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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第二章 王都への旅路
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59 赤子のラット退治① 責任の所在

 出発を明日に控えた日のことである。

 エスティルが朝食時に一緒に街へ行こうという。

 俺は、またノープランと言われるのが嫌なので、正直なところ行きたくはない。

 聞こえない振りをしていたのだが、通じず、結局、外出するはめになった。


 今日は地図を用意しているので、流石に迷うこともないだろう…と思っている。

 メインスポットであれば、何となくだが、もう頭に入っている。


「ねえっ、お給料を貰ったんでしょ」

「……それが、狙い!?」

 ジト目でみる。

「人聞きの悪い言い方をしないでよね。公爵家から貰った初めてのお給料でしょ、私に何かプレゼントしてよ」

「狙っているじゃないか」

「言い方! 考えてよ」

「それと、暫く、離れ離れになるから、リエルにもね」

「…あ、そうだ…ね。じゃあ、魔力回復薬を買っていこうか、どう?」

「…本気で殴るわよ」

「え…」

「そんなの駄目に決まっているでしょ! 少しは考えてよ! 喜びそうなものを買ってくの!」


 結局、リエルの分も、エスティル分も、エスティルが選んだ。


 自分だけ給金が貰えるのだから、時には、ジルセンセとエスティルに分けて上げなきゃなと思っていたのだが、聞いて見ると、驚いたことに二人にも協力金という名目で一時金が支給されていた。

 「へっ」と思ったものの、逆に安心した。

 しかし、手にするには、ギルドへ寄らなないといけないらしい。

 俺は既に一カ月分をもらっている。

 王都までは二週間なので、十分な金額なのである。


 ジルセンセも用をすませて、俺らと合流すると、一緒にエッダ様に挨拶をしに行った。

 今回は、ジルセンセも何か貰ったようだ。上機嫌である。

 

 エッダ様の所からなら、もう迷うことはない。

 二人の笑顔を見ながら、帰りの途につく。

 

 いよいよ、明日は出発である。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 出発当日、三人は特に公爵家で用意された訳でもない、普通の馬車でエンデルを出発する。屋敷での見送りは、執事を筆頭に侍女らである。マーレが不安そうに見つめている。

 俺達は徒歩で、領都の馬車乗り場まで、歩いていった。


 王都へ到着するのに、約二週間。

 馬車を乗り継いでの移動となる。

 あくまで、二週間は目途であって、乗り換えの際の馬車待ちで時間を取られれば、もっと掛かるということだ。

 

 馬車乗り場には、思ったよりも多くの馬車が止まっている。

 集まっていた冒険者らは、大方戻って行ったはずだから、普段からこれくらいの馬車は止まっているのだろう。

 王都方面行の馬車を確認して乗り込むと、荷馬車の中は意外と空いていた。これは、領都から出発する馬車が多いためだからであろう。

 俺達は、御者に領都を出る直前に従者を拾って欲しい旨を伝えると、その後はすぐに無言となった。

 やることがないのだ。


 御者に声とともに、馬車が動き出す。

 馬車は領都内の整備された石畳の道を、ゆっくりと進んでいる。

 直に憂鬱になった。

 こんな調子で、二週間も乗り継いで移動しなければならないのかと思ったからだ。


 それとチョット、不満もあった。

 自分達のためではあるものの、一応、領主様からの依頼でもある。

 専用馬車での移動でも、いいのではないかと思ったりする。

 協力金を貰っているので、表立って文句は言えないが…。

 因みに、途中で乗車したオルガとフェルビーには協力金は支給されていない。

 当然と言えば、当然である。二人はエスティルの従者なのだから、無しと言われても仕方がないのだ。なので、少し、二人には悪いかなと思い、俺達が協力金を貰っていることは伝えていない。


 途中休憩を数回入れて、揺られること丸一日。

 馬車は、最初の中継地点となる『ルーニー村』に到着した。

 乗って来た馬車は、明朝、エンデルへと戻るらしい。


 目に入るは農地のみである。何を育てているのかは分からないが延々と農地である。


 人が見つからない。

 何をどうしていいのかが、分からない。

 暇である。

 次の馬車が来るまで3時間あるのだ。

 領都と違って建物がほとんど無いため、風が一吹きすると、やはり寒く感じる。


「ちょと、どこか、風をしのげるとこ、探してよ…寒いぃぃ」

 エスティルは、寒くて震えながら歯を小刻みに動かしている。

「いや、ノヴァが使えない俺は、もっと寒いんだけど…」

「それはそれでしょ! 寒過ぎるわ、もうっ! あ、あっちに家が見える! ジル急ぎぃ-------」

「げっ」

 ジルは俺様かと驚きながら、走り出した。

 少し休ませてくれるかどうか、交渉しに行ったのだ。


 エスティルが震えている中、年老いた農夫と男の子が声を掛けてきた。

「お前さん方、冒険者かい」

「そ、そうですけど、何か」

「そうか、冒険者か。もう、この村はお終いじゃから、今更…」

 顔中に幾重もの深く刻まれた皺を動かしながら、年老いた農夫がため息をついた。

「そんな、どうしたんです?」

 カルは戸惑った。


「お前ら、冒険者が悪いんだろ!」

 隣にいた男の子が喰って掛かって来た。

 年老いた農夫は、目の前の人は何も悪くないのだと、その男の子に言い聞かせている。


 理由がわからない。

 なぜに、冒険者が悪いのか。


 年老いた農夫は続けた。

「これだけの大きな農地が、このままゆくと、全て食いつくされてしまうのじゃよ」

「食いつくされる? 何かいるなら、騎士団やギルドに依頼して退治して貰えばいいじゃないですか」

 エスティルが優しく問う。


「最初に冒険者ギルドに依頼したのが間違いじゃった…冒険者にジャイアントラットを退治してもらったのは良かったのじゃが、それとは別に赤子がたくさんおったのじゃ」


「赤子って、ジャイアントラットの子供ですか?」

 カルは地面を見廻しながら聞いている。


「そうじゃ。確かに冒険者はジャイアントラットを退治してくれた。じゃが、その赤子らがまだいたのじゃ。…あらたに赤子を退治する依頼をするとなると、また金が必要じゃ。しかし、村には依頼する金なんてないのじゃ。もう、儂らではジャイアントラットの赤子らに畑が食われていくのを黙って見ていることしかできぬ」


