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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第二章 王都への旅路
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61 護衛と御者

 ルーニー村を出発。

 俺達は、村を二つ通り過ぎてミューラー領から出た。

 ここから次の町までが、遠いのだという。


 風が吹くと寒いときもあるが、少しずつ暖かくなってきている。

 馬車に揺られながら、草原から受ける風は心地がいい。

 草原を抜けたあたりで、御者の男から少し休憩をとりましょうとの提案をされた。

 俺達は乗っかっているだけで、ずーっと休憩しているようなものである。

 なので、実質、休憩をとるのは馬と御者の人ということになる。


 木陰で馬車が止まった。

 さすがに手慣れている。

 少し道から逸れたところであるが、涼しくて、一休みするには丁度良い。

 御者が言うには、取って置きの場所だという。

 折角なので、皆で馬車から降りてみた。

 すると、決め事のように、全員揃って伸びをした。

 フェルビーの伸びは、でっかいので壮観である。

 夫々が、軽く体を動かし始めている。

 

 俺らの他に同乗者は四人。

 小太りで、身なりの良い20代の男。と、そのお世話係もしくは秘書といったところか、ことある毎に怒られている中年の男。そして男女の護衛が一人づつである。護衛の二人については、男は若いが、女の方は年季がいっている感じで、旅路の護衛は慣れていそうである。若い男に指示しつつ、自分でも周囲を警戒している。


 中年男性が叱咤されているのを横目に御者の男は、ゆっくりと台座から降りると手綱を引き、馬が逃げないように手綱を木に括り付けた。

 馬は地面の草を嬉しそうに食べ始めた。


 御者の男は馬に水を飲ませるため、一緒に水を汲みに行くのを手伝ってくれないかと、体躯の良いフェルビーにお願いをしている。

 フェルビーは馬が大好きなので、馬と触れ合っていたかったのだが、話を持ち掛けられ、馬のためならと一緒に行く気になった。


 エスティルが許可を出すと、フェルビーは喜び勇んで、大きな桶を持ち、御者と伴って、一緒に水を汲みに行ってしまった。


 カルは切り株に腰を掛けていた。

 風が吹くと、少し、肌寒くも感じる。


 小鳥が鳴いている。

 これだけで、辺りに魔物は出ないだろうとわかる。

 俺の中にも、少し余裕が出てきたのだろうか。

 冒険者らしくなってきたということなのだろうか。

 そう考えると、自然に少し笑みが零れる。

「冒険者か…」


 あ、いや、…この知識、サックに教わったものだった。

 …つまりは、村人レベルである。



 風が抜けて気持ち良く感じていたのも束の間であった。

 小鳥が、急ぎ飛び立つ。

 出てきたのは魔物ではなく、人族らしい。

 木々の後ろに隠れていたようである。

 馬車は囲まれていた。


 人相からして悪人である。盗賊にしか見えない。

 人間だけではなかった。中には獣人も多数いる。

 頭目らしき男は、剣を持っている男は全て殺せと部下に指示している。

 間違っても、身なりの良い奴は殺すなと。


 カルは腰の剣を抜いた。

 敵は見える範囲で20~30人程いるのだが、特別な恐怖は感じなかった。


 取り囲まれたのは、初めてではないからだ。

 過去にホーンラビットに囲まれ、死ぬ覚悟で、飛び込んだことがある。この経験があったからだろう。それほどの恐怖はなかった。


 人間を喰おうと牙や爪を剥き出し、角を向け、集団で襲おうとしてくる魔物と眼前の盗賊を比べると、威圧感に差があり過ぎる。

 だからと言って、手加減はしない。なぜなら、こちらよりも敵の数の方が多いからだ。


 カルは容赦なく、即2人を斬り伏せた。


 人を斬る。

 いくら、自分の身が危険であろうと、実際に自分の手で殺したとなると、自身の心に傷を負うものと思っていた。いや相手の返り血を浴びて、恐怖するのが当然なのだろうと。


 けれど、現実は違っていた。

 多分これは、俺には前世の記憶と前前世の記憶があったからだと思う。

 この世界で生き延びていくために、二度の人生で剣を振るってきたのだ。

 だから、人を斬っても心内に動揺が生じ無いのだと思う。

 いや、そう思いたい。


 既にカルはこの世界にきて、幾度となく目にしてきた光景がある。

 それは、人族同士の戦いである。

 そして学んだ。


 この異世界においては、自分に剣を向けてきた者はその時点で敵である。斬って、斬られて、当然の弱肉強食の世界と言っても過言ではない。剣を抜かれて、脅しかも知れない等と思えば、即、死に至る。


