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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第二章 王都への旅路
63/137

63 もう、決まりね。

 馬車は、ゆっくりと進んでいた。


 エスティルはご機嫌である。

 何故かというと、自前の馬車が手に入ったからである。

 御者が死んだので、自分のものと思っているのだ。


「あ、あの。もともとは、この馬車は盗賊が盗んだものなので、正確には盗まれた元の持主の馬車なので、騎士団等に返すものかと」

 パメラが遠慮がちに言う。


「 え~~ 」

 エスティルは不満気な態度である。


「やっぱし、そうだよね」

 カルも、同意見である。


「 え~~ 」

 エスティルは他に言葉がでてこない。


「そ、それでは、次の町で私が馬車を買いましょう」

 ランドルが勢いよく、宣言した。

 格好つけたつもりである。

 

「!! さっすが、金持ちね。到着したら直に買いに行きなさい」

 エスティルは、打って変わって上機嫌となった。


「い、行きなさい?……」

 ランドルは自分がお金を出すのに、命令されているこの状況に不満があるのだが、なぜだか、エスティルには直接文句が言えない…。


 カルやジル、従者らは、ここで口を挟むと、買いに行かされるのが目に見えているので、皆、黙っていた。



 馬車は、ムリアズ男爵領が治める小さな田舎町に到着する。


 エスティルは、やっと食事が出来ると、いの一番に立ち上がり、馬車から降り立つと陽の光の強さに驚いていた。


「あっ、雇い主よりも先に降りるとは!」

 ランドルは小さな声で発したが、地獄耳のエスティルには聞こえていた。


「何か文句あるの! 森からここまで、守ってあげたんだからね! 別にあんたのこと、偉いなんて思ってないからね!」

 エスティルは振りかえると、怒って言い返した。

 お腹が空いているのもある。いや、お腹が空いているから、こそである。

 降りた途端に、厳しい陽射しを受けたのも影響しているのだろう。

 

 ジルは、エスティルの機嫌が悪くなったのを見て、傍には寄りたくないと思い、カルに続けて下りるよう促した。

 カルも、促された理由は分かったが、仕方がないなと思い、彼女に続いて降りた。

 すると、様子が変である。


「どうしたの? エスティル」

「……何か、変な視線を感じる」

 カルは周囲を見渡すも、人は殆どいない。

 馬車の往来の時刻でもなければ、人なんて、こんなところにいるはずもない。

 続いて、ジルが降りて来る。

 結局、4番手となったランドルは、小いいぃさい声で文句を言っている。

 

