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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
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帰還

 全員が駆けていた。

 みんなで、転移の台座を目指している。

 

 ジルはウサギの姿になって、リエルを負ぶっていた。

「ジル、頑張って!」

 エスティルが心配そうに見つめている。

「頑張るなって言われても、頑張るさ!! ここが、俺様の一番の使いどころなんだろ! 目と耳と足腰は任せろよ!」

 ジルは、リエルが無事だったことが、何よりも嬉しい。

 走るほどに、体中に力がみなぎってくる。


 エレンの方はというと、ガルツが右手で彼女の左肩を、左手で左太腿をガッチリと組んだ状態で肩に背負っている。エレンも限界で、立つことも出来なくなっていたのである。

 こちらも、短い足ながら走っている。


 途中、武装したゴブリン等の魔物が、行く手を遮ろうとするが、すぐに抹殺されていく。

 この一行のスペックは非常に高いため、敵に投網魔道具がないと分かった今となっては、魔瘴石で強化された魔物であっても、相手にはならなかった。


 台座付近まで来ると、ゴブリンがごった返していた。


「まさか、台座は破壊されたんじゃ!」

 カルが口走った瞬間、台座付近に複数の閃光が走り、ゴブリンの肉塊が飛び散った。


 今、この場にて、当主より台座の守護を任されし者は、ニチカ=シュトラウス と イシュルミット=アンセットである。大量の魔物が来ても、大型魔物が来ても、対応出来うる二人である。

 

 マーレを思うあまりに狂乱して魔物を斬りまくっていたイシュルミットだったが、彼女の目に、ダルクに負ぶられているマーレの姿が映った。


 彼女は歓喜した。


 と同時に、状況の変化に対応しなければと思い、ゴブリンを斬り刻みながらも、進行方向を変えた。

 台座の正面に立っているニチカとマーレらの間に、道を切り開こうと考えたのである。


 イシュルミットが一歩目を踏み出した時、閃光が走った。

 ニチカは、いち早く、公爵の姿を見つけると、持槍にて閃光を放ったのである。

 槍の先端から放たれた閃光は、ゴブリンを屠るとともに、地面をも抉っていた。

 結果、最短距離となる道程が出来上がっていた。


「さすが、シュトラウス様」

 イシュルミットは、一言漏らすと台座の傍へと戻り、近寄る魔物を屠り続けた。

 彼女の二剣は、輝きを増し続け、凄まじい勢いで敵を斬り刻む。

 マーレを守る。

 このことは、彼女にとって、絶対的なことなのである。

 彼女は笑みが止まらない。


 パルーは走りながら、台座を守る二人の連携の良さに感心すると、仲間に声を掛けた。

「ジュノー、ここで、少しの間、奮戦するとしよう」

「分かったにゃ、パルー」


 公爵や負ぶっている者らが台座付近まで、無事に移動できるよう、時間を稼ごうというのだ。

 パルーの氷剣が繰り出す斬撃とジュノーの幾重もの紫光糸(パープルライン)で、魔物の手足が飛び散っていく。


 因みにパルーの持つ風盾は、敵が多くて、味方が少ない状況での利用が最善の使い方である。なので、転移が進み、味方が最少人数となった時点で、使う予定である。


 この台座、さすがに全員を一度に転移させることはできない。

 そのため、数回に分けて、シャルティエットが次々と転移を行っていた。


 シャルティエットは、少しばかり安堵の表情を浮かべている。

 なぜなら、リエルを負ぶって走るジルの横に、エスティルの無事な姿が見れたからである。


 カルも最後の力を振り絞って、何とか追いついて台座へと辿り着いた。


 最後に、パルー、ジュノー、ニチカ、シャルティエットの四人で無事転移して、脱出劇は幕を閉じた。

 当然、台座の廻りの魔物は全滅させている。


 転移した先は、捕らわれた冒険者らが寝かされていた例の場所である。

 今は、全員の避難が済んだのだろう。蛻の殻である。

 皆、転移が完了すると、休む間もなく、階段を駆け上り、広場を抜けてダンジョンの外へと駆け抜けていった。


 扉は、エスティルに炎槍(ファイアジャベリン)で破壊され、開放されたままであったため、大人数でも駆け抜けることが出来たのである。


「ほほう」

 辺りを見廻して、公爵は一言発した。

 扉の熔け方に驚いたのだ。


 全員が例の窪地へと出ると、付近には、ルーリットン侯爵家の兄弟と兵団が待機していた。

 丁度、ここで負傷者の手当てをしていたのである。

 

