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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
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炎の巨人と土の巨人

 エレンの視界が真っ暗になった。


 オーガの掌の中……ではなかった。



 突風とともに、地面が大きく、揺れ動く。

 気が付くと、オーガは岩壁に叩き付けられていた。


 エレンもマーレも、何が起こったのか全くわからない。


 周辺に炎が広がり、視界も悪く、さらに洞窟内の温度が急激に上がり出していた。

 来た道は、ゴミ山に埋もれてしまい、大炎となっている。

 この先に見える大扉は、煙で見えづらいが、閉じたまま。


 火煙と土煙が舞う中、二人は、カルの姿を発見し、火の粉から逃げ惑うように駆け寄ってきた。

 カルは片膝をついていた。

 辛そうである。

 三人で咳き込む中、カルが切り出した。


「『魔道具・ゴーレム』を出した! 俺用に創られているけど、魔力が元々少ない俺では、そう長くは持たないはず」


 『魔道具・ゴーレム』は、カルの身を案じてヨルブが渡した人形の一つである。カルの魔力の少なさを考慮して作られたものであり、『僅かな量』の魔力を注がないと動かすことができない。普通の大人が、『僅かな量』を注ぐのは非常に難しく、扱うことが出来る人は限られるといった代物なのである。

 実際には、事前に魔力を注いでおき、後はカルが念じるだけで使えるもので、念じると、即、廻りの土、岩、鉱物を引き寄せて、実体化する。



 エレンは、まだ混乱していた。

 カルの言葉を聞いても、全く言葉が分からないような反応をしている。

 マーレは号泣し、エレンの服を必死に握りしめたまま、動かない。

 状況が、大きく変化し過ぎて、二人の理解は追いつけていないようである。


 エレンは見上げる。

 すると、火煙と土煙の合間で、二体の巨人が組み合っているのが見える。

 土砂で積み上がったゴーレムと、炎に巻かれたオーガである。


 ゴーレムはゴミ山を吸収して出来たために、体の所々が燃えている。

 一方のオーガは、いきなり、殴りつけられて、顔面の左半分が血だらけとなっていた。

 二体は殴り合いを始めており、簡単には決着が着かないように見える。


「俺の魔力は、もう、尽きる! 『ゴーレム』が倒れる前に、エレンの魔術で奴の背を討ってくれ。ゴホッ、ゴホッ」


 そう言われて、エレンは我に返り、正気を取り戻した。


「もう、何でもする! 任せて!」

 そう言うと、泣きながらも、助かりたい一心なのか、珍しく、エレンは詠唱を始めた。


「光の神々より授かりし、大いなるこの光の力を持ちて、ゴホッ、ゴホッ、にて千矢となってその武威………、ゴホッ、ゴホッ、ええい、っもう! グレイテスッ!!」


 煙で咽せたため、詠唱は不十分であったが、元々、無詠唱でもできるのだ。

 エレンの放った渾身の光の矢は、途中で分裂し、流星の如く弧を描いて飛んで行く。

 オーガの視界に、光は映ったが、ゴーレムとの殴り合いの中で避ける余裕などなかった。

 エレンの矢は、見事な程に、オーガの背中一帯を矢で覆いつくした。


 背をハリネズミのようにされたオーガは、痛みのあまり、狂ったような声で、何度も、何度も、大きく叫んでいる。

 背中への攻撃が相当に効いたらしく、ゴーレムは、両膝から崩れ落ちた。

 そして、そのまま、地面に片腕をつき、倒れるかのように見えた。

 だが、そこから、オーガは踏みとどまると、悪鬼の形相となり、エレンを怒りの目で見据えてきた。

 その目を見たエレンは、指先まで凍り付いたような面持ちとなった。



 急に、オーガの角が変形をし出した。

 どうやら、何かしらの形態変化をしそうな感じである。

 けれども、ゴーレムは、その期を逃すことはなかった。

 待つ必要など、ないのである。


 ゴーレムは、両手をがっちりと組むと、大きく振り上げるやいなや、その腕をオーガの頭部に打ち付けた。オーガの目には、ゴーレムの膝が映る。


 直後、オーガの頭部は、ゴーレムの両手と膝に挟まれて、無残に砕け散ってしまった。

 頭部を失ったオーガは、両腕をだらりと下げたまま、力なく地面に沈んだ。

 オーガは、魔人という訳ではない。

 頭部が砕ければ死に至る。

 再生能力も当然ないのだ。


 首無しのオーガが、その場に倒れ込むと、大量の粉塵が舞い上がり、炎も大きく揺らいだ。


 オーガの死を見届けたエレンが、ホッとしたのも束の間、今度はマーレが叫んでいる。


「カルお兄ちゃんが、煙で死んじゃう--」

 マーレが、泣きながら杖で廻りを凍らせている。

 煙を何とかしたいのである。


「煙なんかで、死なないわ。そんなに吸う訳ないでしょ。って! ……そうだ、あいつ、ノヴァが出来なかったのね」

 エレンは、脱力して動けないカルを、何とか煙の少ない方へと担いで移動させた。

 自分には、こんなに力があったのかと、自身でも驚くほどであった。

 マーレが戻ってきた。


 戦い終えた今、ゴーレムは、カルの前で、跪くと光の結晶に体が包まれ、小さくなっていった。そして、元の小さな人形に戻り、その人形はヒョコ、ヒョコとカルの前まで歩いて来ると、お辞儀をした後、座り込んで動かなくなった。


