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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第二章 王都への旅路
70/129

70 エスティルの今

 資金は潤沢である。

 なので、町で一番いい宿に予約をいれた。

 今回は、エスティルの希望もあって、女性陣は広くて豪華な大部屋を選択した。

 それならばと、男性陣も同様の大部屋にしてみた。


 当然と言えば当然なのだが、馬車の中での寝起きと比べると天と地の差である。

 何もかもが、豪華過ぎて感動の域である。

 ジルセンセも感動している。

 因みにフェルビーは、感動しても、コメントは「んぐっ、んぐっ」である。


 敷地内には、温泉もあると説明されていたので速攻で温泉に向かった。

 フェルビーが呼ばれたので、恐らく、女性陣も温泉に入るのだろう。


 温泉は思っていたよりも各段に広い。

 男湯と女湯に別れてはいるものの、仕切り壁は天井まではない。

 つまり、天井付近、壁の上部分は男湯と女湯が繋がっているのだ。

 まあ、間違っても、俺は覗こうとは思わない。

 エスティルにバレでもしたら、フルボッコにされてしまうからだ。

 この辺は、ジルセンセも同じ考えである。

 純粋に温泉を楽しみたい。

 ハッキリ言って、湯舟に浸かれる機会なんて、この先いつ、訪れるかわからないのだ。


 先に浸かっているジルセンセの顔がいい。

 まさに、『ご満悦』といった顔である。

 ウサ耳も、ふにゃっとして、リラックスしているのがわかる。


 俺も体を洗い流すと湯舟に浸かった。

 いや、実に気持ちがいい。

 熱めの湯が好みの俺は温泉を満喫していた。

 来て良かったと本当に心から思っていたところ、ふと、口をついてでた。

「ジルセンセ、エスティルって、水浴びとかしないのに、臭ったりしないですよね」

 

 エレンやマーレと地中に落ちた時は、熱かったり、寒かったりと、いろいろあって本人らは、臭いを気にしていた。

 そうだ、リエルを救出した時も、全く、臭わなかったな。


「どう、思います?」

 ジルは無言である。

 そして、上を指さした。

 カルは見上げて、上部は女湯と繋がっていることを思い出した。


「カルっ! エスティルの体の臭いを嗅ぎたいんなら、回り諄いこと言ってないで、嗅がせろって、本人に言えばいいじゃないか!」

 ジルはそう叫ぶと、速攻で湯から脱出した。

 カルは茫然としている。


 当然、天井を通して女湯に、エスティルに聞こえている。はず。

 

「な、な、な、こ、この、変態―――――っ、死ねーーーーーーーーーっ!! 何が、体の臭いを嗅がせろだ!!」

 エスティルは高潔なエルフなのである。

 大量の桶が、カルを襲う。

 どさくさ紛れに、ホットなウォーターボールも飛んでくる。

 どうやら、男湯の温泉水を操っているようである。

 女湯にいるのに、魔力のない俺の位置が分かるなんて!

 (ペイジンより凄いのではないだろうか)

 しかも、ほぼ、ほぼ、正確に狙えてるのが凄い。

 などと思いながら、逃げまわった。

 フェルビーは既に伸びて、桶に埋もれている。

 桶が頭に直撃したらしい。


 -----------------------------

 何とか、カルは部屋に帰還した。


「ひ、酷いじゃないですか! ジルセンセ! あんな事、言うなんて!!」

「だって、もう、聞こえちゃっているしぃ、俺様まで変態とか思われるのは嫌だしぃ。原因を作ったカル一人で責任を取って欲しいしぃ」

「何なんですか、その喋りかた。『し』を並べて。(韻をふむのが、はやっているんだろうか?)……まあ、確かに犠牲になるのは、一人でいいとは思いますが…」

「あいつ、怒ると怖いんだもん」

(…確かに怖い。なんで、体の臭いの話なんかしたんだろ。……失敗した)


「……ご迷惑かけました。すみません」

 カルは内容が内容だけに、すぐに頭を下げた。

 特段、臭いなんて気にしたことは無かったのだが、ふと疑問に思って口にだしてしまったのである。

 リラックスし過ぎると、人はへんなことを口走ったりすることがある。


 この後、どうすれば、関係修復ができるのだろうと、少し考えただけでカルは憂鬱になった。

 

 その表情を察したジルは、明るく返した。

「いや、わかればいいって。俺様も反省はしている。ちょっと、やり過ぎた……。! あ、そうだ、それよりも仮面が復活したんだよ。ほらっ」

「か、仮面ですか?」

 正直、そんな話しはどうでも良いとは思ったものの、ジルセンセが切り出してきたことなので、一応は対応する。

 手渡されたのは、いつぞやの『魔感受の仮面』が割れたあとに被った仮面であった。

 確か、ダンジョンで二つに割れた後、腰に引っ掛けて持ち帰り、ジルセンセに返したものである。


 俺としては、実用面からして『魔感受の仮面』の方が有用であると思っていて、こちらの仮面は何の効力があるのかさえ、覚えていない。


「へへ、返してくれて、役に立ったんだなと思ったから、また復旧させたんだ。『魔感受の仮面』はもう、必要ないだろうけど、こっちは必要だよな」

「あ、有難うございます」

 …正直、『魔感受の仮面』の方が、必要だと思っている…とは言えない。

 あの仮面には、どれだけ、命を救われたか分からない。

 ジルセンセの顔を見ていると、そんなことは言えないし、さらには、今更、この仮面は何の効力があるのか、なんて聞けない…。

 