 釈然としない話しである。

 ジルセンセに聞くと、ジャイアントラットという魔物を討伐する際は、必ず赤子が多くいるので、セットで行うものらしい。

 そうなると村人側が悪いとは思えない。むしろ、話を受けたギルド側が、ジャイアントラットと聞いて、赤子がいることを想定できなかったことが問題と思える。もっと言えば、その話を聞いて、疑問をもたなかった冒険にも問題がある。

 赤子の一掃は、大変な作業であるらしい。そもそもが、何匹いるかが分からないからだ。

 もし、ギルド側が親と子の退治を分けて考えているのであれば、その話を村側に伝えなければならない。村側も赤子の件を事前に聞いてさえいれば、今あるお金で両方の仕事を請け負ってくれる冒険者に頼めるというものである。


 ギルドへの依頼の仕方が悪かったのかは分からない。けれど、最終的な解決にいたっていないのが現実である。

 ギルドが依頼を受ける際に、きちんと内容を理解し最終的な解決ができるように取り計らないと、こういう悲劇が起きる。

 

 魔物の赤子は、小さいうちは木の実や小動物を食べているが、体が大きくなってくると、魔力を欲して人族(エルフ族、人間族、獣人族等)を襲い始めると、リエルが言っていた。


「騎士団に頼めば良かったでしょう! なぜ、最初に騎士団に頼まなかったですか? 自分なら先に騎士団に頼みます!」

 オルガは少し怒り口調である。この村の村長が能無しと思ったからである。

 このような依頼内容であれば、騎士団に頼めば、ほぼ、ただで退治してくれるものなのだ。


「騎士団は、『エンデルの森』の魔物の対応で、忙しくて対応出来ないと聞いておったのじゃ…ふう」


 年老いた農夫の話では、今から騎士団へ申請に行っても、実際に退治しに来てくれるのは、いつになるかもわからない。確認しにくるだけでも、1、2週間後ではないかと言う。

その間に、農地は喰われていき、若い者は村を去って行く。


「……なんか、酷い話ね!」

 エスティルは腕を組んでいる。

「むむ、それなら、自分にお任せ下さい! 赤子のラット如き、この、オルガ・アミュカルが、退治してご覧にいれます!!」


「簡単に言うが、100匹はおるのじゃぞ」

「ええっ、ひゃ、100匹、で、す、か」

「なによぉ。大見えを切ったんだから、せめて、20匹位は何とかしなさいよね」

 エスティルの目は厳しい。

「そ、その、自、自分、小さい獲物は苦手でして…」


「一部の若い者らは儲け話を聞きつけて、領都へと行ってしまいよった。なんでも、Fランクの実力でも、登録さえ出来れば、大儲けができるんじゃと。皆、夢見て、冒険者になろうとしておる」


 Fランク登録で、即大儲とは、恐らくは俺達のことであろう。

 正確には、ホーンラビットを狩ってから登録したのだが…。


 三人はその話を聞いていて、少し責任を感じてしまった。

 実際は、彼らに何が起ころうとも責任はない。しかし、自分たちが原因で人が死ぬということは出来れば避けたいものである。せめて、今、残っている若者だけでも、この場にどどめさせようと、そう考えてしまうのだった。


 カルは黙り込んでいた。

 ここはまだ、エンデル領内だから、森の魔物の対処で騎士団が忙しくて対応出来なかったと言うのは本当なのだろう。だが、間に合わないからと言って、騎士団に報告をしなかったことが知れると、村人は罪を問われるのではないだろうか。

 これだけの穀倉地帯、全滅したら領内は一大事である。


 次の馬車がくるまで、三時間をゆうに切っている。こんな短時間で、ネズミの魔物を100匹狩るのは、正直なところ無理な話である。だが、減らすことは可能なはず。


「お爺さん、ラットが、今どこにいるとかって、分かったりしますか?」

「分かるが100匹以上じゃ。危険じゃよ」

「案内してください」

 カルのその言葉にジルは驚いた。

「あのな。勝手に話を進めるなよ。俺様だって助けて上げたいのは、やまやまなんだ。けれど、安請け合いは良くない!」

「何よ。可哀そうじゃない。ジルには優しい心はないわけ?」

「そうはいっても…」

「優しい心を持ちなさい!」


 エスティルの後押しで、ジルセンセも時間迄は頑張ろうと、踏ん切りをつけてくれた。


 カル達は二人に、ジャイアントラットの赤子らが、今住処としている畑まで案内してもらった。

「自分、エスティル様のご命令により、最低20匹は狩りますので、カル殿ご指示を!」

 オルガはやる気になっている。


「ちょっと、この広い畑で、小さなネズミ100匹なんてどうやって見つけるのよ! 居場所が分かったとしても、チョコチョコと逃げられたら無理じゃない!」

 エスティルは広さに驚いている。

「居場所…居場所ね。…逃げられないように。…これで何とかなるかな。やってみよっ」

 三人を余所に、カルの表情は明るい。

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