 全員が降りると、パメラは馬車を所定の場所へ止めるため、移動させに行った。


「ふご、ふごっ」

 フェルビーが、何やら見つけたのか、指を差している。

 彼は、話すことができない。

 だが、少しでも、主人にいいところを見せたくて、いつもならオルガを通して伝えるところを、何とか伝えきった。


「フェルビー、さすが! みんな! あのレストランで食事をしましょう」

 エスティルに、褒められて彼は満面の笑みである。

 これを見て、オルガも何かをしなければと焦りだした。

 この前、ジルに差を付けられたのもある。

 彼女は、まさか、フェルビーにリードをされるとは思っていなかったため、何とか、早い段階で主人に役に立たなければと気合をいれていた。


 この小さな町に1件だけある。外装がとても綺麗なレストラン。

 旅行中の者らは、ほぼ、必ずと言っていいほど、立ち寄るお店である。

 特に若者は、入りたがるのだ。


 五人は、当然、馬車を買いに行ったランドル達を待つことなく、すぐに思いっきり食べまくった。

 お腹いっぱいになって、満たされた頃に秘書とパメラが入って来た。


「あれ、ランドルさんは?」

 カルの問いに二人は驚いた。

 特に秘書は驚いていた。実際に馬車を買いにいったのは秘書であり、ランドルは戻ると言って、途中で別れていたのである。

 二人は隣のテーブルについた。


「あっ、パメラさんも、何か好きな物を召し上がってくださいね。カルが御馳走してくれるから」

「あ、ありがとうございます。」

「大丈夫ですので、金額関係なく、好きなものを注文してくださいね」

 実際、今のところ、お金は十分にある。その上に、後日、護衛の代金も入ってくるのだ。


「カル、カッコイイね。ふふ」

 エスティルは、カルの気前の良さに御機嫌である。


 ランドルがいないこともあり、皆で楽しく、過ごしていた。

 ふと、ジルが気付いた。

 カルの様子が変なのである。

 動きがぎこちない。体が固まっているようなのだ。


「おい、カル、どうしたんだよ」

「…ジ、ジルセンセ、あ、あそこの角に、正装した老紳士のような人って見えます?」

 カルはガチガチである。首だけがジルの方を向いている。

「ひ、人なんかいないだろ! 何言っているんだよ。変なこというなぁ」

「そ、そうですか…」


 姿勢よく、立ち続けている半透明のリグルスの姿が、カルには見えていた。


「エ、エスティルは?」

「な、何で、わ、私に…き、聞くのよ。聞かないで、…じ、自己完結してよ。み、見えてなんか、な、ないんだから」

 彼女もガチガチである。

 

 ………エスティルにも見えていた。

 実は、この幽霊はエスティルのことを、ずっと見続けていたのである。

 しかも、凝視している。

 今、微笑んだ。


『あれは、霊体じゃ、幽霊といってよいかの』


「いやああああ--------------っ」

 エスティルが叫んだ。幽霊が話してきたと思ったのである。

 ジルも、どこから声が聞こえてきたのかと廻りを見廻している。


 聞きとれなかった秘書とパメラの二人は、良く分からないままに、咄嗟に料理の皿を持ちながら移動した。


「ルバート、紛らわしいよ」

 カルは、ジルとエスティルに、ルバートの存在を話していなかった。


「カルッ!! 怖い、怖い、何とかしてぇ!!!」

 あっさり、エスティルは見えているのを認めた。泣き声まじりである。

 カルの腕にしがみついている。


「ル、ルバート、あれって、どうすれば…」

 そう言って、カルはリグルスへ視線を送る。

『まず、そちらの娘は、何かしらの能力が高いために見えておる。お主は、我が巻き付いているが故に、見えているのじゃ。霊体なぞ、別に害はない。何も出来ぬ。その内に立ち去っていくものぞ』


「そっか、害はないのか。ふう。……だって! エスティル」

「だって、じゃないわよ! そもそも、あんたは誰と話ししているのよ! 恐いわ! 怖いわ! 独り言だったら、それはそれで、なお怖いわ!」

「……なんだい、それ⤵」


 カルは、隣のテーブルには聞こえないように、ルバートの存在について、二人に話した。ルバート自身も、この二人は、カルにとって、かけがえのない人物だと理解していたため、自信の存在を知らすことに同意してくれた。


「じゃ、じゃあ、ジルもカルの左腕に触れたら、見えるってこと?」

 エスティルは、半信半疑のジルにも幽霊を見せたいらしい。

「何で、俺様が見なければならないんだよ!」

「あんた、幽霊も見ることが出来ないで、ダンジョンに入れると思っているの! 見ないんじゃ、仲間失格よ! 失格!」

 そこまで言われたら、ジルセンセも引くことができない。

「わかったよ! これくらい、なんだよ!」

 威勢は良かったが、実際、本当に見えると、ジルは腰が抜けてしまった。



「………そろそろ、宜しいでしょうか」

 隅に立っていた、幽霊………リグルスが話しかけてきた。

 さすがは、元執事である。話が落ち着くまで、待っていてくれたのである。


「う、うわわわっ! 去るどころか、話しかけてきた!」

 さすがに、カルも仰け反った。


「私と取引をして頂きたいのです」

「「「 とっ、取引ぃ? 」」」

「はい」

 唐突にそう言うと、リグルスは自分の話を始めた。


 ある日、帰宅すると最愛の家族は殺され、自分もその場で、すぐに殺されてしまったこと。その後、霊体となり、孫娘が監禁されていることを知ったものの、霊体である自分では助け出すことが出来ないこと。