 カルは平然と盗賊を斬り伏せた。その状況を目にした盗賊らは、一瞬怯むも、頭目の一声に後押しされ、一声に飛び掛かって来た。


 カル達を襲ってきた盗賊は哀れであった。


 次々と、エスティルのウインドエッジで肉体を斬られ、オルガの槍で突かれ、即死していったのである。振り掛かってくる火の粉は振り払う。二人にも迷いは無かった。


 カルは最初に二人を斬っただけで、後は剣を振るうこともなく、片が付いてしまった。


 一方で、馬車を挟んだ反対側では、既に若い男の護衛は斬り殺されていた。

 年季の入った女の護衛も深手を負わされ、命の危機に瀕している。


 小太りの若い男は、顔面蒼白で震えて動けずにいた。

 そこへ、カル達が馬車の反対側から廻り込んで来たのである。


 カル達を見て、こちらに移動していた頭目の表情が青ざめた。

 反対側の仲間が、全員殺されたことを理解したからである。

 その後は早かった。

 頭目の指示のもと。盗賊どもは皆、一目散に逃げ去ってしまった。

 

 それを見た小太りの若者は、今のいままで、縮こまって震えていたくせに、急に怒り出すと、中年の男性を棒で殴り始めたのである。


「こ、この役立たずめが! この俺に、もしものことがあったら、どうするんだ! 何年、秘書をやってきているんだ。お前は!! お前が選んだ護衛は、全く役に立たなかったじゃないか! 屋敷についたら、たたじゃおかないからな!! この能無しめが!」


 そう言い、小太りの若者は、中年の秘書を足蹴にしていた。


 その若者は怒りが収まると、女性の護衛を治療していたエスティルの傍へやって来た。そして、エスティルに護衛の依頼を持ち掛けてきたのである。


 エスティルは、死んだ若い護衛のことも、今、大怪我している女性の護衛に対しても、全く気にかけようとしない、この若者を許せなかった。

 治療が終わったら、とっちめてやろうと思っていたところなのである。


 そう思った矢先、ジルが割り込んできて、あっさりと護衛の話を承諾してしまったのである。

 内容はというと、期間は二つ先の中継地点となる男爵領まで盗賊から守りきるといった具合で、金額は破格である。


「俺様の交渉力、行動力は、凄いだろっ!」

 ジルは自分の活躍で臨時収入が入ったのだから、褒められるとばかり思っていた。

「ちょっと、一体、どういうつもりよ。ジル」

 エスティルに強く言われて、ジルの耳が少し折れる。

「なんで、あんな奴を守ってやらないといけないのよ! 勝手に決めて、…あんた、一人で、守りなさいよね。私は知らないからね」

 ジルは、エスティルの言葉を聞いて真っ青である。

 エスティルが降りるとなれば、当然、従者のオルガもフェルビーも強力しないということになる。ゆっくりと、カルの方を見る。


「カルは私の騎士なんだからね!」

「だそうです。センセ」

「カル~」

 例によって、困ったときは、この顔、この声、この言葉である。


 その会話を聞いて、今度は小太りの若者が顔面蒼白である。それはそうである。今、盗賊が戻ってきたら、守って貰えないのだ。

 交渉相手を間違えたことを認識した彼は、すぐさま、エスティルの前に跪いた。


「先程の倍の額をお出しします。どうか、どうか、護衛をお願いいたします。あんな大勢でまた来られでもしたら、直に殺されてしまいます。我々だけで、生きて町へと辿り着くことなんて無理です。どうか人助けと思って護衛をお願いいたします」


 これまで目にして来た態度とは、打って変わった態度である。

 けれども、どうせ、また盗賊が来たら結局は守ることになる。それなら、こいつからせしめて、死んだ若い護衛の家族にでも、金貨を送ってやった方がいいのではと、皆で密談を開始した。

