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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
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救出。そして悲劇

 三人に触れられた大扉は、ゆっくりと凄まじい音をたてて、両の扉を開き始めた。

 天井から砂やら石やらが無数に落ちてくる。

 上にたまっていた火煙は、大扉が開かれると勢いよく奥へと抜けていった。

 代わりに、物凄く冷たい空気が流れてきて、俺達の動きが止まる。

 

 汗をかいた後に、この冷気…正直、風邪を引きそうである。

 二人は大丈夫かと心配したものの、関係ないなと思い直した。

 風邪をひく可能性があるのは、ノヴァを使えない自分だけなのだ。


 天井からの落下物も収まってきたようなので、俺達は大扉を潜った。

 平坦なのは扉の稼働範囲だけで、その先は緩やかではあるが、登り坂となっていた。


 例に寄って、上り坂が嫌いな人が、約一名いる。

「もう、絶対やだ。カル、負ぶってよう」

「マーレが歩いているのに、よくそういうことが言えるなぁ。逆に凄いと思うよ」

「マーレちゃんは鍛えてるのよ。だから平気なのぉ。あたしは鍛えたりなんかしないし。大体、光球(ライトニング)だしているんだからぁ、その分大変なの。お願いだから、負ぶってぇ」


 そんな会話を交わしている中、奥に灯りが見えたのである。

 一応、用心のため、エレンに言い放った。


「エレン、光球(ライトニング)を消してくれ!」

「……そんな、そこまで、わたしを負んぶするのが嫌なの~」

 ……泣き声になっていた。


「違う! 向こうに灯りが見えるから消してくれ、こっちの存在がバレルから」

「うううっ」

「早く!」


 エレンはベソかきながら、全ての光球(ライトニング)を消した。

 やはり、灯りが見える。


 マーレはエレンの頭を撫でている。

「エレンお姉ちゃん、泣かないで」

「うん」


 …その内、マーレがお姉ちゃんになるんじゃないだろうか。

 ふと、そんな事を思いながら息を凝らす。


 マーレに確認すると、周辺に敵はいないという。

 それならばと、背の剣を腰へと移し替えて、愚図るエレンを負ぶった。

 ゆっくりと坂を登る途中、エレンがボソッと呟く。

「カル、ありがと」

「いいよ。…もう、泣かないでくれ」


 ふと、見ると今度はマーレと目が合う。

 なんとも、言えないような表情をしている。

 どうやら、羨ましくなって、何かして欲しいようにも見える。


「マーレ、手とか繋ぎたかったら、ちゃんと言ってな」

 考えなしに、出た言葉である。

 でも、気持ちは伝わったみたいで。

 マーレは笑顔で頷いた後、俺の右腕の裾をつまんだ。


 進んでいくと、前方に明かりが広がっているのが見えてきた。

 耳を澄ますと、風の音、水の音が、心地よく流れてくる。


 未だ少し距離があるものの、俺達は目に入った景色に驚ろかされた。


 そこには、泉のようなものが見えたのだ。

 どこからか、水が流れてきているのは分かる。


 泉の中心辺りには、雄々しく大樹が聳え立つ。

 そして、泉を取り囲むように、果実を実らせた樹木がたくさん並んでいた。


 天井から差し込まれる光は美しく、澄みきった水面を照らしている。

 到底、魔物が蔓延るダンジョンの中とは思えない光景が、今、目の前に広がっているのだ。


 マーレはその光景に見とれ、エレンは涙を流して見ていた。

 今さっきまで、炎に巻かれ、土煙の中にいたのだ。

 感動するのも、当然なのかもしれない。


 三人は、汗ビッショリで汚れており、すぐにでも、泉の水で汗を拭い、汚れを落とし、一息入れたくなっていた。

 

 だが、歩を進めるとそんな気持ちは霧散してしまった。

 遠目で見えた樹木の果実だと思っていたものは、産み落とされる寸前のゴブリン等の魔物だったのである。


「何よこれ---!」

 エレンは叫びながら、カルの背から降りると、廻りの樹木に光の矢(ライトニングアロー)を放ちだした。

 

 一方で、カルは咄嗟に中央の大樹へと走りだしていた。

 見た瞬間から、気になって仕方がなかったのである。

 だが、大樹の傍まで来ても、直には近寄らなかった。

 警戒しながら、正面へと移動した時、幹の中に人が埋まっていることに気が付いた。


「リエルッ !!!」

 カルは、捕らえられているのがリエルだと確信すると、彼女のもとへと走り出した。


 大樹の正面には顔らしきものがあり、明らかに威嚇してきている。

 そして、その顔の、やや下部分にリエルが埋め込まれていた。


「い、今、助けるから!」

 カルがそう言い放ち、駆けだすと、地面から太い根が飛び出して、鋭い先端が、カルの太腿を目掛けて襲ってきた。

 枝や葉も、攻撃体勢に切り替わっている。


『トレントじゃ!』

「名前なんて、なんでもいい!!」 

 素早く、カルが腰の剣を抜くと、すぐに、トレントは苦しみだした。

 『攪乱の剣』は先ほど抜いたときよりも、さらに激しく、赤い電撃を放っていたのである。


 太い根は攻撃どころではなくなり、ただ、ただ暴れて、地面を打ち続けている。


 カルは構わずに、凸凹になった地面を駆け抜け、根を避けながら、トレントの目の前までくると横一閃で、リエルが埋め込まれている部分より上を斬り倒した。

 斬り倒された部分は、大きな音をたてて地面に滑り落ちると、藻掻き苦しみ始めた。


 斬り倒した部分には目もくれず、急ぎ、カルは樹木の中から、リエルを優しく抱き寄せる。

「俺がわかるか!」

 リエルに反応はない。

 表情だけでなく、体全体が衰弱しきっているのが手に取るようにわかる。

 精気が感じられないのだ。


『…成程』

 左腕が呟く。


「何が成程なんだ、ルバート!」


『やっていることは同じじゃ。人族から魔力を吸い取っていたじゃろう。それと同じじゃ。ドライアドからも精霊魔力を吸い取り、またドライアドを使って、森全体の魔力や精気を吸い取って、魔物を精製しておったのじゃ』


