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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第二章 王都への旅路
69/130

69 砂塵を抜けて

 馬車の乗り心地が悪い。

 ガタゴト、ガタゴトと揺れている。

 時折、砂塵が吹き抜けていく。


 荒地を進んでいるのだ。

 路面が悪い。

 とはいっても、一応、他の馬車によって地均しがされた轍を移動している。

 そんな乗り心地であったために、しばらく、車内は無言であった。

 けれど、乗っている内に多少は慣れてくる。


「ねえ、クミア。町についたら、直に、あなたのお洋服を買いに行きましょうね」

「あ、うん。ありがとう」

 クミアは、救出した当初は混乱していたが、今では精神的にも安定し、エスティルのことを姉のように慕っている。クミアとエスティルの会話を聞いていると、それが如実に感じられた。


 祖父であるリグルスは、クミアの笑顔を傍で見ていた。

「カル様、私にとっては孫娘の笑顔を見ることだけが生きがいです」

 今、目を細めて語るリグルスに対して、カルは苦笑いしていた。

 

 (死んでいる人に、生きがいを語られると言うのも…)


 そして、彼は孫娘に優しく接してくれている女神エスティルに対しても、その都度、感謝をしていた。

 


「エスティル様、距離は未だありますが、正面左手から砂塵が見えます」

 手綱を操っているオルガからである。


「ええっ! もしかして、また盗賊?」

「いえ、多分バッファローの群れなのかと。この辺で停車していれば、そのまま右手へと目の前を横切って行くものと思います」

「それじゃあ、停車して、通り過ぎて行くのを待ちましょう」

「はい」


 馬の脚が止まる。

 カルは外を見渡してみた。

 すると、いつの間にか、少し景色が変化していたことに気付いた。


 痩せた樹木からなる雑木林が所々にあり、ぽつり、ぽつりと灌木の傍に草や石ころが目につく。

 若干、風が乾いているようにも感じる。

 バッファローは、この風とともに食料となる僅かな草や水を追い求めて、移動しているのか、などと思いながら、見慣れぬ風景に目を奪われていた。


「ああっ!! バッファローの群れが方向を変え、こっちへ向かってきます!!」

 オルガは急いで馬車の向きを変えようと手綱を引くが、間に合いそうにもない。


「300、400、いや、500頭はいるぞ! あれは、トリケラッバッファローだ!」

 ジルセンセの声に、全員が青ざめる。

 正面衝突したら、間違いなく、馬車は破壊され、踏みつぶされて、全員死んでしまうのが目に見えているからだ。


 この魔物。

 三本の角を備えており、額にある中央の角は高級素材として取引されるのだが、如何せん、狩るのが難しい。外皮が硬く、剣を通すには相当な魔力が必要となるため、騎士団でも手を焼くほどな上に、集団で行動をしているからだ。


  

