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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
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とんずらこく

「切りが無いから、逃げるのにゃ」

「わかった」

 エスティル、ジル、カルは、ジュノーを先頭に逃げ出した。

 シャルティエットもすぐに反応した。


「なにぃ! マジか」

 逃げ去った味方を目にして驚いたモルトンだったが、すぐに切り替えて後に続いた。

 グリアも木々をつたい、移動し始めた。


 追っ手は、ホブゴブリン3匹である。

 ドスン、ドスンと足音をたてながら、追いかけてくる。

 どうも、巨体であるため、走るのは苦手のようである。


 少し距離を走っただけでも個性がでてくる。

 足の速いのと、遅いのとが直ぐわかる。

 そもそもが、筋肉が上半身に集まっており、体のバランスが悪いのである。


 ジルは走るのを止め、その場で杖を取り出すと、ファイアボールを膝下目掛けて五発連弾で打ち込んだ。すると、走るだけで精いっぱいであった先頭のホブゴブリンは、膝下に大火傷を負って転倒した。後続の二匹も巻き込まれている。


 大転倒を見届けると、ジルはウサギ姿で、全速力で飛び跳ね、あっという間に先頭集団に追いついた。

 ジルは足腰が強いため、荷物を担いでいても物凄く早いのである。


 傭兵らも、ポーションを飲みながら必死に走っている。

 当然である。置いていかれたら死ぬのである。


 一行は迷わないように窪地に沿って、一目散に駆けた。


 そして、大蛇の一本通り道まで何とか戻り、一度足を止めた。

 ここまでで、カルもゴブリンを10匹は斬っている。


 どうも、追ってくる様子がない。

 どうやら、追いつけないので諦めてくれたらしい。

 走りながらの戦闘で、気が付けは『魔感受の仮面』の左下部分が欠けていた。

 欠けた箇所に夕陽が差し込んできていた。

 ほんのりと暖かい…。


 そこへ、後方からファイアボールが打ち上がった。

 例によって、緊急要請の合図である。

 再び、皆の顔が曇る。


「……随分と森の奥からだな」

 カルは奥歯を噛みしめながら振り返った。


「この時間帯では、助けに行くのも危険だにゃ」


「魔物の数が多すぎんだよ! あそこ迄なんて行けないよ。近くの奴らが行ってやるしかないよ。って、あたいらも、他人事じゃないからね。今、襲われても、助けは来ないと思っていたほうがいい」


「そりゃそうだ」

 グリアの言葉に、モルトンは納得の表情である。


 暫く進むと、頭を割られたメタルバックボアを見つけた。来るときにガルツが仕留めたものである。

 ジュノーの提案により、足を縛って持って帰ることになった。

 助けに来てくれたジュノーが言うので、反対を唱えるものはいない。

 ビグルとモルトンで担ぐことになったが、これが結構、重い。


「なあ、グリア、カル、暫くしたら、交代しようなぁ~」

 モルトンが声を掛ける。

「嫌だ」

「………」

「………カルは返事なしかよ。酷いやつらだ」


 その後の帰り道では、魔物に襲われることはなかった。

 ジュノーは分かっていたのだろうか、剣を鞘に収めていた。

 

 ルデス村につくと、『チームA、B』のみんなが迎えてくれた。

 多くの仲間が帰還できていないこともあり、満面の笑顔とはいかない。

 皆、疲れた笑顔である。


 そんな中、ジュノーが『銀翼』メンバーの元へと歩き出した。

 カルは、感謝の言葉はその日のうちに相手に伝えようと決めている。

 彼女は、カルの真っ直ぐなお礼の言葉を受けると、真っ赤になって戻って行った。


 今日あった出来事は、兵団へ報告をしなければならない。

『チームC』からはシャルティエットに報告してもらい、その後の会議にも代表として出席してもらった。


 会議の主な内容はと言うと、王都兵団先鋒隊の被害は甚大で、本体と再編成をするとのことだった。これは冒険者らも同様である。再出立は5日後となる。

 方針にも変更があった。魔人探索から魔物殲滅、仲間の救出へと切り替えられ、再出立の日は、森への深入りはせずに魔物殲滅を軸としていく。その際に投網の魔道具は必ず、確保するようにとのことだった。



……休憩所が騒がしい。

フットとグレアが、再編成について、言い合いをしていた。

『チームC』は、『隻眼の狼』の二人を加えて、10人となる予定なのだが、そのリーダーを誰にするかで二人は揉めていたのである。


 グレアは、犠牲を多く出したフットは無能だからと、リーダーにしたくない。

 一方で、グレイン・フットは正義感と責任感が強いため、今回の失敗を償う意味でもリーダーを続けたい。


 彼は、公爵令嬢が『チームB』にいることを知っている。それ故に無理ができるのは、この『チームC』だけなのである。仲間を救い出すには、この『チームC』のリーダーにならなければならないと考えているのである。


