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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
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挟撃

 咄嗟の出来事に周囲で何が起こったのか、理解できた者はいなかった。

 いきなり、洞窟中に鳴り響く、土砂崩れの音。

 そこにいる者達は、恐怖で体全身が硬直していた。

 実際、崩落したのは、カル達がいた付近だけではあるのだが、聞こえてくる物凄い音で、何も考えることはできなかった。

 灯りはあるものの、恐怖は拭えない。

 皆、状況を把握できないのが現状であった。


 ただ、ジルだけは目前で起きたことなので、当然に理解できていた。

 ジルは腰が抜けたのか、尻餅をついたまま、その場から動くことができない。

 恐怖のあまり、顎が微かに震えている。

 上体を支えている腕の感覚がなくなっていた。


 そこへ、血相を変えたシャルティエットがやって来た。

 尋常でない様子である。

「エスティル様は、どこにおられる!」

「さ、さっき、お前を探しに、い、行った」

「くっ、私としたことが」

 シャルティエットは唇を噛んだ。


 この男の頭の中は、エスティルの身を守ることしかない。

 その男が動揺している。

 ジルは、今の音について伝えようと口を開こうとしたが、


「説明の時間はない! 脱出路を探せ、今直ぐにだ! エスティル様は私が探し出す」

「脱出路ってあの階段を使えばいいだろ」

「使えないから、探せと言っている!」

 いつもの柔らかいシャルティエットとは違い、言葉も動きも荒くなっていた。

 それだけ、必死なのである。

「わ、わかった。って最悪、ここを降りるのも……」

 剣幕に押されて、ジルの声は小さくなっていた。

 ジルは、崩落した場所に目をやるものの、以前として身動きがとれなかった。


 今回の崩落で、吹き抜けとなっていた空間がさらに広くなり、風が緩やかに吹き込んでくる。肌に触れてくる風は、気持ちの良いものではなかった。


 シャルティエットは、ジルの話が終わる前にその場を離れ、彼女を探しに行ってしまった。


 彼は、異様な魔力保持者二人の存在に気付いたのである。

 ダンジョン内に入って来たその二人は、こちらに来る可能性が高いと踏んでいる。

 ゆっくりだが、こちらに近づいて来ているのだ。

 階段口に立てば、ここへと降りて来るのは確定である。なんとしてもその前に脱出路を確保したい。


 幸にして、ここには腕の立つ冒険者や多くの兵士がいる。時間稼ぎは出来るはずだ。

 後は、どのようにしてエスティルをこの場から連れ出すかである。

 状況をそのまま話せば、彼女は残って敵二人と対峙するのは明白である。


 シャルティエットは、二人を感知した時に、再度、探索魔術を使ったので、カル達が地下層へ落ちて、ここには、いないことを知っていた。

 やはり、エスティルをこの場から連れ出すには、奴らが来る前にカル達を探しに行くことを提案するしかない。

 だが連れ出すには、脱出路を見つけなければならない。

 彼は再度、この空間で探索魔術を使い始めた。



 崩落は、完全に収まったようである。

 土砂音も鳴りやんでいる。

 しかし、恐怖の余韻は残ったままであった。

 この場にいた冒険者や兵士達は、ここは危険な場所なのだと、あらためて認識した。

 皆、すぐにでもこの場から脱出しようと、協力し合い、小さな階段へと歩き始めた。


 エスティルも傍にいた女性冒険者に肩を貸していた。

 この時点では、彼女は、まさか、カル達三人が崩落に巻き込まれて落下したなんて思いも寄らなかった。



 シャルティエットが、感知した二人というのは獣の目をした老人と皮膚が変色したドースである。


 二人はダンジョンの中に入ると、1階の広場をゆっくりと歩いていた。

 この広場は大勢のゴブリンらが移動できるよう途轍もなく広い。

 そして、ここには10数個の扉が存在していた。


 獣目の老人は、遥か先に光が差し込んでいることに気が付いた。

 そこで、扉の一つが、本当に破壊されていたことを認識した。

 それまでは、侵入されたとの報告を聞いても半信半疑であり、というか、全く信じていなかった。


 実際に報告を聞いた時は、はらわたが煮えくり返ったが、同時にあの数のゴブリンを突破して扉を開放するなんてことは、王都兵団ごときには出来ないと思い返し、誤報であろうと決めつけていたのである。

