地中へ…
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皆が駆けて行った後、シャルティエットは精神集中して、その場で探索魔術を行っていた。
このダンジョン内で、魔人もしくは魔瘴石を探していたのである。
この広範囲にわたる魔術が終わった時、彼はヘトヘトになっていた。
とりあえず、魔人らしき存在も、魔瘴石もなかったことに、彼は安堵の表情であった。
その間、20匹程度のゴブリンは一掃されていた。
敵を一掃して、味方を開放した訳ではあるが、捕らわれている全員が魔力欠乏症のため、寝たままの状態で動くことができない……。英雄となるイメージをしていたギズやビグルとしては、歓声が起きない状況に物足りなさを感じていた。
エスティルとカルはエレンとマーレを、グレインとソリアは『隻眼の狼』のメンバーを夫々探していた。
すぐに、グレインとソリアは仲間を見つけたようである。
抱き合って、互いに泣いている。
エスティルはエリアヒールを発動して、皆の傷を癒した後、ジルには兵団を呼びに行ってもらった。
この場には、結構な数の冒険者や兵士が寝かされており、彼ら全員を運び出すのは無理だと思ったからである。
そんな中、エスティルはエレンを見つけた。
エスティルは、すぐに彼女の肩を抱きあげ、膝の上にのせて、呼吸を確認してみた。
息があることに一安心すると、彼女の右頬に優しく掌をあてて話かけた。
「話せる? エレン」
エスティルの声は届いたらしく、彼女の両の眼はピクッと動いた後にゆっくりと開いた。
彼女の顔は青白く、著しく精気を奪われた感がある。
「あ、ありがとう。助かったの? 私たち」
「そうよ、もう大丈夫。ダンジョンを出たら、ゆっくり休んで」
「うん」
「みんな、魔力欠乏症になってるんじゃないか~、暫く療養が必要だぜ。こりゃあ」
グリアが、周囲を見回しながらゆっくりと歩いて来る。
その声で、意識が戻って来たのだろう。
エレンは咄嗟に口にした。
「……マーレちゃんは?」
エレンはエスティルに抱かれた状態のまま、目で探した。
エスティルは、マーレちゃんを探すよう、グリアに頼むと、それ程時間もかからずに、発見したとグリアの声が響いてきた。
グリアは、マーレをエスティルらの所まで、連れて来てくれた。
既に、魔力回復薬を飲んでいるらしく、ヨレヨレしながらも両の足で歩いている。
だが、グリアは少し硬い表情である。
「マーレちゃん、助かったわね。って、ちゃん付けは駄目だったわね。ふふ」
エレンは無理しながらも、明るい声で話しかけた。
「……なんでぇ。お姉ちゃん。ちゃんは付けてぇ」
「えっ!?」
幼顔ではあるが、実はしっかりしているという、今迄のマーレの印象から、かけ離れた愛くるしい表情と声に、マーレは戸惑った。
「……どうやら、魔力欠乏症が重くて、子供返りしたみたいなんだ」
グリアが付け加えてくれた。
「うそ、…治療すれば、治るんでしょ」
エスティルの声が上ずっている。
「医師や薬師じゃないからな。あたいには、わからないよ」
「お姉ちゃん。フレデリカお姉ちゃんや、カルお兄ちゃんは何処にいるの?」
「そ、そこに大人しくしていてね。すぐに会わせてあげるからね」
「うん」
エレンは戸惑いながら、魔力回復薬を口にした。
即効性があるものなので、みるみるうちに回復する。
だが、筋力や体力までもが回復する訳ではない。
ましてや精神的な部分は困難である。
暗がりの中、地面に寝かされ、回復する頃になるとあの投網魔道具によって魔力を吸収され続けられていた。残された魔力で、ノヴァを使い体温を維持するのが精一杯である中、力尽き、絶望し、息絶えた者も数多くいた。そんな状況化であったのである。
冒険者でも過酷な環境であったのだ。子供返りこそしたものの、命を繋ぎ留めることができたマーレは幸運であったと言ってもいい。
エレンは、そんなふうに考え直す中、カルが戻って来た。
「あっ、マーレちゃん。カルお兄ちゃんが来たわよ」
「えっ、何それ?」
カルは、エレンが何とも言えない表情で、意味のわからない事を言ってくるので、少し戸惑った。
「この娘が子供返りしたのよ。カル」
辛そうなエレンに代わって、エスティルが口にした。
「5、6歳ってとこだぜ」
グリアに言われて、目をやると、マーレは明らかに怯えていた。
マーレは、カルの仮面が恐いらしい。
カルの仮面は、顔全体を覆っており、全面が黒い中、目元の部分は白く、さらに橙色の縦ラインが一本入っているのだ。子供に怖がられても仕方がない絵柄である。
「カル、マーレちゃんが恐がるから、その趣味の悪い仮面を外してよぉ」
エレンは怪訝な表情で、一人で起き上がった。
「これは外せないよ。『魔感受の仮面』っていって、敵の魔力を感知するんだから、ここでは、俺の生命線なんだよ」
「ふうん。…でも、欠けてるじゃない。もう壊れてるんじゃないの? 外したら?」
「壊れてない。外さない!」