 いきなり、扉付近が騒がしくなったことで、兵団は、急遽、警戒態勢を取り始めていたところであった。そこに、見知った顔が出て来たこともあり、兵士らは戸惑っていた。


 兄のグッペンは、彼らを追って魔物達が、直にやってくるだろうと思い、兵士らに警戒態勢をとらせていたのだが、来そうにない…。


 間をおいて、負ぶられていたリエルが呟いた。

「ふう。全員、脱出できましたね」

 聞き取れたのは、耳元で囁かれたジルくらいであろう。


 リエルの一言の後、ダンジョンは、音もなく消滅していった。


 リエルは完全に意識を失っていた訳ではなく、皆の脱出が完了するまで、精霊魔力を振り絞って、ダンジョンの崩壊を防いでくれていたのだ。

 ジルは、そう理解すると、また涙が出てきた。

 感謝の涙である。


「そのドライアドは、全員の命の恩人なのにゃ。救ったつもりが、最後は救われたにゃ。ふにゅ。……それしても、兎人族は泣き虫が多いのにゃ~」

 ジュノーにも、リエルの声が聞こえていたらしい。

 耳がいいのだ。


「泣き虫なんだよぉ。俺様は! 嬉しいよぉ、嬉しいよぉ。やっと、やっと、リエルを救出できたんだから!!」

「ジルは、仲間思いだから………いい『泣き虫』なのにゃ」

 

 その後、公爵から経緯を聞いたルーリットン侯爵家の兄弟は、すぐに、大声で勝鬨の一声を発した。

 その一声に兵らは呼応し、何度も、何度も、勝鬨を上げたのだった。


 敵は拠点を失い、逃げ去ったのだ。

 我々は勝利を手にしたのだ。

 犠牲はあったが、これで胸を張って王都に凱旋できる。

 兵達は、興奮して呼応しつつ、涙を流している。


 ルーリットン侯爵家としては、主父を失い厳しい戦果となったが、勝利したことで、父も褒めてくれることだろうと、兄・グッペンと弟・モーサは抱き合い、涙していた。


 彼らからすれば、主父を失い、戦果もなく、おめおめと帰還などできるはずもなかった。

 決死の覚悟を持って、再戦の準備をこの場で進めていた矢先の出来事であったのである。


 今、ここに至っては、エレンはジュノーとともにメンバーのもとへと向かい、マーレのもとには令嬢フレデリカらが迎えにきている。


 ふと見ると、先に避難したグリアも手当が済んでいる。

 何とか、無事なようだ。

 

 脱力したモルトンが、挨拶がてらに、こっちに軽く合図をしている。

 モルトンも大丈夫そうである。

 

 ビグルやギズは座ったまま、俯いている。

 俺達が戻ってきたことも、気付いてないように見える。

 彼らにとっては、きっと、肉体よりも、精神的な疲労の方が大きかったに違いない。


 一方で、グレインのパーティー『隻眼の狼』は、確か、メンバーの一人は亡くなってしまったと聞いたが、残りの二人は助け出せたみたいだ。

 グレインとソリアが二人を労わっているのが見える。


 一通り見回すと、俺もどっと疲れがでて、思わず片膝を付いてしまった。

 そのまま、地面に倒れかけたところで、抱きかかえられた。


「もう! だらしないわね。チョット、目を話したら地下に落っこちて、救出されたら、倒れこむなんて、私の騎士なんだからね。しっかりしなさい!」

 エスティルの声だ。

 ……あれ、意識が…薄らいでいく。

 エスティルに体を起こされ…て…いる…。

 泣いて……?


カルの意識は、そのまま遠のいていった。

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