 今更、馬車の向きを変えたところで、間に合いそうにない。

 逃げ切れない。

 それにしても、明らかに動きが不可解である。

 部分的にではあるが、横に整列しつつ向かって来ているのだ。


 突然、エスティルは馬車から飛び降りた。

 自分の魔術を使わなければ、この場は回避できないと思ったからだ。


 トリケラバッファローは鼻息荒く、一直線に砂塵とともに突進して来る。

 大地を揺るがす威圧感が凄い。

 まるで、一頭、一頭が大岩のようである。


 エスティルは、魔術で火の槍を創成しようと思って飛び降りたのだが、眼前の群れが放つ威圧感に恐怖して集中ができない。

 体中に緊張が張り巡る。

 轟音と地鳴りは、さらに大きくなってくる。


「だ、だめ、集中できない! もう、間に合わない!❕」

 エスティルは、叫びながら涙目で振り返った。


 横を向いた際、馬車の上には、カルが剣を一文字に携えていた。

 剣を持つ右手はそのままに、鞘をもつ左手を引くことで、漆黒の刀身が露になった。

 剣の名は『攪乱獣魔の剣』。


 カルは、この剣を暫く抜いていなかった。

 なぜか、これまで見たことがないほどに、激しく赤い電撃を放っている。

 左手で柄握りつつ、半円を描きながら横薙ぎに右から左へと振りきった。

 赤い電撃が不規則に荒野へと散らばっていく。

 すると、瞬く間に大半のトリケラバッファローは混乱に陥っていった。

 前列が、いきなり倒れたことで、以降の後列のトリケラバッファローは大転倒となり、物凄い量の砂塵が舞っている。


「す、すげええ----、ラットの比じゃないぞ!! こ、これなら、魔物に集団で襲われても大丈夫だ! って、ペッ、ペッ」

 ジルは興奮のあまり、大声を出したため、口の中に砂が入ってしまい、吐き出している。


 一列目が倒れた後も、屈することなく、踏みつぶして、後続の一団が向かってきた。

 荒野に雄叫びが鳴り響く。

 その様子を目にしても、カルは容赦することなく、二度、三度と振りきっていく。

 砂塵の中で、赤い衝撃破が見え隠れしている。



 そして、全てのトリケラバッファローが地に伏せた。


 これまでが嘘のようである。

 大地から雄叫びも、地鳴りも、消え失せた。

 今は、一転して風の音だけとなっている。


 安心したのか、エスティルは脱力して、その場で女の子座りでしゃがみ込んでしまった。

それを見て、オルガとフェルビーが駆け寄って来た。

「「 エスティル様!! 」」

「大丈夫よ。二人共、ありがとう。オルガ、あなたは手綱をお願いね」

「分かりました。自分は馬を宥めてきます」

「そうね。お願い」


 馬車の屋根上に立っているカルの元に、リグルスが宙に浮きながらやって来た。

「再び、クミアの命を救って頂きまして、ありがとうございました。この御恩…」

「ああっ、もういいよ。そんなに長いお礼をいわれても…一言でいいから。それにクミアだけを救った訳でもないしね」

 二人は微笑んだ。


 エスティルは出発しなければと思い、その場で立ち上がると、魔術で火の槍を打ち込み、魔物を消炭みにして馬車の通り道を作りだした。


 一連の経緯、剣技や魔術を見ていたランドルは、驚きの連続で腰が抜けていた。

「いいか、ランドル! お前は、これだけのメンバーに護衛を任せたんだ。金貨600枚じゃ安いと思わないか?」

 この場で、行き成りジルは護衛契約の再交渉を始めた。


「た、確かに。この契約額は、お、俺の命の値段でもある」

「いいか、俺様達の事については一切口外しないでくれ。だから安くしているんだからな。今回、カルが撃退したこと含めて、全て言うんじゃないぞ」

「も、勿論、言う訳ないだろ、基本、冒険者の情報は言わない。特に能力については、他言しないのがルールだ! それ位は分かっている。誓う。此奴だって分かっているから」

 ランドルは秘書の方を指さした。


「もし、話したりしたら、俺様はお前がいい年をして、おしっこを漏らしたことを貴族や商業ギルドの面々にばらしちゃうからな」


「げっ、や、止めてくれ、絶対に話さないから、頼むから止めてくれ!」

 ランドルは必死である。

 生き馬の目を抜く、商人の世界で、一旦弱みを握られると相手に付け込まれるし、こんな下品な話しが、貴族の耳に入れば二度と相手にして貰えないかも知れないのだ。


 結局、ランドルは、こちらが要求を一切していないのに、金貨400枚の報酬を追加してくれた。クミアは金額を聞いて、眩暈を起こしている。

 

