥れているヒムルカを見ていて、なぜか、俺は気が付いた。

 女性陣との間に物理的な距離があることに。

 そうだった、『臭い嗅がせろ事件』が解決していない。


 誤解を解こうと、エスティルに近寄ろうとしたところ、オルガに服を引っ張られた。

「自分なら構いませぬ」

「………」

 俺が、オルガの臭いを嗅ぎたいとでも…。

 …心外である。


 オルガは放っておくことにして、早く、誤解を解かないと。

 この手の誤解は勝手にエスカレートしていくものだ。


「エスティル?」

「何でしょうか?」

 冷ややかだ。怖い。


「誤解だって」

「私の傍で、息を吸わないでください」

「死んじゃうでしょ」

「じゃあ、息を吐くだけにしてください」

「それも、死ぬだろ」

(それだと、匂いは嗅げると思うけど…)


「じゃあ、止めたままに…」

 エスティルの視線は厳しい。


「嗅がれていると思うと、不快です」

「嗅ごうとしてないから、あれは魔術の話なんだって」


 少し話をしてみたが、聞く耳もたずと言った感じである。

 もうこれ以上は駄目だと悟り、他人事のようにしていたジルセンセを捕まえて説明をしてもらった。

 すると、暴力なしに解決したのである!

 許してもらえたのである!!

 ジルセンセが、見るに見かねて、悪者になってくれたのである。


 結果、ジルセンセはホッペを引っ張られて、涙目になっていたが…。


 でも、この程度で済んだのは、分析するに、ふわふわベッドの安眠とお洒落な洋服とおいしい食事が待っていることが、影響しているとしか、考えられない。


 カルは、この町を造りあげ、手掛けた伯爵に感謝せざるにはいられなかった。


「ありがとうございます。伯爵。…あったことないけど」


 安堵するカルであった。

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【御礼】

今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、「興味がもてた!」「続きを読みたい!!」等と少しでも感じていただけましたら、★★★★★を押して応援いただけますと嬉しいです。

ブックマークも是非ともお願いします。

本当に、更新する原動力がわいてきます。

是非とも、よろしくお願いいたします。

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