獣目の老人と、おもてなし
今回は、カルやエスティルの「新チーム A」とは別動隊の動きです。
本体と「新チーム B」に絞っております。
次回は「A」に戻る予定です。
鬱蒼と生い茂る木々。
周囲はうす暗い。
道らしいものもなく、地面には木の根が入り組んでおり、足元もおぼつかない。
そんな中、無言で移動している集団があった。
ルーリットン侯爵が率いる本隊である。
彼は、合図のあった『新生チームB』とグッペンのもとへと向かっていた。
途中、レッサーワイバーンが炎に巻かれ、悲痛な鳴き声を発しながら逃れていく姿を見るやいなや、援軍として40人ほどの兵士をモーサの先鋒隊へ送っているため、現在は100人程度で移動をしている。
侯爵は焦っていた。
というのも、魔人がいないとなると、通常のゴブリン討伐となってしまう。普通に考えれば、兵数からして過剰戦力であるからだ。
だが、ゴブリンらは思っていた以上に強く、苦戦を強いられているのが現状であった。
苦戦の原因は魔力を吸収する投網魔道具なのだが、防ぐための有効な手立ては、未だにない。とりあえずは、投網魔道具の発見が確認できた場合の作戦、役割を決めてはいるものの、確認できた時に限って、ゴブリンが急に増え出すために、ここまで何れも何も出来ずに、失敗に終わっている。
予期していない方向から、ゴブリンが大挙して押し寄せてくることが、一番の敗因なのである。
兵士達からは、ゴブリンが大挙して押し寄せて来る時は必ず、その後方から洞窟の扉と同様の瘴気を感じるとの報告がある。
要は、敵は洞窟の扉を自在に出現させ、そこからゴブリンを送り込むことが出来ると、考えて問題ないのであろう。
洞窟の扉といっても、あれだけの数のゴブリンが出てくるのである。
もう、洞窟の中はダンジョン化しているに違いない。
これまで、このダンジョンの扉は岩壁等に出現している。
そのため、今回は、事前に目ぼしい場所を兵士に見張らせておいて、扉が出現した際は、即、奇襲をかけて一気に援軍のゴブリンを殲滅するという作戦である。
今回は、先行させた『新生チームB』とグッペンに初期戦闘は任せている。
侯爵らの隊は、懸命に、目ぼしい場所と瘴気を探していた。
そして、『新生チームB』らが戦闘の真っ只中に、ルーリットン侯爵の隊は、とうとう丘の麓で、出現する扉を見つけたのであった。
今、まさにダンジョンの扉が、光の枠で構築され、開こうとしていた。
侯爵は、すぐさま攻撃の指示をだすとともに、『新生チームB』らに、この位置を伝えるための合図を放った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方で、『新生チームB』らの前には、一人の老人が立ちはだかっていた。
髪は真っ白で、乱れた長髪。
汚く伸びきった白い髭は、胸元にまで達している。
腰は折れ曲がり、露出している腕や足はか細く、杖なしでは歩くこともままならないように映る。だが、向けてくる眼光は鋭い。腹を空かせた獣のようである。
「フォッ、フォッ、こちらの者らは、本当に魔力量が多いのう。…クククッ、あたりじゃな」
老人は薄っすらと笑みを浮かべている。
「貴様は何者だ。なぜ、ここにいる」
ダルクは、落ちついた声で、ゆっくりと問うた。
八相に剣を構え直し、返答次第では斬るつもりである。
「ほう、お主は、ミューラー家の者であるか」
老人は、剣に刻まれた家紋を見て、なぜか、再び笑みを浮かべている。
ミューラー家の者ならば、もてなしてやらなければならぬ、と言い放つと、何か唱えたかと思うと、老人の背にダンジョンの扉が現れた。
ダルクは表情を変えない。
今にも斬り込もうとしている者もいる。
「クククッ、もてなすと言うておろうが、直ぐに来るから、今暫く待て」
「先程の問に答えて、貰いたいのだが」
「我は、このダンジョンの主であり、魔核を操りし者じゃ、ククッ」
