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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
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ジル上等

 周辺の魔物は、ほぼ片付いていた。


 ジュノーが辺りを見廻すと、奥の方で下の階から上がって来ている人影が見える。

 それも、一人、二人ではない。

 目を凝らして見た。すると、どうやら、王都の兵士らしい。


 彼女が見つけたのは、ルーリットン侯爵の次子であるモーサの隊である。

 10名程の人数で大階段を下って行った後、魔物と遭遇し、何とか戦い抜いて上がって来たところであった。


 隊は疲弊していた。皆、足腰にきている。服装もボロボロであった。

 恐らくは回復薬も使いつくしているといった感じである。

 その中で、モーサが、力強く、鼓舞し続けていた。


「よいか! どこかに必ず仲間が捕らわれている場所がある。何としても見つけ出すぞ!!」

「「「 おおうっ! 」」」

 兵士らの声に、多少の疲れがあるものの、まだ士気は高かった。

 モーサ自身も、兵士らの声に鼓舞され、まだまだ、これからだと意気込んでいた。

 取りあえずは、女が率いていた冒険者グループを探そうと思った、その時である。


 一人の兵士が、奥にある灯りに気付いた。

「隊長、見てください! あそこに灯りが、灯りが見えます! 味方ではないでしょうか!」

 傷ついた彼らの間で、安堵の声が漏れる。

 その声も、決して浮ついたものではない。


 大きな灯りの中から、小さな一つの灯りが、少しずつ、大きくなってくる。

 どうやら、こちらへと向かってきているようである。


 モーサは、魔物だと判断した。

 彼の掛け声のもと、全員臨戦体勢をとりはじめる。


 しかし、やってきたのは、兄・グッペンであった。

 彼は、ジュノーの言葉を聞き取るや、全速力で走ってきたのである。

 

「モーサよ、はあ。はあ。はあ」

「あ、兄上ではありませぬか、こんなところになぜ?」

「はあ。はあ。はあ。良い。大事はないか」

「このとおり、まだ全然やれます。今回で、必ず片を付けましょう! 必ずや、奴らを全滅させてみせます!!」

 モーサは、自分を守って死んでいった部下のことを思い出したのか、目が釣り上がり、表情が豹変し始めていた。


 グッペンは、その表情をみた時、父の言葉を思い出した。

「冷静になれ! 冷静にだ!」

 グッペンは弟の胸倉を掴み、大声を出していた。

 彼の目は少し涙ぐんでいる。


 今、直にでも兄として、父の死を目の前の弟に告げたかった。

 だが、自分らは指揮官である。

 今の弟に父の死を告げれば、逆上して無理な判断を選択する可能性が多大にある。そうなれば、隊の全滅だってあり得る。まだ、この先、何が起こるか分からない、ここは敵地の真っ只中なのだ。