 今度、誰かに聞いてもらおう。



 ---------------------------------

 一方、女性陣の部屋では。

「あ、あの変態、やっぱり、直接、殴らないと気が済まないわ」

 エスティルは怒りが収まらない。

「あ、あの、私って、臭い大丈夫ですか」

 クミアも気にし出している。

「大丈夫、臭いはないって言っておくから」

「ち、違うんです。そ、その、フェルビーさんに、いつも抱っこされているので…」

「……自分がフェルビーに聞いておきます」

 オルガは普通に答える。

 この中では、フェルビーの言葉を理解できるのは彼女だけである。


「ち、違うんです。聞いて欲しい訳ではなくて…どちらかと言うと、聞かないで欲しいです。聞かないでください」

「もう、みんなで気になっちゃうのは、あの変態のせいよね。折角、こんなに、いいお部屋に泊まっているのに、腹が立つ、クミアの分も怒っておくわ。もう!」

「私は大丈夫です。何かされた訳でもないので」

「そうお?」

「はい」

「ふうん。あ、そうだ、二人に見せたい子がいるの。待ってて」

 そう言うと、エスティルは、いつも持ち歩いているポシェットを持ってきて、中を見せた。実は、言いたくて、見せたくて仕方がなかったのである。


「じゃーん」

 中からでてきたのは、小さな生き物であった。

 少~しだけ、目を開けたが、今にも寝てしまいそうである。

 オルガが、身を乗り出す。


「あ、ポルン」

「え、名前あるの? って知っているの?」

「エスティル様が名付けられたのです」

「……そ、そうな、の」

「はい」

「ポルンって、何て生物なの?」

「ポルンはこれでも。守護精霊獣です」

 エスティルは、守護精霊獣と聞いても分からない。

 オルガは説明を続けた。

「以前、エスティル様は石像にされていたと仰っておりましたが、その時、ポルンがお守りしていたに違いありません。お守りして魔力を使い続けたからこそ、こんなに小さくなって、未だに元の大きさに戻れないのだと思います」


「そ、そうなの?」

「はい、恐らくは。確か、完全に石にされてしまうと、普通は記憶の大半が消失してしまいます。完全消失では無いと言われてはいますが……。それを、ポルンは魔力を使って、遅らせていたはずです。それで、こんなに小さいのだと思います」

「…そんな。私のために」


「カル殿から聞きましたが、一時、ポルンをドライアドにお預けになっていたとか。恐らくは、そのドライアドが危機に直面した時も、エスティル様の意を組んで、ドライアドを守護していたものと思われます」

「……ポルン。無理をさせてしまっていたのね。ごめんなさい。そして、ありがとうね。私の記憶を、あなたが守ってくれていたのね」

 エスティルは、瞳を潤わせながら、ポルンを抱き寄せた。

 ポルンは、日中ほぼ寝ている。

 今も眠そうである。

 一つ大きな欠伸をすると、そのまま寝入ってしまった。


 エスティルは、小さくて暖かいポルンを胸に抱いているだけで、幸せな気持ちになっていた。





 その夜。

 エスティルは、ベッドに入ると、すぐに眠気に襲われた。

 ウトウトしながら、いつもの考え事である。


 ------------------------

 私は。

 元の記憶を全て取り戻したいなんて思わない。

 石像にされた理由や事実なんかは気にはなるけれど、今では、もう、知りたくない。

 なぜなら、傷ついたり、怖い思いなんてしたくないから。


 今、精いっぱい生きていることが楽しいし、嬉しい。

 何よりも、生きている実感がある。

 それで、今は充分満足。



 ……だからと言って、自分の過去を全く、知りたくない訳じゃない。

 寂しくなる時もある。


 ある日、シャルティエットが「いずれ、ご家族のもとへお連れ致します」と言ってくれた。

 嬉しかった。


 ずっと。ずっと。

 もしかしたら、自分には家族がいないのでは、独りなのでは、と思っていたからだ。

 自分にも、愛する家族がいることを知って本当に嬉しかった。

 私は、この彼の言葉を思い返して、あたたかな気持ちになる。


 過去の自分なんて、知らないままでいいと思っている。

 なぜだか、知ろうとも思わない。

 嘘のない、気持ちである。


 確かなのは、今の自分が好きなこと。

 だから、今のままでいたくて、従者たちに自分のことは聞いていない。

 流れのままに、過去の自分が受け入れた人は、そのままに、今の私は受け入れている。


 自分は、自分のために、自分のままに生きているのである。

 決して、過去から逃げているとも思わない。


 エスティルは自身の中で繰り返す。


 彼女は、溶けるように深い眠りについた。

=============================

【御礼】

今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、


「興味がもてた!」「続きを読みたい!!」


等と少しでも感じていただけましたら、★★★★★を押して応援いただけますと嬉しいです。

ブックマークも是非ともお願いします。

本当に、更新する原動力がわいてきます。

是非とも、よろしくお願いいたします。

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