エンデルガーデンへようこそ
カルは、相手の敵意がなんとか無くなるよう、知っていることをゆっくりと話し始めた。
自分の中で整理し、落ち着いて話せるようになってきたところに、いきなり聞いたことのある声が飛んできた。
「アンテッドで無いことだけは、間違いないよ! 彼は転生者なんだ」
声の先へ振り向くと、白い光がそこに浮かんでいた。
「ああっ!」
思わず大声がでてしまったが、それ以上の言葉はでなかった。
「『ああっ』、じゃないよ! 後にいると思っていたら、いつの間にかいなくなっているし! 探し回ってやっと見つけたら、別の素体と一体化してしまうなんて、何を考えてんだよ! 召喚先にはもう、行けないじゃないか! 『必要とされているのなら行って役に立ちたいんだ』何て言いながら実際はこんなところにいて、一体どうするんだよ!」
白い光は、物凄く怒っている。
「大体だよ、君が選んだ素体は一体化したタイミングは、良かったかもしれないけど、魔力量が少な過ぎるよ。これでは転生しても能力を活かしきれないよ!」
白い光は怒りが収まらない。
「今から何とかならない?」
「ならないよ! ならないから怒っているんだよ!」
「………どうにもならないなら、もう、怒っても仕方なくないか?」
「よ、よくも、そんなことが言えたな! あーもう、頭にくる!」
「………」
白い光は、さらにヒートアップして一方的に捲くし立ててきた。
「待って! そもそも、あなた達は何者なのですか? 精霊の私が聞くのもなんですが、あなたは、精霊なのですか?」
「生きている君は知らなくてもいいことだよ」
白い光は無下に答える。
「それは、どういうことですか?」
リエルの問に対して、白い光は答えなかった。
「あ、あの。俺はこれからどうしたらいい?」
「そ、それを僕に聞くのかい!」
「あ、いや。いきなり、いろいろあって、良くわかってなくて、何か説明してもらえると凄く助かるんだけどな。なんて。……何も知らないと、この先、生きていけそうにない気がしてきて」
「君はね。中途半端な状態で召喚されただけでなく、想定外の素体と一体化してしまったんだ。素体の適性の有無もわからない。今後、精神だけでなく肉体も上手く操れないかもしれない。僕が知っていることはこれ位だよ。もう、どうすることも出来ない。何とか頑張って生きてくれとしか言いようがないよ。……死んだらまた会えるかも知れないけどね」
彼は言い終えると、多少は怒りが収まったらしく、事の顛末を説明しなければならないと言って、天に昇っていってしまった。
残された2人は暫く呆気にとられていた。
「………行ってしまいましたね」
「はい、行ってしまいました。………って、僕が悪かったのかも知れないが、何て薄情な奴なんだろう。一体、何のために戻ってきたんだ!」
「誰かに報告するために、状況の確認をしに来たのだと思います」
「う………」
「ちょっと、私では理解できない世界のようです。けれども、話を聞いていて分かったのは、あなたは転生されたということ。それも召喚には応じず、別の人間に転生してしまった」
「そういうことらしいです」
「……なんか、他人事ですね」
「もう、過ぎたことですので…」
「…ま、まあ。もう、あの方は戻って来てくれそうにも無いので、今後のことを考えましょう。まずは、そう、お名前です。あなたのことは、カルとお呼びしてもかまいませんか?」
「あっ、はい。………あの騎士さんが、そう呼んでましたね。名前はそうなのかと」
そもそも、俺は自分自身の名前を憶えていない…。
「とりあえず、名前はよしとしまして、……カル、あなたは行くところ、帰るところもないということなのですよね」
「………そ、そうです。この世界での唯一の知り合いが、今、去って行ってしまったので」
「あっ、私の主様が、お会いになりたいと言っています。着いてきてくれますか?」
「えっ?」
「ああ、主様の声は念話ですので、私にしか聞こえません。今、そう仰っているのです」
「あ、あの、主様って?」
「エンデルの森の魔女様ですよ」
「魔、魔女! 魔女はちょっと、………怖すぎる」
リエルはクスッと笑った。
なぜなら、たった今、背後からではあったが勇猛果敢に挑み、魔人を一突きで殺した男が怖気ついているからである。
「その腕を村人に見られたら、魔人の一味と見なされて討伐の対象になりかねないですよ」
彼の右腕は、黒炎で焼かれた傷口に魔人の血が混じり、ダークグリーンに変色していたのである。
「人知れず、治療をしなければなりませんわね」
リエルは、微笑んでいた。
どうやら、彼女の敵意は解けたようだ。
このまま行けば、治療をしてもらえそうである。
しかし、魔女というのが、どうも気にかかる。
誘われているようにもとれる。
魔女からの誘いなのだ。結構なリスクだ。
治療をしてもらえると思って、のこのこと行って、魂でも抜かれたら大変である。
と言っても、元にもどるだけか。
……冗談はさておき、このまま腕を治療しないわけにもいかない。
最悪、悪化したら死んでしまうかもしれないのだ。
もし、村に向かって優しい人に運よく出会えて、治療を受けられたとしても、村の医療レベルでは腕が完治するようにも思えない。……討伐される線もありうる。
カルは暫く考え込んでいた。………やはり、魔女ならば治せるのでは。
「あまり、時間もないですわよ。もうすぐ、応援の騎馬隊が大勢やって来ます。あなたの話を彼らにしても、信じてもらえると思えますか? 私だって、あの白い光が説明してくれたから攻撃を思いとどまったのです。あの騎馬隊の中に、あなたのことを理解してくれる人がどれ程いるのですか?」
「あっ」
指摘されて気づいた。
誰一人知らないし、こんな状況を理解してもらえるなんて無理なことだろうと。
この状況で、彼女の敵意が解けただけでも幸運なことなんだと。
結局、彼女について行くことにした。
森の中には、魔女が構築したという魔法通路という秘密の通路があるとのことだった。
全く分からないが、要は外部の者が利用できない近道のようなものらしい。
リエルの後を歩いていたら、いきなり光る扉が現れ。光の空間に入った。20歩ほど歩くと、また扉があり、潜ると色鮮やかな景色が広がった。
「さあ、つきました。『エンデルガーデン』へようこそ!」
「エンデルガーデン?」
「私が勝手に名づけました。ふふっ」
リエルは微笑みながら、あちらへどうぞとばかりに腕で促した。
広く、立派な庭園である。
たくさんの花々が彩られ、鮮やかに咲き誇っている。
歩を進めると、景色同様に香りも入れかわっていく。
花壇の奥には白いテーブルとイスがあり、老婆が腰かけ、ティーカップを啜っていた。
(あれが、この森の魔女か!)
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