「魔核だと!!」
「クククッ、お前さんらの相手が、着いたようじゃ。扉が開くぞ」
ダンジョンの両の扉が開くと、部分的にではあるが、ダークグリーンの肉体の剣士が、ゆっくりとこちらへ歩いて来た。
魔人を想起させるその肉体の色は、その場の雰囲気を一瞬にして変えた。
「おもてなしじゃ」
老人が一言発すると、いきなり、その剣士がダルクへと飛び掛かった。
ダルクが、剣を交わす。
その剣士は、剣速は速いが、動きそのものは、少し擬古ちない。
数合と打ち合う中、ダルクは剣士の顔を確認すると、動揺を隠せなかった。
「お前、ドースか!」
その一言は、公爵家の面々を驚愕させた。
そもそも、療養中のドースがどうしてここに、いや、何故に敵の手先となっているのか。
確かに、魔人との戦いで魔人の血が剣をつたわり、体内へと大量に流れ、重症化したとの話は聞いている。
だが、肉体が変色した話でさえ、聞いてはない。
額に角こそないが、魔人に見えるのだ。
皆、一瞬思考が停止していた。
一方で、『銀翼』らの冒険者は何の事だか、わからない。
そうこうしているうちに、扉から武装したゴブリンが次から次へと出てきている。
冒険者らは皆、投網魔道具のことが頭にあるため、散開して、互いに少し距離を取ってからゴブリンを狩り始めた。
パルーの額から冷や汗が滲む。
老人と魔人のような剣士の出現という想定外のことが起こったからだ。
あの魔人らしき者は、どうやら公爵家の関係者らしい。
その影響もあってか、彼らのマインドがダウンしているように見える。
また、森の中は木々が密集しているので薄暗く、互いが見えづらいためにコンタクトがしにくい。
状況的に不利な要素が多いのが現状だ。
そこへ、武装したゴブリンが襲い掛かって来る。
樹木が密集しているこのような場所では、大きい得物を持っているガルツは不利とも思えるが、そんなことはなかった。
ガルツは大斧で、ゴブリンごと樹木を次々と斬り倒していた。
樹木が傾く。
大小の鳥が、悲鳴のような鳴き声を放って、飛び立つ。
小動物たちは、急ぎ逃げだしている。
樹々が、音階を奏でるように、大きな音を立てて倒れていく。
周辺の景色が慌ただしく変化していた。
空を覆っていた枝葉がなくなり、空から陽光が差し込んできたこともあって、味方の心の内の不安が徐々に払しょくされていく。
視界が確保され、状況が少し好転しだした。
ジュノーは樹上にいた。
これは、敵が投網魔道具を放とうとした際、即攻撃しようとの考えからである。
ジュノーは、左目に剣傷をもつホブゴブリンを探していた。
投網魔道具を使うゴブリンの横には、必ず屈強なホブゴブリンが護衛をしている。
その内の一匹が、左目に剣傷を負っているのだ。
パルーがガルツの背を守りながら戦っている。
さすがだなと思いつつ、そのまま探し続けた。
そんな折、獣の目をした老人は、ゴブリンから何やら報告を受けると、怒り心頭といった表情となり、すぐにドースを呼び戻すと、一緒にダンジョンの中へと戻っていってしまった。
その後、直に両扉は閉まり、扉そのものが、その場から消失してしまった。
残ったのは、多くのゴブリン、ホブゴブリンである。
『おもてなし』を連れていってくれたのは、喜ぶべきことだが、例の投網魔道具はいつまでたっても登場してこない。
兵士らも、密集した木々の中での慣れない戦闘に加え、投網魔道具はいつでてくるのかと不安に駆られており、本来の実力が出せていない。
そんな中、ファイアボールが宙に打ち上がった。
ルーリットン侯爵からの扉発見の合図である。
しかし、向かうどころの余裕はない。
なにせ、これまでと違い、命を落としている者が多いのだ。
あきらかに、ゴブリンの戦い方にも変化が表れていた。
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