 …ヨルブが創った割には、チョット可愛い。

 煙のない場所へと運ばれて、カルは少し楽になっていた。

 エレンとマーレに添われていることもあり、ノヴァのおすそ分けで、多少だが、煙を吸わないでいられるのもある。


 流石に安心したのだろう、エレンが号泣しだした。

 ゴーレムが出せるのなら、最初から教えておいてくれと言って泣いている。

 確かに、事前に言うべきであったと思い、誤った。誤り倒した。


 何でも、ダンジョンに入る前は、必ず自分の能力や手持ち武具等を仲間に教えるのがルールであるらしい。

 今の俺達に当てはめれば、『3人の命は1人欠けたら生きて戻れない』という考え方が、冒険者の考え方であり、手の内を教えておくのが、絶対ルールなのだそうだ。


 気が付けば、マーレも泣いていて、離れようとしない。

 なんでも、『小さい頃のカル』が煙に巻かれて死にかけたことがあったらしい。

 恐らく、ノヴァが全く使えないことを、廻りの大人達は知らなかったのだろう。

 

 そんなことがあったので、マーレは一生懸命に氷の杖で、火を消しまくってくれていたのである。

 何と健気なことか。

 こんな小さな子にまで心配をさせてしまって、何とも面映ゆい。

 マーレには、頭を撫でながらお礼をいった。

「ありがとうね。マーレ」

「うん」


 エレンも泣き疲れたのか、俺のことを気遣ってくれる。

「カル、大丈夫なの? ポーションか魔力回復薬飲む?」

「ポーションは貰っとくけど、回復薬はいいや。イイ感じに魔力が無くなってきたから。ははっ」

「いい感じって、意味分からないんだけどぉ。飲みなさいよ! あの鎧と戦えないでしょ」

「いや、この方が戦えるんだなぁ。多分」

「多分?! 何それ、死ぬわよ! それとも、まさか未だ何か隠してるのぉ、言ってよぉ」


 さすがに、あんなことがあって、何も教えないのも、不味いので、煙い中、三人で作戦会議を始めた。

 『心の声』の事は言わないとしても、確信はもてないが魔力がゼロに近い状態までいくと、剣速が早くなるという話は共有した。


「なあ、エレン、さっきの光の矢で、大扉は破壊できないのか?」

「見た限り無理よ~。下手すると大扉から、あたしだけが反撃されるかも知れないし。そっちの方が恐いんですけど」

「そうか。あの二体の鎧と戦わないといけないんだなぁ。あれって、鎧の中は空なわけ?」

「多分そう。魔術で動くんだと思うのよね~」

「そもそも、どうやったら倒せるんだ?」

「…動かなくなるまで、攻撃する」

「…………………」

 雑な回答に固まるカル。


「あたしに分かる訳が、ないじゃないのぉ」


 …作戦会議なんて無駄もいいところ。

 結局、出たとこ勝負である。


 とはいえ、すぐには挑まない。

 まだ周囲の火が、全て収まったわけではないのだ。

 再度、マーレが氷の杖で周囲を冷やしてくれている。

 しかし、戦うには熱い。

 煙は大扉の隙間から向こうへと、多少流れているかもしれないが、未だ煙い。

 

「ゴホッ、ゴホッ…」

「……」

 エレンも意外と男のような咳きをするんだな。

 変なことを思いながら、カルは二体の鎧を見ていた。

 右の鎧はハルバートを左手で持ち、左の鎧は右手でもっている。

 要は武器を大扉側でなく、こちら側、外側に持っているのである。

 並びとしては、普通こんなものなのだろうか。

 それとも、この鎧らは攻撃の際、夫々右利き、左利きの動きをしてくるのだろうか。

 

 考えて見れば、対人戦はしたことがない。

 まあ、正確に言うと、鎧は人間サイズの敵であって、魔物なのだが。

 今迄は、ホーンラビットやレッドベアーなどの魔物が相手であるので、極端に自分の背丈よりも低かったり、高かったりする敵と戦っていた。ゴブリンも低いし。


 正直なところ、対人戦のほうが目線も同じ位置にあり、やりやすいような気もする。

 そんなことを思いつつ、それでは、始めようかと剣を抜いたところ、心の声が聞こえた。


『 == 破壊するのは、性に合わん == 』


 えっ、どういうこと?

 ……拒否された?

 今から、『心の声』の力なしに戦うってことか!?

 そう思った時には、敵も動き出していた。


 カルの目の前の鎧は、ゆっくりと此方を向き、ハルバートを構えた。

 が、もう一体の鎧は急に走り出し、エレンに襲い掛かったのである。

 予想外の動きである。

 

 矛先は、彼女の心臓を捉えていた。


 エレンは声をだす暇もなかった……。

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