 ということは、投網魔道具が破壊された報告も事実なのかと、考え及んだその瞬間、怒り心頭となった。


「お、おのれ、小童共め、……侵入者は全て切り刻んでくれるわ!」

 獣目の老人はそう大声で怒鳴ると、外敵用に準備しておいたゴブリンらを引き戻して侵入者に差し向けた。


 シャルティエットはこの怒りをも感じ取っていた。

 故に焦っていたのである。


 一箇所だけ、この場から脱出できる方法はある。

 壁際にある台座に乗ることだ。

 あれは、恐らくは転移魔法陣の台座である。

 が、しかし、どこに転移されるのか、どうしたら転移できるのかがわからない。

 リスクが高い上に、使い方もわからない。

 だが、転移先は魔力吸収後の投網魔道具の持込み先であろう。

 であれば、転移先に多少のゴブリンがいようとも、こちらも他人数で転移すれば何とかなるのでは…。


 そうこう考えているうちに、階段口の横の斜面からゴブリンが次々に降下してきた。

 勿論、階段口からも降りてきている。

 だが、階段口は狭いために、ゴブリンは1匹ずつしか出て来ることができない。

 1匹ずつなら、容易く狩ることができる。


 階段口は、直に詰まってしまい、知能の低いゴブリンらは身動きが出来ない状況となった。

 順に出てくるゴブリンを一匹ずつ狩るのだ。それ程の恐怖を感じずに兵士らは対応している。

 暫くすると、階段口にゴブリンが出てこなくなったので、この機会にと兵士らは階段を昇り始めた。


 続いて、魔力切れの仲間を背負った兵士らも上がろうとしたところ、先に上がった兵士らが血だらけで転がり落ちてきた。


 驚いた兵士は落ちてきた兵士を抱きかかえようと、屈んだ時、上にいる人影に気付いた。


 そこに立っていたのはドースであった。


 いきなり、目の前に魔人が現れたと動揺した兵士は、剣を抜く間もなく、入口付近で斬捨てられた。

 その光景を見た兵士らは、恐怖によって足元を支配されてしまい、動けなくなってしまった。


 一方で、シャルティエットが脱出口として考えていた後方にあった台座が、突如、光を放出し出した。

 廻りの者らも驚きはしたが、転送されてくるのは敵に違いないだろうと予想がつき、武器を手に取り備えていた。


 予想通りであった。

 転送されてきたのは敵である。

 武装した3体のレッドホブゴブリンであった。

 レッドホブゴブリンは転送が完了すると、いきなり暴れ出した。

 当然の如く、血飛沫が舞う。

 碌に動けないものもいるのだ。

 一気に、この空間は虐殺の場へと変わった。


 階段口傍にいる者達は、後方で何が起こっているのかがわからない。

 後方の者でも、レッドホブゴブリンが転送されてきたと分かっているものは、台座の傍に居る者だけである。

 ここにいる大半の者が、起こっていることの全体像を把握できないでいた。


 混乱が生じる中、エスティルも何が起こっているのかがわからなかった。

 ただ、レッドホブゴブリンの姿は見えていた。


 彼女の位置からホブゴブリンまでは距離があり、人もいるので対応ができない。

 その場にいる冒険者らで、倒して欲しいと願うばかりである。

 今、肩を貸している女性冒険者だって、歩くのがやっとであり、戦うことは無理である。


 そんな時、宙を舞う者が現れた。

 グリア・ガーレルである。

 彼女は愛用のミスリルクローに普段よりも多めの魔力を込め、ホブゴブリンの首を掻き斬った。

 それを見た残りの2体はドスドスと足音をさせて、台座まで戻り、台座の傍を動こうとしなかった。そう、台座を守り始めたのである。


 周囲の者らは、なぜ台座の方へ戻ったのかが理解できなかった。

 だが、直に理解させられた。


 台座に3体のホブゴブリンが転送されてきたからである。

 これで、全部で5体となった。


 もう、時間との勝負である。

 一刻も早く、台座を破壊しなければ、ホブゴブリンが続けて転送されてくるのだ。

 皆、得物を取った。

 ここには、重傷者も多いが、腕の立つものも多い。

 だが、魔力不足から魔術も魔剣術も十分に使えないため、不利な状況にある。


 階段口ではゴブリンが増え始めていた。

 ゴブリンらには、兵士らが応戦している。