エレンとしては、外して欲しかったのだが、カルの言う事も最もだと思い、仕方なく諦めた。そして、今度は自身で立ち上がろうとしだした。
既に歩いているマーレを見て、自分も立てるか確認がしたかったのである。
マーレは、グリアの後ろに隠れていた。
けれども、何に興味を持ったのか、真っ直ぐにカルのもとへ歩いて行った。
そして仮面の欠けた部分から顔が見えないかと一生懸命に覗き込み始めた。
少し屈みながら、首を傾げて興味深々に見つめている。
カルと呼ばれている目の前の人が、自分の知っている、カルお兄ちゃんかどうかを確認したいのである。
その内に彼女の中で、目の前の人は、カルお兄ちゃんであるとの結論に至った。
要因は声である。本来、マーレが5、6歳であれば、カルも声変わり前なのであるが、彼女の記憶が混在しているため、そこは気にならずにカルお兄ちゃんの声に間違いはないと思ったのである。
「カルお兄ちゃんでしょ!!」
マーレは少し頬を膨らませている。
暗がりの中、知っている人がいなかった中で、寂しかったのに声を掛けてくれない。
……意地悪されたのかも。と思っているのだ。
「え、違ぅ」
「いでっ」
否定しようとした途端、エスティルに抓られた。
「……あ、そうだよ。マーレちゃん」
「いつもは、ちゃんは付けないのにぃ。どうしたのぉ?」
マーレの機嫌は瞬時に直っている。
「た、たまにはと思って、ははは」
「へぇんなの~♪」
マーレは、もう満面の笑顔となっている。
カルお兄ちゃんと、お話していることが嬉しいのである。
マーレのかわいい仕草に、エスティルとエレンはメロメロである。
今も、廻りには地面に寝かされたまま、呻き声が聞こえてくる中、ここの3人は幸せいっぱいであった。
じきに、ジルセンセが兵団を連れて来てくれる。彼らの持っている薬で、魔力を回復させれば皆、自分の足で出口まで行けるだろう。
なので、今はジルを待つだけなのである。
暫くすると、ジルセンセが出入り口にいた兵士らを連れて来てくれた。
魔力回復薬が配られ、口にした者は、次々と立ち上がれるようになっていく。
冒険者や兵士達は、互いに無事であることを喜び抱き合っている。
泣いているものさえいる。
この前とは別の副官らしき者が取り仕切って、グリアやモルトンと話をしているのが見える。
取り合えず、今日は、このまま一度戻るといったところだろうか。
この後、このダンジョン内のゴブリンを一掃してしまえば、いい方向に物事が動いて『エンデルガーデン』の扉も現れてくれるのでは。と勝手な妄想をカルはしていた。
そんな折、ジルセンセが、一人こっちに歩いて来た。
「俺様が必死で王都の兵士を呼びに行っている間、お前達は、なあに遊んでいるんだよ!」
ジル自身は、冗談のつもりだったのだが、その言葉を聞いてマーレが涙ぐんだため、女性陣の怒りを買ってしまった。
「何、その言い方!」
「自分一人で成し遂げたつもりでいるの! 何様なの!」
やんや、やんやと罵声を浴びてしまった。
傷つくジル。
「カ、カル、うううっ。別にそんな…」
「タイミングが悪かっただけですから、泣かないでください」
少し言い過ぎたかなと思い、エスティルは場を外そうと思ったのか、それとも、エレンを元気付けようと思ったのか、シャルティエットを連れて来るといって、探しに行ってしまった。
その言葉を聞いたエレンは嬉々としている。
「今から凄いカッコいい人が来るからね」
「だあれぇ~」
「マーレちゃんの知らない人よ。シャルティエットっていうの」
と言いながら、エレンはマーレに抱きつこうとした。
それに反応して、マーレは捕まらないようにと駆け出す。
追い駆けっこが始まってしまった。
二人共楽しそうである。
けれども、二人揃って足が弱っていることを考慮すると、もう止めさせた方がいい。
そう思ったカルは、戻ってくるように幾度と声を掛けたが、二人には届いていないようである。
仕方がないので、マーレを捕まえようと立ち上がった。
エレンに追いかけられ、後ろを見ながら走るマーレの進路上に入り、カルは待ち受けた。
カルはそのまま、走って来たマーレを捕まえた。
少し、驚いたものの、マーレは抱きかかえられて、なお、笑顔が絶えない。
そこまでは良かったのだが、その後、エレンまでもが飛びついて来たのである。
カルは勢いに押されて地面に倒されてしまった。
彼の上に、二人が重なった形である。
満面の笑みのマーレが言葉を発しようとした瞬間であった。
3人が横たわっていた地面に亀裂が走ったのである。
突如、辺り一帯が崩落し始めた。
ゴゴゴゴゴゴゴッ--------、ザシャッ、シャッ-------
地面に段差が生じる中、カルはもう間に合わないと悟り、咄嗟に二人を抱きしめた。
そして二人を抱きかかえたまま、地中に落ちていってしまった。
▶カルが落ちる時に、この二人が関係しているのは2度目ですが、大した意味はありません。
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