「リエルは、大丈夫なんだろうな!」

『効くかはわからぬが、回復薬は飲ませてやったほうが良いじゃろ』


 エレンは廻りの果実を片付けている最中である。

 マーレが、火の杖で果実を焼き払いながら、こっちへやってきた。

 すぐさま、俺はマーレが差し出してきた魔力回復薬のガラス瓶の蓋を開けて、飲まそうとするも、当人に意識がないので飲ませられない。


 後で、リエルに何か言われるかもしれないが、この際仕方がない。

 もしかしたら、一刻の猶予もないかもしれないのだ。


 リエルには多大な恩義を感じている。

 絶対に死んで欲しくはない。


 俺は口移しで飲ませた。

 リエルの喉が鳴る。飲み込んでいる証拠だ。


 飲ませ終わると、リエルの傍に小動物がいるのに気が付いた。

 小動物は体を登ってくると、彼女の頬を二度、三度と舐めている。


 すると、リエルの瞼が微かに動いた。

 ゆっくりと瞼が動く。

 意識が戻ってきたようだ。

 小動物は、小さな声で啼くやいなや、淡い翠の光を発しだした。

 治療をしているのだろうか。


 リエルが微笑んでこちらをみている。

「カルではありませんか。助けてくれたのですね。ありがとうございます。あら、あなたも」


 リエルは気を使って、無理して話そうとするが止めさせる。

 安静にしていてほしい。


 暫くして、エレンが樹木を一掃して戻って来た。

 エレンが持っている回復系の薬も飲ませ、やっと、表情が和らぐ、楽になってきたようである。


「凄い景色に成り代わりましたね。でも、これで、魔物も増やせないでしょう」

 リエルが呟く。

 ルバートの推論どおりなのであろう。

 リエルが簡単に説明してくれた。

 リエルを体内に入れていた中央のトレントがハブとなって、リエルや森から吸収した自然魔力や精霊魔力を、根を通して、廻りの樹々に分配することで、魔物を生みだしていたという。また、分配された魔力を使って樹々との間で、邪な結界が作られ、リエルを苦しめていたのだ。

 

 リエルは、先程の小動物を抱きながら話続けた。

 聞いていて思い出したのだが、この小動物はエスティルが連れていたあの石化していた子である。ずっと、リエルの傍に一緒にいて、どうも、リエルに治癒魔術をかけ続けていたらしい。


 今、エレンがリエルを介抱している。

 エレンは、リエルの神秘的な美しさに、少し見惚れていた。

 そんな中、カルが、泉で顔や腕を洗い終えて戻って来た。

 声を掛けられて、エレンは我に返った。


 マーレは、水が気持ちいいのだろう。パシャ、パシャと遊びだしている。


「エレンも洗って来なよ」

「う、うん。そうだ。思い出した。…あ、あの一応、誤っておくね、一応ね」

「どうかした?」

「マーレちゃんに明るいとこへ行きたいって、言ったのは、あたしだから。あたしが悪いの。ごめん。……地上に出たいとか、お家に帰ろうとかって伝えていれば、こんな深層に迄来ることは無かったから」


「何言っているんだよ。お陰でリエルを助け出せたんだから、感謝してるくらいだよ!」

「そ、そう。良かった。…だから、一応って言ったの。それでも、一言誤りたかったの」

「ありがとう。気持ちは伝わったよ。大丈夫」


「うん。あたしも少し洗ってくるねぇ。シャルティエットに会った時、汗臭いと嫌だから」

 そう言うと、小走りにマーレの方へ向かった。


 リエルがクスッと笑った。

「どうしたの?」

「いいえ、なんでもありません。…そうでした。ジルやエスティルは無事ですか?」

「多分、大丈夫だと思う。二人共このダンジョンの中にいるけどね。皆でリエルのことを探しに来たんだよ」

「…ご迷惑をお掛けしていたんですね」

「…迷惑って、俺もエスティルも記憶がない中で、君に優しくしてもらって、今があるんだ。多分、ジルセンセだってそうだったんだろ。…リエルに何かあったと思ったら皆で探すのは当然だよ」

「ありがとう…ございます…」

 リエルは少し、涙ぐんでいるようである。


 二人が、エレン達の方へと目を移すと水遊びが始まっていた。

 暗闇で、寒かったり、熱かったりする中で、命の危険が何度もあったのだ。

 いい、気分転換なんだろう。燥いでいる。

 カルは二人の燥ぎ声を聞いているだけで、癒されていた。


 暫くして、マーレが駆けてきた。

「カルお兄ちゃ---ん」

 満面の笑顔である。

 汚れも拭えたので、嬉しいのだろう。


「えっ、」 

 マーレの後方で、槍が宙に浮いているのが見えた。

 いや、槍を持った『腕』も浮いている。


「マーレ! 伏せろ!!」

 その『腕』は大きな動作で、持っている槍を投げつけてきた。

 マーレは、カルの大きな声と反応に驚き、咄嗟に後ろを振り返った。


「はあぐっ!!」

 投げられた槍は、マーレの腹部を貫いた。

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