 階段を降りてきたドースには、グレイン・フットが相手をしていた。


 グレインの属性は「火」である。

 彼は戦況が芳しくないため、目前の敵を即時に倒そうと、一撃必殺の魔剣術を使おうとしていた。


 中段の構えから上段へと移行する間に、彼の剣は炎に包まれる。

 グレインは歯を食いしばり、轟音を響かせる火の剛剣を創成するやいなや、上段から力強く振り下ろした。


 ゴゴゴゴオオオオオッ----

「受けて見ろ! 俺の火の剛撃を!!!」


 本来であれば、相手は一刀両断され、炎に巻かれる。

 ……はずであった。 

 

 だが、ドースは擬古ちない動きながらも、振り下ろされた剣を受け止めた。


 ドースの属性は「水」である。

 ギリギリのタイミングで発動された氷の魔術は、火の剛撃と交わったことで、周囲に大量の水蒸気を生み出した。

 二人共に、廻りの視界が奪われた状態である。


 蒸し状態のまま、二人は動けない状況にあった。


 グレインは目の前の男を魔人だとは見ていない。

 確かにこの男の肉体にはダークグリーンの斑点が無数にある。

 けれども、額に角がないのだ。

 これが、魔人でない理由である。


 それ故にこの魔物を倒せると考えていた。

 だが、自分の必殺の剣が受け止められた。

 かなりのショックではある。


 火の勢いで押してはいるものの、倒せていないという現実が今ここにある。

 これで倒せないとなると、今後の展開としては厳しい状況である。

 だが、なぜか笑みが込み上げてくるのであった。



 後方では、ホブゴブリンが、11体に増えていた。

 台座付近には4体が守っている。

 途中、ドワーフの戦士が台座に鎚矛を打ちつけたが、破壊には至らなかった。

 物理攻撃耐性が高いことが窺がわれる。


 そんな中、モーゼの十戒の如く、台座までの直線上に人を排した形で交通整理が為されていた。声掛けしていたのは、ソリアである。

 ソリアは洞窟の扉を破壊した炎の槍で、台座を破壊してもらおうと、人を両サイドに寄せさせたのである。

 グリアは戦いながらも、人がかき分けられていくのを見て、理解し、距離を取り始めている。


 エスティルは、ソリアに提案された通りに精霊魔術を発動した。

「ファイア・ジャベリン!!」


 洞窟の扉を破壊した時よりも、三回り程小さくした炎槍が宙に創成されたかと思うと、瞬く間に台座目掛けてツッコんでいった。



 ゴゴゴゴゴッーーーーーーーー


 皆、標的が自分ではないと分かっていても、灼熱の炎と轟音の二重層の体感は恐怖でしかない。


 初めてみる人が大半なのである。

 恐怖に慄き、泣き叫ぶ声さえ聞こえてきていた。

 炎槍の通った箇所は炎に巻かれている。

 炎槍は、真っ直ぐに進み、台座の傍の壁にぶち当たった。


 皆が逃げ惑う中、冒険者が風魔術で煙をゆっくりと移動させると、そこにいたはずのホブゴブリン7体は無残な姿となっていた。いや、7体の内、台座を守っていた4体は何も残っていない。


 台座そのものも、原型を止めていなかった。

 残物が炭と化し、所々にバチバチと燃える音がしている。

 台座には魔法耐性もあったのだろうが、エスティルの精霊魔術の前では効果もなかった。


 例に寄って、周辺は凄い臭いとなっている。

 台座や、ホブゴブリンの部位が焼けている。

 喚起ができないので、焦げ臭さが充満している。


 誰かが燃えている部位を凍らせていた。

 これにより、少しは臭いもましになるだろう。


 味方が残りのホブゴブリンを仕留めた後、エスティルは火傷した人のことを思い、エリアヒールを使う。

 戦闘中には、エリアヒールは使わないと、エスティルは心に決めている。

 そう、酔った席で文句を言われたことがあったからだ。


 少し落ち着いたのか、皆、口々に彼女の名前を知りたがっている。

 一人で有名人になるのも何か嫌だったので、知りたい人にはパーティー名だけ教えておいた。すると、エリアヒールで皆を治癒した経緯もあってか、『女神様』とか呼んでいる者が出てきた。


 それを耳にした、エスティルはチョット浮かれ気分になっていた。

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