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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
37/129

突入して

 ようやく、エスティルらも扉の前に到着した。

 すると、グレインの声が聞こえてくる。

 けれども、反響していて何と言っているのかがよく分からない。


「ふふん。俺様は、聞き取れるぞ」

「早くいいなさいよ」

 ジルのもったいぶった態度に、エスティルは苛立っている。


「……カルとギズは無事たって、何度も続けて怒鳴っている」

「すぐに、いいなさい、バカッ!」 

 語尾は小さな声であった。  

「バ、バカって……」

 小さい声だった分、ジルは傷ついたようである。

「もう! ごめんなさいね。ジルの耳は大きいだけじゃなく、何でも聞き取れる立派な耳よ。さすがね。ジル」

 エスティルのとりあえずのフォローに……。

「……何か、言葉に心が籠っていないような」

「もう、煩い! 上見る必要がなくなったんだから周辺に気を配っていて!」

「はいっ!」


 エスティルは洞窟に入ろうとした時、突然、振り返って大声を発した。

「そこの---、釣り目マントは----、外のゴブリンを一掃しときなさい! そして、私が帰るまで、そこの扉付近を死守しなさい。以上!!」


大声で命令された『釣り目マント』は。


「な、な、な、な、つ、『釣り目マント』だとぉ、き、き、き、き、貴様ぁ、不敬にもほどがあるぞ!!! な、な、な、何が『以上』だ!!!」


エスティルが指示した相手は、兵士団・先鋒隊兵士長のモーサである。

モーサはルーリットン家の次子であり、貴族であるのだ。


 彼は怒りが収まらなかったが、内容については最もだと思い直して、言われたとおりに連れてきた兵をさらに二つに分けて扉付近の守りを指示した。そして自分は10名足らずのの兵士と共に、エスティルらの後を追ってきた。

 目が釣り上がっているだけで、性格は意外と素直なのである。


 エスティルらは、洞窟の中に入っていた。

 中に入ると、外からでは想像ができないほどの広い空間となっていた。

 地中らしいが、真っ暗ということはない。

 魔術の明かりで、各所が照らされている。


「何だあれ、あっちの奥にも扉があるぞ」

 ジルしか見えないのだが、遠いところに扉があるらしい。そこから、太陽光が漏れてきており、武装したゴブリンが出ていくのが見えると言っている。


「恐らくは、あの扉から攻撃に出向くのでしょう。あちらを目指しますか」

 シャルティエットが献言する。

 彼としては、安全策を取りたいので、味方の部隊がいる方向へ誘導したい。


「変な提案しないで、まずはカル達を救出するわ。グレインの位置を特定して」

 エスティルはシャルティエットにそう言うと、後方に味方兵士らが追いついて来たので、モルトンに前に出るよう指示した。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 グレインの廻りには、ホブゴブリンが集まってきていた。

 投網魔道具を取り返すためもあってか、狂暴そうなのが多い。


 一方で彼は一人。

 魔力を吸われた二人を守りながらの戦いとなる。

 圧倒的に不利な状況である。ましてや、今、足元にある投網魔道具を奪われて、被されでもしたら、その時点で終わりである。

 先程、この魔道具を剣で裂こうとしたが、疵をつけることも出来なかった。

 会議での報告どおりである。


 何度か、見たことがあるので、この魔道具が収縮できるのは知っている。

 しかし、使い方まではわからない。


 グレインは焦っていた。

 ふと見ると、カルの指先が動いている。


「ははっ、どの位かな。意識とんでたな」

 カルは目覚めた。


「お前、動けるのか」

 グレインの悲壮な声が響く。


 カルは廻りを見廻すまでもなく、唸り声やら周囲の雰囲気で状況を把握した。

「多分」

 そう言って、うつ伏せの状態から立ち上がると同時に剣を抜いた。

 青白い顔した彼は、少しふら付いたので、剣で自分の体を支えた。


「グガアアアアア―――ッ」


 ゴブリンらが大騒ぎをし出した。


 立ち上がったカルの足元に、ハラリと投網魔道具が捲れて落ちていた。


 グレインは状況がわからないまま、斬り込んた。


 カルは、ゴブリンが大騒ぎした理由が分かった。

 この投網魔道具が千切れたので、大騒ぎしているのだ。


 どうやら、この投網は内側からだと簡単に斬れてしまうらしい。

 ……となればだ。こんな危険な物は切り刻んだほうがいい。


 カルは捲れた箇所に、もう一度斬り身をいれたところ、怒り狂ったホブゴブリンが突っ込んで来た。



『 == 魔力が無いのは好都合だ、剣を振れ == 』



 き、聞こえた。

 今、確かに聞こえた。

 久しぶりの声に少し、興奮さえ覚えた。


 カルが咄嗟に下段から斬り上げた剣は、目の前で剣を振り下ろしてきたホブゴブリンの股下から胸元までを切り裂いた。

 瞬時の出来事で、ホブゴブリンは訳もわからず、血飛沫をあげて、後ろへ倒れ込む。

 次々に襲い掛かってきたゴブリンも横薙ぎ一閃し、胴体が分断され倒れていく。


 これまでであれば、レッドベアーやホブゴブリンのような大きな魔物であれば、手首を切断することは出来ても、魔力不足から太い部位の両断は出来なかった。


 しかし、今は違う。

 ゴブリン、ホブゴブリン関係なく、両断できる。

 地面には、ゴブリンの血溜まりが幾つも出来ていた。


「お前、いい腕だ。あの女指揮官の前衛だけはあるな」

 グレインにそう言われたものの、何を言っているのか分からない。

 イマイチ、ピンと来ないのだ。


 ………カルは、エスティルと『指揮官』が結び付かないのである。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おい、あそこだっ、広場の左奥みろ!」

