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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
35/130

いざ、再戦。窪地へ

 朝陽とともに小鳥が囀り、カルは目が覚めた。

 すっきりとして、何気に目覚めは良かった。


 昨夜、寝る前に武具の手入れはしたのだが、念のためにと、もう一度手入れを始めてしまう。

 寝る前同様、どうしても、『魔感受の仮面』の端の欠けた箇所が気になってしょうがない。

 けれど、自分で直すことはできない。

 目覚めは良かったが、それだけがもどかしい。


 少しの間、仮面を見つめていると、ジルセンセが起きてきた。

 体のあちこちが痛い等と互いに話ながら、一緒に食事をとり、集合場所へと向かった。


 俺ら『チームC』あらため、『新生チームA』10人は、またしても、先頭集団である。

 ……捨駒感が払しょく出来ない。

 今回は、少し距離を置いて、後続に60人程度の兵士がつく予定となっている。

 目的地は例の窪地付近である。


 グレイン・フットの大きな掛け声とともに『新生チームA』は出立した。


 森に入ると、目にしたゴブリンは全て退治していく。

 グレイン・フットと同じ『隻眼の狼』のメンバーである女性が、次々と弓で射ってくれる。


 このエルフの女性、名前をソリア・ミルレールという。

 彼女は、小柄ながらも両腰に短めの剣を二本佩刀し、矢筒を背負っている。

 仲間がゴブリンに捕らえられていることもあって、口数は少ない。

 …ゴブリンを射る時の彼女の目は、とても厳しい。


 一行は、ガルツがメタルバックボアを仕留めた場所に着くと、少し休憩をとった。

 この先の窪地内に入るのは、やはりリスクが大きい。

 本来は、回避すべきなのだろう。

 というのも、もし、俺らが窪地の中に入った後、敵に出入り口を固められ、崖上廻りから一斉に火魔術を打たれでもしたら、被害甚大である。その際、上ばかりに気を取られ、地面に罠でもあったら最悪である。


 窪地内に入るのは避けたいなと考えていたところ、後方から伝令が来た。

 窪地に進めとのご命令である。


 後方には、前回の探索で兵士の四割を失った先鋒隊の兵士長がいる。

 そう、兵士長はルーリットン侯爵の次子モーサである。


 今回は、何としても、前回の大失態の埋め合わせをしなければ、ならないと彼は燃えていた。

 窪地に入れば、必ず洞窟の扉が現れる。

 そう考えている彼は、『新生チームA』を死地へ出向くよう命じてきた。

 勿論、洞窟の扉が現れれば、自分らが一番に行動しようと考えている。

 彼の廻りには、腕の立つものが多い。


 父や兄の手前、続けて失態をする訳にはいかない。

 ここで、一気に蹴りを付けたいとの判断であった。


 フットとミルレールの『隻眼の狼』の二人は、窪地へ進むのは、むしろ望むところといった感じである。


 そのまま、新生チームAは、フットを先頭に窪地へ入って行った。

 5日程前にゴブリンらと戦った場所である。

 なぜだか、窪地内にはゴブリンの死体が無い。

 無いというよりは、食い散らかされたように見える。

 何が起こったのかと不安にかられる中、モーサ率いる60名程の部隊が到着した。


 今回の編制は、以下のとおりとなっている。

  【新生チームA】

     『冒険者グループ』     10名

        内訳:旧チームC:カル、ジル、エスティル、シャルティエット、

                 グリア、モルトン、ビグル、ギズ

           旧チームA:フット、ミルレール

 

