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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第二章 王都への旅路
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64 異物

 話は、かなり昔へと遡る。



 樹々の葉が落ち、寒風が吹き始めた頃、ムリアズ男爵家に男の子が誕生する。

 男爵は、長年、子供には恵まれず、待望の赤ん坊であった。


 出産当日。

 元気よく、泣く、赤ん坊の声が屋敷中に響き渡った。

 その声を聞いた屋敷の誰もが、笑顔となり、周囲は喜びに包まれる。


 だが、それも束の間であった。

 出産に立ち会っていた者達からは瞬時に笑顔が消えたのである。


 なぜなら、生まれた赤ん坊には、外的に一つの『特徴』があったのである。

 そのことを知った男爵とその妻は、悩みに悩み抜いた末、『特徴』については一族の秘匿し、赤ん坊には出来る限りの愛情を注いで育てていくことにした。


 二人の愛情に育まれ、男の子は、すくすくと成長していった。

 男爵とその妻は、我が子が真っすぐに成長していく様を見て、目を細めていた。

「あの子は優しく、立派な領主となってくれますわ。あなた」

 妻の言葉に、男爵も頷く。

 男爵としては、優しすぎて、貴族としてやっていけるか心配になるほどであった。



 5歳の誕生日を迎える前の日のことである。 

 男の子は原因不明の高熱に魘され、倒れた。

 医者にも匙を投げられ、両親は悲しみのどん底に落ち、嘆き続けていた。


 そして、10日後の早朝に、彼は目覚めた。

 高熱の影響なのだろうか。

 目覚めた我が子は、両親から見て、まるっきりの別人のように思えた。

 

 それもそのはずであった。

 実のところ、男の子は高熱に耐えられなく、最終的には亡くなっていたのである。

 そして、入れかわるように亡くなった男の子の肉体に、別の命が宿る。……その新しく宿った命は転生されたものであった。


 異世界転生して、男の子の肉体に宿った『彼』は、現実を理解すると絶望した。

 転生して手に入れたこの肉体には、普通の人と違う身体的な『特徴』があったのである。


 彼は自分にある、この『異物』の存在を恐れた。

 もしも、この『異物』のことが、世の中に知られた場合、自分は捕まって殺されてしまうかもしれないからだ。

 ここは異世界。『彼』のいた世界とは違う。時代にもよるかもしれないが、極端に廻りと違う場合、異物と判定されて、碌に話も聞いてもらえずに殺されてしまうということは、あり得ることである。


 だが、それは杞憂に終わる。

 家族が全力で、彼を守り続けてくれたのだ。

 そのため、彼の『異物』の秘密は、外部に漏れることはなかった。

 依頼、数十年が経過し、今ではこの秘密を知っているものも少ない。

 

 だが、当時の彼は守られていることに安心すると、すぐに彼は、この状況を不満に思い始めた。

 なぜなら、彼は自分が意図したものへと転生が出来なかったからである。

 自分と比べて、他の転生者はどうだ。

 200年以上前に召喚された者たちは、チート能力を持ち、駆使して、活躍し、勇者、英雄となっている。

 自分も、どうせ異世界転生をするのであれば、そういう人生を歩みたかった…。


 彼は転生した自分の、この肉体の『異物』を、どうしても、受け入れることが出来なかったのである。

 時が経つに連れて、彼の不満は両親へ向けられ、募っていった。

 両親といっても、当然、本当の親ではない。この世界で親子関係になったというだけである。

 

 彼は、全ての不満は親のせいだと、事あるごとに難癖をつけて、父親と衝突を繰り返していた。

 …自分自身は大した努力もしていないのに。

 だが、その両親も他界してしまう。


 父の死に伴って、彼は男爵位を引き継いだ。

 すると、これまでは、父の威光により、文句を言えずに黙っていた親戚等の一族が、『異物』の秘密を漏らすと脅してきたのである。


 彼の心は限界であった。ここで、彼は一族と戦うことを決意する。

 元来、彼はこの世界の人間ではない。

 気がつくと、赤ん坊となり、異世界に一人送られていたのだ。

 いつ、この『異物』のことが廻りの者に知られて、殺されるかもしれないと思いながら、これまで生活し続けてきた。

 …彼にとって、異世界人は敵、…いや、同じ人間であると認めていなかったのかもしれない。そのような考えもあってか、異世界人の命を軽いものと捉えていた。

 故に身内含めて、殺すことへの罪の意識が低かったのである。

 次々と、彼の敵、もしくは敵になりそうな者を手にかけていった。

 

 そんな時であった。

 邪な輩のもとには、邪な者が寄ってくるもの。

 

 怪しげな商人が、声を掛けてきたのである。

 当然、見ず知らずの者を屋敷へと上げるはずもない。


 出会いは森の中。

 彼が脅してきた一族の一人を殺した直後の出来事である。

 怪しげな商人は、見返りを要求することなく、魔法付与がされた高級な小箱を彼に渡すと森の中に消えていった。


 小箱の中には、黒い鉱物の欠片が入っていた。

 この欠片が、彼の道をさらに狂わせていくのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ところ変わって、こちらは男爵邸の正門前。