 結果、全会一致で護衛することに決まった。

 エスティルは仕方なしと言った感じである。


 その結果、護衛の女性は、その場で首を言い渡された。

 解雇である。

 当然である。

 カル達がいなければ、間違いなく、全員皆殺しにされていたのだから。


 この首になった女性、名をパメラという。

 彼女は、この道のベテランである。

 容姿は中肉、中背だが、筋肉も程よくついており、落ち着いた感のある人族である。

 馬車の移動中は無口で、無駄な話は一切しなかった。

 砂混じりの長髪は、後ろで一括りに束ねられているだけで、お洒落には全く興味がないように見える。


 パメラは、聞こえてきた交渉の金額に驚ろいていた。

 自分らが依頼を受けた金額とは、全く桁が違っていたのだ。

 それほどの金額が出せるのであれば、もっと上のランクの護衛をつけるなり、人数を増やすなり、するのが普通である。…自分らに声を掛けてきたことに、パメラは不審を抱いた。


 一方で、護衛してもらえることに嬉しくなったのか、小太りの男が自己紹介をし始めた。

 彼の名前は、ランドル・ハークスレイといい、王国では誰もが知るところの有名商家の三男坊であった。


 パメラはこの話を聞いて、また驚かされた。

 彼の身分であれば、一般人よりは誘拐等で狙われる可能性が高いはずである。それなのに、自分と若い護衛の二人しか雇わなかったのだ。


 何かあるとは思ったが、もう首になってしまったのだ。

 この先、あのランドルという男がどうなろうとも関係ない。それよりも、一緒に護衛の職についたこの若者の死を、彼の知人や家族に伝えて上げなければならない。

 彼女は自分の荷物を纏めると、もと来た道を戻ろうと歩き出した。


「あ、あの、パメラさん。ここから一人で戻るのは、あなたでも大変でしょう。我々が雇いますので、まずは、次の中継地点である男爵領まで一緒にいきませんか」


 声をかけたのはカルだが、これはエスティルの提案であった。

 既に彼女は、盗賊らと敵対している。

 このまま一人で歩いて返すには、危険だと判断したのである。


 カルも同行することに賛成であった。

 もっとも、カルの場合は、彼女の冒険者らしい雰囲気に魅力を感じていたからであり、なるべく、彼女の知識や経験を吸収したいという考えから引き止めたかったのである。


「有難くお受けいたします。けれども、報酬は馬車に乗せて頂くだけで結構です」

「それなら、報酬はそうします。けれども別途評価制にしますね」

「何ですか、それは?」

「働き次第で、報酬を増額するということです」

「理由は、わかりませんが、私に拒否する権限もありませんので、問題ないです」


 一通り話がついた頃、御者とフェルビーが水汲みから帰って来た。


 パメラは、二人を見つけるやいなや、突如、走り出し、怒りの形相で飛び掛かると、迷うことなく、御者の首を刎ねてしまった。


 それを見たランドルは、怒りだした。

「おい! お前、首になった腹いせか! 御者を殺すとは、どういう了見だ! 役に立たないどころか、足を引っ張るな! もう、お前なんかは歩いて帰れ!」


「お言葉ながら、あなたは、既に雇い主ではない」

「ぬぬ」


「そいつ、盗賊とグルということなんでしょ。パメラさん。…予定になかった場所でいきなり、馬車を止めて、そして一番体の大きいフェルビーを危険視したのか、襲撃時に馬車から遠ざけた。そういうことかしら」

 エスティルが、パメラの行動をフォローする。


「そ、そういうことか、此奴を生かしておくと、また次の狩場へと連れて行かれる処だったのか!」

 ジルも理解した。


「はい。二人が戻って来た時、一瞬ですが御者の顔が引きつりました。まさか、あの人数で襲って、これだけの犠牲がでるとは思っていなかったのでしょう」

 地面には20人近い、盗賊の屍が転がっていた。


「見逃さなかったのは、流石ですね」

 カルは驚いていた。


「囲まれた時に一番、怪しいとは思っておりましたので、……ここからは、私が御者を務めます」

 

 皆で若者を埋葬すると、馬車はムリアズ男爵が治める街へと走り出した。

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