 派手に戦いだしていたので、ジルが発見した。


 ゴブリンらが集まりだしている。


 ソリアが、鬼気迫る表情で飛び出していった。

 彼女の目に『隻眼の狼』のリーダー・グレインの姿が映ったのである。

 これ以上、仲間を失う訳にはいかない。

 既に矢が尽きていた彼女は、彼を助けようと剣を抜き、駆けていた。


 エルフは森の守り人。

 故にエルフは長剣を持たない。

 樹々の中で振るうのに適さないためである。

 エルフ流剣術は、無駄な動きを省き、体の軸回転を基礎とするものである。


 故にソリアの剣は速い。

 魔力に満ちたミスリルの剣は、ゴブリンの目を裂き、首を掻き斬っていく。

 肩まである茶系の髪が回転する度に高速で靡く。


 彼女の魔術属性は土。

 軸回転が多い自分の足元を安定させると同時に、相手足元の地面を変形させ、バランスを崩し斬り伏せていく。


 時折くる風の刃に援護されながら、グレインの傍まで来た。


 グレインがギズを守っている一方で、ゴブリンを斬りまくっている剣士がいた。

 カルである。

 カルは、『魔感受の仮面』と『古来剣術』を上手く使いこなして、ゴブリン相手に無双状態となっていた。


 カルは最後の1匹を斬ると、グレインとソリアの方へゆっくりと歩いて行った。

 疲れはあるものの、息が上がったということもなかった。


 みんなが、カル達のところに集まってきた。

 駆けてきたエスティルらは、驚きを隠せなかった。


「お前、よく、よく、生きて……良かったよーーー」

 ジルは涙しながら、カルに抱き着いている。


「グレイン、二人を救ってくれて有難う」

 エスティルも涙ぐんでいる。


「いや、彼だよ。良くやってくれたよ」


 エスティルは無言で頷くと、エリアヒールで仲間全員を治癒した。


 中級魔術を平然と使うことに、みんなが驚く中、エスティルはカルに声を掛けた。

「ゴブリンを斬りまくっていた割には、具合悪そうね」

 カルの顔は青白い。

「そりゃあ、魔力が吸い取られているんだから」

 それを聞いたジルは急いで、魔力回復薬を飲ませようと準備をしている。


「そっか」

 エスティルも安堵の表情となった。

 涙が頬を伝う。


「お、お前、ホントにFランクなのか」

 ビグルは、カルの戦いぶりが信じられなかった。


「さっきの火の槍といい、こいつ等のランクなんて、今は考えないほうがいいぜ」

 モルトンは呆れ顔である。


「ところで、お前は何で魔力を吸い取られてるのに動けてたんだ! 普通はギズみたいに立てもしないだろう」

 グリアは信じられないといった口調だ。


「カル殿は、魔力量が異常に少ないことが要因でしょう」

 シャルティエットの声にも、安堵が感じられる。

 彼の安堵の要因は、これだけの武人がエスティルの傍にいることからくるもので、カルの無事とは関係なかった。


「どういうことだよ。全くわからん」

 グリアは壁に、もたれ掛かった。


「カル殿は、魔力が少ないが故に普段から魔力欠乏の頻度が多いのです。そのため、魔力欠乏症には耐性があるのでしょう」

 シャルティエットの持論である。


「なにそれっ……カルは平気だったってこと? なら自力で戻って来なさいよ。心配したじゃないの!」

「いや、平気な訳ないでしょ。少し意識失ったし」

「意識失ったって、それ、もしかして、寝てたってことじゃないの? あんた、みんなが心配して、必死に戦っている最中に寝てるなんて、いい加減にしなさいよね!!」

 エスティルは元気を取り戻し、勢いで喋っている。

 少し、嬉しくもなってきている。

 気分的にはいっぱい喋って、すっきりしたいのだ。


「………俺様的には寝てたことを、お前が責めるなんて、できないと思うのだけれど」

「んん、う……」

 この前、森の中で長寝をしていたエスティルは、言葉に詰まった。


「いい! カルは魔力量が少ないんだから、魔力回復薬も少しでいいのよ。飲ませすぎよ!」

 エスティルは、ただ言い返したいだけで、無理くり吹っ掛けてきた。


「え、そういうもんなの?」

「わからねぇけど。全部飲んどけ」

 グリアが呆れ顔で答える。


「まぁ、もう、いいじゃねえか、みんな、こうして無事なんだからよ」

 モルトンが、笑みを浮かべながら言う。


「ギズさんも、少し動けるみたいです」

 ソリアが魔力回復薬を飲ませたので、ギズも話せるようにはなっていた。


 とりあえずは、『新チームA』は、カルとギズの奪還に成功し、みんなが無事ということで、あらためて、喜びを分かち合った。


 敵地の真っ只中ではあるのだが。

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