「で、何で入ろうとしないのよ」

 エスティルは、もどかしい。


「い、いや、何か、流石の俺様も貴族の屋敷に行き成り、入るのはどうかと思って」

「で、では、ハークスレイ家の秘書が参ったというのは、如何でしょうか」

 中年の秘書が、おどおどとしながら提案してきた。


「秘書が事前のアポもなく、行き成りくるなんて、変でしょ! 取り次がれる訳ないわよ。ましてや秘書だけじゃ」

 エスティルの冷たい視線が、中年の秘書の体を貫いた。


「そんなこといったら、突然来て、中に入れて貰える人なんか、この中にいないだろ! あっ、それだ! カルなら取り次いで貰えるかも」

「んな訳ない。ジルセンセ、適当過ぎます」

「フェルビーに持たせている剣! 公爵家の家紋が入っているだろ! あれでいけるんじゃ!」

「何が流石の俺様よ!! そもそも、何で、そんなことしないと、いけないのよ! 敵よ、悪い奴なんだから。どうして礼を尽くすのよ」

 エスティルの口もとは、ヒクついている。怒っているのだ。


「「『「 確かに 」』」」


「先頭はリグルス! 案内して」

 エスティルが指名する。

 彼女は、いきなり上官となることがある。

 ジルは既に身をもって経験しているので、文句はない。理解している。

 従者二人にも緊張が走る。


「ははっ」

 リグルスが返事をする。

 …声を聞き取れるのは、二人と一巻である。


「フェルビーは、この門を斧で壊して!」

「んぐっ!」

 言われて、フェルビーは、一回の空振りの後、門を破壊した。

 フェルビーは、目標が動かなければ得物を当てられる時もある。


 屋敷のそこかしこから、悲鳴やらが聞こえてきた。

 雇われている侍女や使用人の声である。

 何が起きたか分からずに、皆、逃げ惑っている。

 さすがに、屋敷の警護団が集まってきた。

 しかし、オルガの槍で次々に気絶させられていく。


 屋敷の扉には防御魔術が施されていたが、これも、フェルビーが難なく斧でぶち壊す。

 建物の中へ入ると、リグルスの案内のもと、地下室へと通ずる部屋を目指した。


「何か、順調過ぎて怖いくらいだ」

「ジルは、普段『俺様は』何て言う割には、こういう時、弱気なのよね」

「順調じゃなければ、怖くないってことなんだ! この先、順調じゃなくなるだろうから、一日俺様は怖くないってことだ」

 珍しく、ジルが言い返す。

 俺が見るに、ジルセンセは、まだ、大丈夫そうである。

 それにしても、咄嗟に言い返したにしても、「順調じゃなくなるだろう」というのは余計である。

 

「こんな時に、めんどくさいこと言わないで」

「ううっ」

 エスティルは至って気にしていないが、ジルは少し傷つく。


 地下室への隠し階段の前迄来た。

 隠されているだけあって、結構横幅が狭い。

 大の大人一人分の幅員しかないのだ。

 それを見たエスティルは、オルガに、ここで待機するよう指示するも、本人はついて来ると主張している。とは言っても、槍の長さからして持っては入れない。

 冒険者が得物を置いて、戦いの場に向かうというのは、自殺行為である。

 エスティルが諭そうとすると、オルガは槍に魔力を注ぎ込んだ。すると、オルガの槍は優しい光を放つと、刃先がなくなり、長さも150センチ位になったのである。

 驚いて魅入ってしまったが、問題が解決したので、直に、順々に階段をおりることとした。


 ハークスレイ家の秘書が、杖を使い光球を作り出す。

 階段下が照らされ、皆でゆっくりと降りていった。

 リグルス、カル、ジル、オルガ、エスティル、秘書、パメラ、フェルビーの順である。フェルビーが最後となっているのは、彼は体が大きいので、真後ろの人が前が全く見えなくなると不安だろうということで、最後から来させることにした。


 階段下の地下室の扉前に着くと、リグルスが此方を向いた。

「丁度、この扉の向こうにいます。中を見てきます」

 そう言うと、リグルスは扉をスーッとすり抜けていった。


「なんか、自由に壁を通り抜けられると、プライベートも何も無いわね」

 エスティルが小声で言うと、後ろの中年秘書も反応した。

「何のことです? もし、そんなことが出来るのなら、好きなだけ覗けますな」

 独特の喋り方である。

 ドスッ!

 エスティルの肘打ちが秘書に炸裂した。

「ぐぐ、ぐぐぐぐっ」

「いやらしいわね! 次、そんなこと言ったら、本気で殴るわよ」

「んば、い…いぃ」

 秘書は「はい、気を付けます」と言いたかったのだが、言葉が続かずにその場でうずくまってしまった。因みに、彼はリグルスの存在を知らない。


 音一つ無かった扉の奥から、悲鳴が鳴り響いてきた。

「ヒイイイッ!」

「やめろおおおおっ!」

「リグルスの声だ!」

 カルは扉を急いで開け放った。

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【御礼】

今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、興味がある。続きを読みたい と少しでも思いましたら、

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是非とも、よろしくお願いいたします。

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