 『チームC』は、Fランクの『女神の祝福』+1シャルティエットと傭兵らで構成されており、目的も別々で意思疎通もできていない。ここに今回、『隻眼の狼』二人が加入するのである。


 フットは、Fランクや傭兵崩れの下に収まっては、必ず全滅すると主張して引こうとしない。

 どうしても、話し合いではリーダーが決まらないので、全員で『あみだくじ』をすることになってしまった。


 その結果、当選者は、なんとジルとなってしまった。

 『チームC』のリーダーはジル……。


 本人は満更でもないというより、少し嬉しそうだ。

 所信表明の言葉でも、考えていそうである。


 カルとエスティルは頭を抱えていた。

「俺様がリーダーに選ばれたのに、なんで、二人はそんな顔するんだよ!」

「選ばれたって、くじに当たっただけでしょが」

「そ、そうだけど……」

「大体、何ができるのよ!」

 エスティルは容赦がない……。

 ジルはカルを見ている。

 助け船が欲しいらしい。

「ジルセンセには、チーム全体を見るというよりも、扉探しに専念して欲しかったんですよ」

「そ、そうだった。そうか、今から辞退するよ」

「辞退すると、またあの二人が言い合いになるから、もういいですよ。仕方ないです。取りあえずは、この結果に納得しているようですから」

(恐らく、フットはジルなら扱いやすく思えたのだろう。)





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 出発前夜、四人で月を眺めながら食事を楽しんでいた。

 テーブルを囲い、椅子に腰かけて、ゆっくりととる食事は心地がいい。

 時折、緩やかな風が流れてくる。


 エスティル、カル、ジルが楽しく話している中、シャルティエットが一言呟いた。

「魔人が別にいるのかも知れませぬ……」

「「「えっ」」」

「あっ、いえ、私の勝手な想像です。何も根拠はございませぬ」

「やめろよ! 俺様はそういう冗談は大嫌いなんだ」

「そうよ、シャルティエット、ジルじゃなくても怖いわ」

「俺様は怖いなんて、一言も言っていない!」

「じゃあ、ジルが魔人と戦いなさいよ」

「な、なんでだよ! 俺様はリーダーなんだぞ」

「じゃあ、何ができるのよ!」

「……う」

「エスティル、そのくらいにしてあげて」

 以前と同じ展開なので、カルは話に割り込んだ。


 シャルティエットは洞窟の扉に脅威を感じていた……。


 会議での報告によると、洞窟の扉は、突如として出現し、中から多くのゴブリンが出て来る。そして投網魔道具を使って兵士らの魔力を吸い取り、魔力切れとなった彼らを洞窟へと運んで行ってしまうのだ。

 投網魔道具が、魔力を吸収することは、奪還出来た兵士からの情報である。

 それと、この魔道具は一つしかないらしいとのことであった。

 ほぼ、フットの推論通りである。


 どんなに強い者であろうと、魔力が無くなってしまえば、動くことさえできないのだ。

 そのため、シャルティエットは、エスティルを再び参加させることは回避したかった。


「投網魔道具なんて、見つけたら燃やしてしまえばいいのよ」

 エスティルは、この前の戦いの際にファイアウォールが使えたので余裕の表情である。


「エスティル様、魔力を吸収することができるような武具は容易に創り出すことはできません。恐らくはアーティファクトに準ずる類の物かと思われます。そうなると破壊することも容易ではありません。実際に剣でも斬れず、火魔術でも燃えなかったとのことでした」


「なら、取り上げるしかないわね。その後で、何とか処分しましょう。危険極まりないわ」

「あの魔道具を持っているゴブリンは、ホブゴブリンに守られてたよ」

「それ、カルがやっつけてよ」

「簡単にやっつけられるなら、この前みたいに、あんな逃げ方しないよ」

「みんな、いい逃げっぷりだったわよねぇ。休憩した時、傭兵ら三人揃ってロングソード持ってないのよ。途中で投げ捨てて来たんだって!」

「ああいう逃げっぷりを、冒険者用語で『とんずらこく』っていうんだぜ! 俺様は王都で聞いたことがある!」

「つまんないこと、知っているのね」

「……」


 暫く、沈黙が続いたが、四人とも逃げ出した時のことを思い出して、笑いがこみ上げてきた。


 明日は早朝出発である。

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