 リグルスは、これまでのことを正直に全て伝えた。

 そして最後に、孫娘を救い、復讐を成し遂げて貰った暁には、自分が消滅するその日まで、忠誠を誓うと取引を持ち掛けて来たのである。


 …カル、ジル、エスティルは、その話を聞いて、取引としては成り立たないだろうと思っていた。なぜなら、恐らく、彼は願望を全て成し遂げたら、この世に未練がなくなり、成仏して、直に消滅するだろうと考えたからだ。

 それに、忠誠とは取引するものではない。この場合は契約ではなかろうか。


 だが、もとより取引が問題なのではない。

 こんな酷い話を聞いて、何もせずに去ることが、三人には出来なかった。

しかし、恐ろしいという一面もある。この世界、自分が剣を抜けば、相手も抜く。行動には、命のやり取りがついて廻ることが、普通であるのだ。


 また、メリーザ様やリエルのことを考えると、一刻も先を急がなければならないという思いもある。


 けれども、治安業務を取り行うはずの領主が狂っているというこの現状。

 やはり、カル達は、このままにしては、おけなかった。


 そんな風に考えていた折、食器を片付けに来た初老の女性から1枚のメモが渡された。


    “悪いことは言わない。直ぐに乗って来た馬車で、ここを立ち去りなさい”


 領民は犯人の正体は知らないかもしれない。しかし、次々と若者が行方不明となっている事実は知っているということだ。

 カルは、店員である初老の女性に笑顔を返す。

 その際に、パメラと目が合った。

 パメラは不安そうな表情をしている。

 良くないことが起こっていると、直感でわかるのだろうか

 カルは、ここは二人の意見を聞いてみようと、若者が監禁されているという事情を話してみた。

 話を聞くと、パメラと秘書は黙り込んでしまった。

 

 沈黙が続く中、いきなり、ハークスレイ家の秘書が、ランドルも攫われたのではないかといいだした。独りで行動していたのだ。なきにしもあらず、である。

 秘書は、即座にランドルも一緒に救い出して欲しいと懇願してきた。

 しょっちゅう、蹴られていたのにである。

カルは勿論ですと、力強く答え、行動力のジルは交渉を始めていた…。


 助けに行くことは決まったものの、これからどう動こうかと思案しだしたところ、正面から全員で乗り込むことになってしまった。エスティルの一言で、である。

 個人的には、もう少し考えた方が良いとも思ったが、リグルスのアドバイスも手伝って、特に反対意見はなかった。

 小さな町であるため、王都からの騎士団の派遣もなければ、自前の警護団もないため、兵力はたかが知れている、作戦としては十分に可能に思えたのだ。


「一つ、確認したいことがある…」

「なんですか? ジルセンセ」

「あの幽霊の言っていることが、嘘で、屋敷の地下に誰も捕らわれていなかったら、皆、死罪確定だぞ! 相手は貴族なんだからな!」

 カルは、それを聞いて顔が強張った。いや皆、強張った。

 今のいままで、リグルスの話を誰一人、疑っていなかったのである。


 それを聞いて、リグルスは大声で弁解した。

 と言っても、大半の人には聞こえないのだが。


「カル様、私は貴方様の左腕に誓って、一切、嘘は申しておりません」

 どうやら、リグルスには、俺の左腕が特別尊いものに見えているらしい。

 満更外れてもいないのだが…。


 ルバートが、自分に触れた状態で再度誓わせれば、本意かどうかが分かると言うので、リグルスに誓わせてみた。

 すると、嘘は言ってないとルバートが証言した。

 それならばと、俺らは彼の言う事を信じることにしたのである。


 因みに、従者二人にも、ルバートの存在を伝えてはいない。

 エスティルが行くと言った時点で二人は同意となるのだ。

 なので、信じた根拠についての説明なし。…面倒くさいので。



 一行が町内の屋敷正門まで来ると、フェルビーがランドルの臭いが残っていると伝えてきた。

「もう、決まりね」

 エスティルはやる気である。

 先程まで、リグルスに恐れ慄いていたエスティルだったが、カルの従者だといったイメージが定着したらしく、怖さは半減したらしい。

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