出会い
遥か上空、雲の上では、2つの光が真っすぐに飛んでいた。
あの白の光と碧の光である。
白の光はぐんぐん加速していく。
碧の光はどんどんと引き離されていた。
碧の光は遅々として進む途中、次々と人の命が絶たれていくのを感じた。
そして、その死んだ者達の感情が、形となって、彼の目の前に押し寄せてきていた。
頼む。頼むから力を貸してくれ。
そう、訴えてくる者もいる。
碧の光は召喚された先に着くことを第一と考え、その声を退け直進を続けた。
だが、さすがに放ってはおけなくなり、引き返したのである。
そして、その上空辺り迄くると、新たに強く惹かれる何かを感じた。
碧の光は感じたまま、何の考えもなしに、燃えている若き剣士の前に降り立った。
……この男だ。
既に眼前の若者の瞳に力はなく、肉体は黒い炎に包まれゆっくりと燃えている。
意識はもう無いのだろう。
だが、何かを伝えようとしているようにも見える。
声を発した瞬間、その言葉ともならぬ声は、炎にかき消されてしまった。
そして目の前の若者は絶命した。
言葉は聞けなかったが、思いは受け取っていた。
だが、自分には何もできない。
何の為にここまで、戻ってきたのか。
碧の光は、『自分の無力さ』と『若者の気持ち』を思い、嘆き悲しむうちに、今迄ぼんやりとしていた自分の意識がハッキリとしてきた。
そして、笑みを浮かべながら剣を振るう魔人の姿を見て、これまでに感じたことのない激しい怒りが込み上げてきた。
感情が大きく揺さぶられたその時である。
目の前の肉体と『思い』が同調したのか、碧の光は、この若者の肉体に受け入れられ、溶ける様に入り込んでしまった。
入り込んで直ぐに、自分の中ではっきりと声が聞こえた。
『 == あいつは、任せろ == 』と。
聞いたこともない声だ。
その後、一瞬意識が消えたようにも感じたが、今はハッキリしている。
肉体が再生を始めている。
「これは、転生しているということなのか? 俺は、新しい命を、肉体を得られるのか?」
だが、体は全然動かない。
でも、これだけは感じる。
『この剣士』の本懐は、あの魔人を倒すこと。それのみである
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
先程まで、壮絶な戦いが繰り広げられたこの場所は、今、バチバチと燃えている音のみが聞こえる。
敵対する2人は、疲労困憊の表情をしつつ相対していた。
魔人は、幾人かの精鋭騎士を相手にしたため数度の傷を負い、その度に肉体の再生を行ったために疲労していた。
再生した分だけ肉体に負荷がかかるのである。
ドースの方も、ただ気力だけで立っている状況であった。
「獣人族ならわかるが、人間族ってこんなに、やるもんだったけ? 人間族にしては、お前ら相当強くねえか。 ……っても、まあ、結果は変わらねえんだがな。つったく、こりゃぁ、魔女を殺すのは明日以降だな、ケッ」
「……明日なんて、お前には来ない。今ここで、俺が「魔核」を突き、終わらしてやる」
「ケケ、言うねえ。もう、お前には、突けるだけの魔力はねえだろうが! 傷をつけるのが精いっぱいじゃねぇのか」
言い返した魔人も、疲労の色は隠せなかった。
(確かに奴の言うとおりだ。このまま、斬り込んでも勝機はない……)
「ここ迄なのか」という思いが過る中、信じられない光景が彼の目に映った。
魔人の背後で、立ち上がった者がいたのである。
バチバチと両腕が燃えているその男は、眼光鋭く、剣を構えると同時に飛び込んで来た。先程、魔人の胸を斬り裂いた時よりも速くである。
引き寄せられるようにドースも飛び込んだ。
「ウオオオ―――――ッ」
剣を突き立ててはいたが、奴の意識がこちらに向けばいい。それだけでいい。
その一念であった。
だが、魔人は、後ろから迫りくる殺気に気づいていた。
上半身を軽く反転させて、後方に黒炎魔術を放ちながら、ドースの剣を下からあてがうように流して受け止めた。
しかし、ドースの剣撃はすさまじく、魔人は押し込まれた。
この時、腰に下がっていた革袋が飛んだ。
魔人は押し込まれた不利な体勢になりながらも、結果的に前後の挟撃を防いだのである。
鍔迫り合いとなり相対している中、魔人が喋った。
「へっ、当てが外れて残念だったな、隊長さん。諦めて、もういい加減に死ねや!」
「………まだ外れた訳ではない」
「もう、お前は終わりだ」
魔人が冷ややかに言葉を発した瞬間、氷魔術が発動した。
発したのはドースである。
ドースは鍔迫り合いとなっている状況を利用して、魔人の腕と自分の腕から剣に掛かかる部分を凍結させた。残った魔力で魔人の動きを封じたのである。
十分な瞬間であった。
突進してきた男は、放たれた黒炎を粉砕し、背後から『魔核』を貫いた。
ドースにも激痛が走る。そう、彼も剣で貫かれたのである。
「グゥガガァッー、ガキィ、……どぉうして生きてやがる。ガアアッ、魔女の魔力で………従えるはずが……」
魔人は黒炎を2度も受けながら、向かってきた人間がいることが信じられなかった。
だが、もう『魔核』が貫かれてしまった。
彼は再度唸り声をあげながら、息絶えた。
串刺しにされたドースも、眼前の魔人の死を見て満足な笑みを浮かべていた。
「………初任務にしては、上出来だ。よくやった………カル、ぐふっ」
大量に吐血をした後、彼も言切れたのだった。
当たり周辺は、血と焼け焦げた臭いが入り混じっていた。
魔人の死によって、黒炎がおさまってきたため、焼ける音も無くなり、かすかな風の音だけが聞こえてくる。
カルは茫然としている。
自分が何をしたのかも、よくわかっていない。
そして、自分以外は皆死んでしまっている。
目にすると、剣を持つ右腕には黒炎で焼かれた跡が残り、ベットリと魔人の青い血がついている。そして、引き抜いた剣は青い血で染まっていた。
ふと声をかけられた。
「見ていましたよ。大したものですね」
「何者だ!」
カルは咄嗟に声を発した。
「フフフッ、今の言葉はそのまま、あなたにお返しします。いったい、あなたは、何者なのですか?」
カルは言葉に詰まりつつも、周りを見渡した。
「死んだものの肉体にやどり、黒炎で焼かれた体を再生させ、魔人を一撃で突き殺した。…あなた自身はアンデッドの類ということなのでしょうか?」
気が付くと、すぐ傍に翆の光に包まれた女性がいた。
翆色の髪は腰の辺りまであり、瞳も深い翆色で、何か強いものが宿っているように感じる。
カルは威圧され固まってしまった。
「ふう。返答なしですか。ちょっと、一方的過ぎましたですかね。では、私から名乗ることといたしましょう。私は『エンデルの森の魔女』に使える樹木の精霊で、リエルと言います。あなた、お名前は? そして、再度お聞きします。あなたはアンデッドの類なのでしょうか?」
もし、アンデッドであると答えたならば、森の異物とみなされて、攻撃をしかけてきそうでもある。だが、そうで無いとも言いきれない。
正直なところ、自分でも何者なのかが分からない。何も分からないのである。覚えているのは自身が碧く光っていたことくらいである。信じてもらえるかは別として、知っていることを彼女に話してみることにした。