 暫くしてまたしても、オルガが急を告げてきた。

「エスティル様、今度は右手に騎馬の集団が見えます。向こうは気付いているようで、こちらに向かって来そうです」

 オルガは、御者の座を誰かに任せたそうに、目で味方をおっている。


「ええっ! 今度こそ、盗賊?」


 こんなところで、戦闘になり、馬車が壊されでもしたら大変なことである。

 リグルスは指示を待たずに、馬車の壁を擦り抜けて、宙に浮かびながら偵察に出た。


 すぐに、リグルスが戻ってきた。

 報告によると、謎の騎馬は盗賊ではなく、伯爵家の騎馬隊らしいとのこと。


 騎馬隊は、暫く、並走した後にカル達の馬車に寄せて来て、停車するよう指示をしてきた。

 勿論、揉め事になるのは回避したいので、一行は馬車を止めた。


 すると、立派な鎧を着た騎馬隊長らしき男が、近寄り話し出したのである。

「盗賊らしい一団が、ここを通ったとの情報があったのだ。我々は警備のために、辺り一帯を巡回している。あなた達らが領内へ来るのであれば、護衛をつけますが、如何かな」


 グリズリンと名乗ったこの騎馬隊長は、体も大きく、見た目も熊に酷似していた。


 ランドル・ハークレイは、護衛の話を聞くと感動して涙した。

 命を狙われている彼にとっては、護衛は多ければ多いほどにいい。

 彼は是非にと、声を大にして頼み込んだ。

 その際に、自分がハークスレイ家の三男であることを明かしたのである。

 すると、グリズリン騎馬隊長は自身が護衛に同行すると言い出してきた。


 ビルトリアン伯爵家とハークスレイ家は、比較的関係性が深いのである。

 実は、今、ランドルの秘書の一人が滞在していることもあり、その場で話が盛り上がった。


 とんとん拍子で、話が進んでいき、カル達が割り込む隙間もなく、騎馬隊に守られながら、荒野を進んだ。


 こうして、俺達の馬車は、騎馬隊に護衛されながら伯爵領に到着した。

 領内に入るにあたっても、身分証明書を見せることもなかった。隊長が事情を話す以前に、門番がランドルの顔を覚えていたのである。


 屋敷の前には、既に滞在しているランドルの女性秘書が出迎えていた。

 馬車からランドルが降りると、女性秘書が駆け寄ってきた。

「ランドル様、お会いしたかったです~。寂しかったぁ」

 そう言うと、それ以降はランドルにベッタリである。

 着飾ったドレスは、露出が多く、艶めかしいものであった。


 この女性は秘書なのであるが、実質、ランドルの愛人のような存在であった。

「えへへ、俺も寂しかったよぉ。ヒムルカ~」

 ランドルの目が幾分いやらしい。

 二人でベタベタし始めて、グリズリン隊長も苦笑いをしている。


「お、そうだ、バス、お前が冒険者達の相手をしておけ、俺はヒムルカと伯爵様にご挨拶をしてくる」

 ランドルは、馬車の中にいた時とは、うって、かわっての、ボンボン振り全開で、偉そうである。お気に入りのヒムルカと会えて、ご満悦なのである。


「あんた、名前、バスっていったの。あいつ、名前を呼んでいなかったから、今初めて知ったわ」

 エスティルは、ランドルの変わりように、少し怒っている。

 バスとは、これまで、ずーっと馬車の中で、ランドルに付き添い、足蹴にされてきた秘書の名前である。


「す、すみません。ヒムルカさんは、凄く優秀な方なんです。それでいて、あの美貌ですので、ランドル様は『大』のお気に入りなのです。何か御座いましたら、私めにお申し付けください。そうだ金貨を降ろしてきますので、しばし、お待ちくださいね」


「なあ、カル。俺様達は伯爵家には泊まれないんだから、さっさと宿探しに行こうぜ」

「そ、そうですね。皆行こう。そうだ、バスさん、お金は宿が決まったら取りに行きますので」

「あ、それでは、可能な限りお金を用意しておきますね」

 バスは笑顔であった。

 カル達は、「可能な限り」と言われて、前金が多く貰えることに単純に喜んでいた。


 ビルトリアン領は、ムリアズの町に比べると、町に活気もあり、人通りも多い。

 なぜか、すれ違う人々が、不思議とこっちを見てくる。


 ……すぐに、原因がわかった。

 それは、クミアがお姫様抱っこをされているからである。

 服装が汚れていることも関係しているかも知れない。

 因みに、救出後三度ほど、エスティルが体を布で拭いてあげていることもあり、臭いはそれ程ではない。


 なぜ、お姫様抱っこされているのかが、人々は疑問に思うのだろう。

 結構目立ってはいる。

 見世物みたいになってしまっているが、しかたがない。

 クミアはまだ、一人では歩けないのだ。


 本人は、たくさんの視線に耐えられないらしく、耳を真っ赤にて下を向いている。

「早く、早く、お宿を取ってください…お願いします」

 

 奥ゆかしさが可愛い。


 ……いや、もしかすると目立っている原因は、抱っこをしているフェルビーの容姿であったりする。

 デカいし、坊主で怖そうなのだ。


「んぐっ?」

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【御礼】

今回も、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、「興味がもてた!」「続きを読みたい!!」等と少しでも感じていただけましたら、★★★★★を押して応援いただけますと嬉しいです。

ブックマークも是非ともお願いします。

本当に、更新する原動力がわいてきます。

是非とも、よろしくお願いいたします。

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