     『モーサ率いる先鋒隊兵士』 60名程


 因みに『新生チームB』には、長子グッペンが率いる本体の兵士60名がついている。

 そして、ルーリットン侯爵が率いる主力の兵士140名が応援部隊としてさらに後方に控えているのである。



「何にも出てこないじゃんかよ。なんか表紙抜けだな、モルトン」

「グリアの言うとおりだ。折角、お気にのロングソードも見つかったから、暴れてやろうかと思ったんだがよ」

モルトンはこの前、ホブゴブリンから逃げ出した際に、放り投げた愛用のロングソードが見つかったので、ご機嫌である。


 逆に、なぜ、魔物が出てこないのかと、兵士長モーサは機嫌が悪い。

 時折、後方からモーサの怒声が響く。


「俺らは魅力ないのかねぇ」

 モルトンは半笑いである。

「それだ! 襲う魅力がないんだ!」

 カルが叫んだ。

「何よそれ」

 エスティルは訝しげな表情である。


「『新生チームA』は魔力総量が少ないから、襲うには魅力がないんだ!」

「………魔力の少ないお前がそれを言うか…。カルが原因じゃないのか」

「あ………」

 ジルに痛いところを突かれて、カルもバツが悪い。

 思い浮かんだことをそのまま口にすると、こういうことになる。

 エスティルは無言である。


 そこへ、いきなり、立て続けに緊急要請の合図が上がった。

『新生チームB』とグッペンの隊、もしくは侯爵の本隊が襲われているのだろう。


 この窪地は声が響くので、モーサもカル達の会話を聞いていた。

 直ちにこの場を離れ、応援に行こうとしたその時であった。


 歩いて来た道から地響きがしたかと思うと、付近で待機していた兵士が、次々に空中へと飛ばされた。

 メタルバックボアが突進してきたのである。


「何だい。魅力ないんじゃなかったのかよ。来たじゃねえか」

 モルトンが愛剣を抜く。


「あたいを見つけたんじゃないのかい。イイ女だからねえ」

 グリアは、不敵に笑いながらも、何か変化がないかと辺りの岩壁を見回している。



「ええい、出入口は何としても死守せよ」

 モーサが兵に大声で指示している。


 しかし、いきなり現れた多数のメタルバックボアに為す術なく、突進を許してしまった。


 メタルバックボアはスピードを落とすことなく、窪地の中に入って来た。

 そして、真っ直ぐに冒険者らに向かって来た。


「来るぞ!」

 フットが叫ぶ。

「グレイン、私に任せてください」

 ミルレールは膝をつき、狙いを定め連射し始めた。

 彼女の矢は、メタルバックボアの額や首元に刺さり、次々と倒していった。


 しかし、その光景に安堵する暇はなかった。

 さらに奥から、多数のゴブリンが窪地の出入口を確保しようと襲ってきたのである。

 今度はゴブリンが、坂上から矢を射ってきた。

 丁度、エレンとマーレが陣取っていた辺りである。

 兵士も盾を突き出して前へと進む。


 それを見て、窪地の中央にいたグリアとモルトンが、出入口の方へ応援に向かった。

 カル達はミルレールが射ち漏らしたメタルバックボアと戦っている。


「ブフォー、ブフォー、オー」


 一直線に襲ってくるだけなのだが、体が大きく、威圧が凄い。

 回避するとまた向き直って襲ってくる。これが複数匹で繰り返されるのだ。

 直撃を受けたら、間違いなく、あの大きな牙で装備ごと貫かれてしまう。


「ちょっと、ジル、杖でカルを援護しなさいよ」

「ああああああっ」

 ジルは、もたついて、杖の狙いが定まらない。


「もう、何やってるの、借しなさい! ファイアボール!!」

 エスティルは取り上げた杖をメタルバックボアの顔へ向け、大声で叫んだ。


 すると、杖の先からは氷の結晶が散らばり、メタルバックボアが凍った。

 けれども、慌てて放ったので、顔ではなく、前足付近が凍っていた。


「はれっ?」

 エスティルから間の抜けた声が漏れた。

 実は、彼女が取り上げた杖は、火の杖ではなく、氷の杖であった…。


 メタルバックボアは、全速力で走って来たところに、前足と地面が連なって凍結させられたため、大転倒し、前足が引きちぎれてしまった。

 地面に打ち付けられて、苦しそうにもがいていて、もはや立つことが出来ない。


 結果オーライなのだが、エスティルは大声で、ファイアボールと叫んだ分だけ、恥ずかしさが倍増して真っ赤になっていた。


「もう、これ氷の杖じゃないの! ジルのバカッ」

「なんで、俺様が…バカって…」


 目の前の敵が倒れて、安心したのも束の間であった。


「ギェエエエエエエエッ---------------」


 巨大な咆哮とともに、空中から何かが飛来してきた。


「エスティル様------っ!!」

 シャルティエットが悲痛な叫び声を出して、走って来た。


 急降下してきたのは、レッサーワイバーンであった。


 足が千切れて動けなくなったメタルバックボアを喰らうために、急降下してきたのである。レッサーワイバーンは、ガブリと獲物を咥えると、すぐに飛び立ち、上昇して去っていった。

 恐らくは、どこかでゆっくり喰らうためであろう。


 幸にして、エスティルらに怪我は無かった。

 だが、二人は茫然としている。


 見上げると未だ二匹のレッサーワイバーンが、頭上で円を描いて飛んでいた。


「あ、あれって、恐竜じゃないか」

 カルは、レッサーワイバーンを見るのは初めてで驚いたが、それ以上にあの大きなメタルバックボアを咥えて飛び立っていったことに恐怖していた。


「そ、そうか、この前、戦ったゴブリンの死体は全て、彼奴らが食ったんだ。ここは彼奴らの餌場なんだ」


「カルッ、危ない!」

 エスティルが叫んでくれたため、カルはメタルバックボアの突進を何とか躱した。


「何、ぼうっとしてるの! 死ぬわよ」

「お前、仮面壊れているんじゃないだろうな!」

「大丈夫! ぼうっとしてただけ」

「……ホントに死ぬぞ、お前!」


「ジル、あなた、レッサーワイバーンが降りてきたら、最大火力にして杖で向かい打って! あなたは私が守るから、後はみんなでそのメタルバックボアを何とかしなさい!!」


「な、何とかって、……お前のところのリーダーは、何でも簡単に言ってくれるな」

 ビグルが背中越しにカルに話かけてきた。


「分かり易くていいでしょ」

「確かにな。あんな風に簡単に割り振られと、出来そうな気もしてくるぜ」

 背中越しに武者震いが伝わってくる。


 ビグルとギズは傭兵であり、対魔物戦はそれほど得意でないはずなのだが、何とか凌いでくれている。


 そこへ、次のメタルバックボアにありつけないことに痺れを切らしたのか、レッサーワイバーンが、兵士らが密集している例の窪地の出入り口付近にツッコんで行ったのである。


「うわああああーーーー」

「グギギギィ―――」


 レッサーワイバーンは、口の中に兵士やゴブリンを頬張ると急上昇していった。

 助かった兵士、ゴブリンは恐怖にかられた。

 皆、急いで、レッサーワイバーンから見えないよう木々の中に身を隠した。



 この惨劇の中、カル達の背後の岩壁に大きな扉が出現していた……。

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【御礼】

今回、DUをお読みいただきまして、ありがとうございました。

この小説を読んで、興味がある。続きを読みたい と少しでも思いましたら、

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是非とも、よろしくお願いいたします。

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