 グッペンは、ここは隊のためにも、父の死を告げないことにした。

 一緒にいた直近の配下も意を汲み取り、その話には一切触れなかった。


 そんな中、公爵一行が追いついて来た。

 皆、モーサの様子を見て、グッペンが侯爵の死を告げていないことを理解した。

 告げるべき立場の人が告げていないのだ、何か理由があっての事だろうと、敢えてみんなも触れようとはしなかった。


 一行は、公爵の指示する方へと移動を開始した。

 魔力が多く纏まっている場所が、直ぐそこにあると言われるのだ。


 指示されたとおりに歩いていくと、ゴブリンが溜まっているのが見えてきた。

 どうも、狭い入口にゴブリンが詰まってしまっているらしい。


 振り返り、飛び掛かって来た目の前のゴブリンらを一掃すると、ニチカが階段下へと警告を発した。

「今から、階段のゴブリンども一掃する! 階段下にいる者は速やかに、そこを離れよ」


 ニチカはそう告げると、特に下からの返答を待つことなく、低い姿勢から槍を構え、スパークと一声発した。すると、矛先から無数の放電が分裂し、巻き散っていった。結果、

中にいたゴブリンは、全て息絶えてしまった。一部は発火しているようである。


「この中、狭いから一度消火しないとね。凍らせてから火魔術で溶かすとしますか」

 パルーは、皆に聞こえるよう話して、勝手に承諾を得た形式で、ガルツとともに作業を開始した。


 一連の行為が終息した後、皆で土階段を降りていく。

 意外と狭いため、下りるのにも結構、神経を使う。

 もし、凍結部分が残っていて、そこで転倒でもしたら、大事故である。

 当然、泥まみれとなる。


 ジュノーが先頭で降りて行った。

 身軽な彼女は、何の苦も無く、ゴブリンの焦げた死体を避けながら階下に至った。

 真っ先に彼女の目に飛び込んできたのは、大勢の魔力切れの負傷者である。

 呻いている者もいる。

 壁に寄りかかった負傷者もいる。


 周辺は、煙こそないものの、なぜか、焦げ臭い。

 さっき、階段の中で電撃で焼かれゴブリン臭の影響かなと思いつつ、歩を進める。


 ジュノーの目はエレンの姿を探し続けたが、見つけられない。

 だが、見知った顔を幾つか見つけていた。


 ジュノーは、傷だらけで倒れているグリアの傍へ行き、話しかけた。

 しかし、グリアも、ドースに負わされた傷が深く、話が出来る状態ではなかった。

 彼女は、ポーションを飲ませて回復させた後、あらためて、何があったかを聞いた。

 戦闘があったこと。そして、グリアはエレンとマーレにここで、会っていたという。

 ジュノーは、それを聞いて、少し表情が和らいだ。


 そうこうしている間に、グッペンとモーサが兵団を率いて降りて来た。彼らは現状を確認すると、すぐさま、魔力回復薬を飲ませる等の介抱を始め、負傷者を上へと運び始めた。

この救護活動により、グレンとソリアも仲間を連れて上へと非難していった。


 公爵は大勢の者らの無事が確認できたので、安心して、ゆっくりと歩いていたが、彼の目を引き留める者が現れた。

 それは、崩落現場の傍で、憔悴しきって座り込んでいたエスティルである。

 エスティルは、カルの後を追おうと思ったのだが、流石に、この崖下を降りていく勇気がでなくて、どうしていいかわからなくなっていたのである。


 ジュノーらも、エスティルを見つけていた。

 公爵は、ゆっくりと隣に座り込み、エスティルに声を掛けた。

「どうしたのじゃな、お嬢さん。見たところ、あなたは、お怪我はしていないようじゃが」

「私は大丈夫。お爺さん、ここの崖下の状況がわかる?」

 エスティルは俯き、相手の顔を見ようともしない。


 無礼な態度を正そうと、ニチカが動こうとするも、公爵が手振りで制した。

「ほう、中々に深いのぅ。してなぜじゃな」

「この下に、私の知り合い含めて3人が落ちてしまったの。どうすればいいのか…」

「ほほう、3人のお名前は教えて貰ってもよいかの」

「カルとエレン、マーレちゃんの3人よ。お知り合い……」

「カルとマーレが…」

 エスティルの発した言葉を遮るように、フレデリカが反応した。

「えっ!」

カルの知り合いかと思って、エスティルは顔を上げた。

二人は近い距離間で顔を見合わせた。

 思いの他、二人は共に初めて会った感じはしなかった。


「カル兄の偽物は、全く役に立たない! ツッ」

イ シュルミットが、吐き捨てるように大声を発す。


「なるほどの」

 公爵は立ち上がりって、地面が大きく崩落した箇所を覗いてみるも、暗くて、どのくらいの深さなのか全く見当もつかなかった。


 シャルティエットは、エスティルの傍に控えていたが、嫌な予感がしていた。

 彼にとっての嫌な予感というのは、無論、エスティルが危険に晒されることである。

 折角、エスティルが、どうしていいかと判断が出来ない状況にある中、この新たなメンバーが、3人の救出を主張し始めるのではと、不安に駆られていた。


 シャルティエットが、未だ崩落の危険があるのでここから移動した方がよいと、丁寧に皆に話すも、誰一人反応がない。

 寧ろ、ここから何とかしようと、そんな雰囲気さえある。


 兵団の救護活動も進み、負傷者の半数以上が上へと移った頃である。


 ジルが、何か思い出したように立ち上がり、走り始めた。

「パルー、ガルツ、俺様の後に着いてきてくれ!」


 急に名前を呼ばれ、驚いたものの、二人は後を追った。


 ジルが目指していたのは、ついさっき、エスティルが『火魔術・炎槍』で破壊した台座であった。

 ジルはこの台座の下にあるはずの魔法陣を直せないかと思ったのである。


 ガルツは壊れた台座の破片をぶん投げていくと、魔法陣が現れた。


 パルーが見ると、少し昔の形状らしく、消えてしまった部分については、皆目見当もつかないという。

 こうなったら、今この場にいる奴、全員に聞くしかないと思い、ジルが大声をだそうとした時である。


「さすがね。ジル! 上等よ、よくやったわ」

 ジルが振り返ると、そこには、いつものエスティルが立っていた。


「何言ってんだ! 何も解決してないんだよ」

 

「大丈夫よ。シャルティエット、あなたならこの魔法陣わかるわよね。今、直ぐに修復に取り掛かって」


「しかし、どこに転移されるか、わかりません。危険、極まりないです」

「そんなの、承知しているわ。ここにいる人達だって望んでいることよ」

「………承知仕りました」


 シャルティエットは驚いていた。

 自分が魔法陣に精通していることは、森で再開してから一度も彼女に話していなかったことである。恐らくは、剣術や魔術で肉体を動かすにつれ、彼女の記憶が徐々に回復してきているのだろうと彼は思い直していた。


「急に元気になられたようじゃが、何か良いことがあったのですかな」

「今から、三人の救出に向かうわ。マーレちゃんも救ってきてあげるから、待っててね。おじいちゃん」


「それは、それは、じゃが是非とも同行させて下さいますかの。こやつらも少しは役に立ちますので」


「わかったわ。心配だものね」

 発したその声は、完全に、いつもの明るいエスティルに戻っていた。

いつも、お読みいただきまして、ありがとうございます。

掲載時間を変更するかもしれません。

よろしくお願いいたします。


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