表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
32/130

エスティルを救え!?

「な、何て言った!」

「二人は、この辺りに居たはずなのにゃ」


 ジュノーは獣人である。

 人族よりも嗅覚は格段に優れている。

 そのジュノーが、付近にエレンとマーレの他にゴブリンの臭いが残っているという。

 周囲には争った形跡はない。

 背後から殴りつけ、気絶させて運んだのだろうか。


 カルは周囲を警戒した。

 『魔感受の仮面』に反応がない。ということは、今、周囲にゴブリンはいないということだ。


 ………生還できた喜びも束の間だった。

 チームBのメンバーは、どん底に突き落とされてしまった。

 エレンとマーレの2人が連れて行かれてしまったのである。


 パルーは、唇を噛みしめていた。

 ゴブリンの知能は低い。何者かが指示したに違いない。

 魔物を統率している者がいると予想をしていたにも拘らず、この失態である。


 次々と魔道具を持ったゴブリンを射抜く二人に対して、別動隊を送ってくることぐらい予想出来えたことだ。痛恨の極みである。


 そこへ、洞窟のあった場所を確認しに行っていたガルツが戻って来た。

 遠目での確認だが、既に扉は無くなっていたという。

 すぐさま、パルーは状況報告をしようとしたが、雰囲気は最悪であった。

 フレデリカが号泣していたのである。


「私の、私の責任です。………やはり、マーレは連れて来てはいけなかったのです」

 フレデリカは絞りだすように後悔を口にした。


「マーレとエレン殿が死んだと決まったわけではありません。連れ去られただけです。必ず生きております」

 ダルクが、熱く、諭すように答える。


「僕も…そう思います。必ず、二人とも助け出して見せます」

 怒りを滲ませ、発せられた声は女性のものであった。


 スレンダーで長身の彼女は、二本の剣を使いこなす従騎士で、水色の美しい髪を靡かせていた。

 彼女の名は、イシュルミット=アンセットという。

 フレデリカが、巨大赤コブラを倒すために詠唱を行っている間、ゴブリンを一番狩っていたのが彼女である。マーレを妹のように可愛がっている一人である。


「フレデリカ様、僕をあの『仮面のカル兄』と一緒に行かせて貰えませんでしょうか、彼に何かあったら、マーレが戻って来た時、悲しむと思うので護衛が必要………」


 イシュルミットの言葉は、パルーにかき消された。

「駄目です。あなたはフレデリカ様の護衛に必要な方です。行くのならジュノーが適任です」


 ジュノー自身も、元から行くつもりであった。

 カルに一緒について行き、もう少しこの森を知りたいと思っていたのである。エレンが攫われた今となっては猶更である。

 実際、ジュノーのほうが目鼻も効くので、余計な戦闘を避けたり、情報収集ができたりと適任である。


「それじゃあ、カル、一緒にいくのにゃ」

「あ、ああ。よろしく」

 二人は廻りを無視してサッサと行ってしまった。


 イシュルミットも正論を突かれたため、次の言葉がでなかった。

 実際のところ、彼女も回復しきれていなかったというのもある。


 カルとジュノーは崖上に沿って、エスティル達の方へ向かっていた。

 歩き出して暫くすると、ジュノーが一度足を止めた。

 それに気が付いたカルは、剣に手を掛けた。


 ジュノーは何もなかったかのように、すぐに歩き出す。


「走るにゃ」

「お、おう」


 カルは、今のジュノーの行動に疑問を持ちながらも、走りだした。

 暫くすると、獣が吠えているのが聞こえる。

 レッドベアーに違いない。

 二人は急いだ。


 音を頼りに、ジュノーが先頭を走る。

 ジュノーは凄いスピードで移動するので、カルは着いていくのがやっとである。

 途中、ゴブリンが出て来ても、鮮やかに斬りさばく。


 ジュノーが振るうレイピアは、剣身全体(ブレイド)が光を帯びており、さながら細いビームサーベルといったところである。

 彼女の魔剣術の能力はそれだけではない。

 戦いの最中、相手を斬らなくても、剣先でなぞったラインが紫色の糸状で宙に残る。そのラインに触れたものは、肉体を斬られてしまうという独特の魔力操作ができるのだ。


 この紫糸線(パープルライン)とスラッシュの連動で、次々とゴブリンは倒れていく。

 このため、カルは走ることだけに専念できた。


 カルは、初めてみる魔剣術に驚いていた。

「こ、これがジュノーの魔剣術か、……凄い」


 咆哮が大きくなってきた。

 もう、近くまで来ている証拠である。

 足元が悪くても気にならない、風を突っ切って、ジュノーの後を全速力で追っていた。


「やはり、レッドベアーだ」

 カルにもレッドベアーの大きな背中が見えてきた。


 その奥で、エスティルが倒れていた。

 ジルが寄り添っているのが見える。

 薬草か何かを飲ませているのだろうか。


 治癒魔術が使えるのはエスティルだけである。

 もしかしたら、それが理由で一番先に狙われたのかも知れない。


 近づくにつれ、疲労しているものの、何とか立って威嚇しているグリアの姿が、見え隠れする。

 さらに加速したジュノーは、木々を抜けると右に跳んだ。

 その際、レッドベアーの足にウインドエッジを3発放つ。

 ワンテンポ遅れてやって来たカルは、真っ直ぐに飛び込み、ジュノーが狙った足とは逆足のアキレス腱辺りを切り裂きながら、エスティルの傍まで駆けた。


「も、戻って来てくれたのか! カルッ」

「当たり前です、遅くなってごめん」

「ホントにギリギリなんだよ」

 ジルは感極まっているが、グリアは怒っている。


 今、レッドベアーは両足に傷を負い、背中から倒れ込んで、その場で藻掻き苦しんでいる。

 どうやら、立ち上がれないようである。


 バタつかせている長い腕を見ると、左手首より先が欠損していることに、カルは気付いた。

 見覚えがある。

 顔を見ると左目も斬られていた。

 先程、グリアが手甲のクローで斬った傷だろう。


 カル達を襲ってきたレッドベアーに間違いなかった。

「こいつ、逃げ去ったかと思ったが、再び襲ってきたのか」


 レッドベアーは、肘を使い起き上がろうとしていた。

 カルはその姿を目にすると、即座に剣を構えると、跳びあがり、レッドベアーの胸元に剣を突き立てると、すぐにジルとエスティルの下に戻ってきた。


「エスティルは大丈夫なのか!」

 この場では、エスティルしか治癒魔術は使えない。つまり、エスティルが怪我をした際は、彼女を治癒できる者はいないのである。


 心配したカルは、すぐさま駆け寄り、エスティルの手を握った。


「すー、すー、すやすや」

「………あ、あれ。もしかして、寝てる?…の」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