拉致
少し、長くなってしまったかもしれません。
エンデルの森での戦闘は暫く、続いていきます。
エレンとマーレの2人は、後方から夫々、援護をしていた。
大きな武具を振り回しているゴブリンを集中的に狙い撃ちしていたのである。
「マーレちゃんの弓って凄いわね。ほぼ的中じゃない」
隣で光の矢を放っているエレンが話しかけた。
「エレンさんの光の矢も凄い的中率ですね」
マーレは結構な本数の矢を射っていたため、少し疲れていた。
「わたしのは魔術だからね~」
「私もこれ、この弓は魔道具ですので、腕前はそれ程関係ないです」
「そうなのね~」
「それと、‘ちゃん’は要りません、マーレとお呼びください」
「ごめんなさい。気にしてたのね。って、あれ~、あそこにいるの、カルじゃないの!」
「え、カル様?」
「崖上走っているの、あれ、カルよ。…………あっ落ちた」
「え、ええーーーーーー」
2人はカルを助けるようと、急ぎ、落下先に間隔をあけながら矢を放っていった。
射った矢の内、数本が岩壁に刺さる。
カルは数本の矢に背中等を何度も打ち付けながらも、何とか着地に至った。
結果的に、矢がクッションとなってくれたのである。
「無事、着地したみたいねぇ~」
「よ、良かった。でも、無傷な訳ないです!」
「彼奴は頑丈そうだから大丈夫よ」
エレンは全然気にしていない。むしろ、出来ることはしたので満足している感がある。
「あ、立ち上がりました。大丈夫かもです」
マーレの表情が晴れた。
「ホントに頑丈なのね。……ゴブリン並みの渋とさね」
「あ、あの。………言い方酷いです…お知り合いですよね?」
「…お知り合い……共通しているのは、人族くらいかしら……そうね。でも、ちょっと可哀そうだからサービスしてあげる!」
カルは着地に失敗したものの、怪我はなかった。
エッダの防具のお陰であろう。
ふらつきつつ、顔を上げるとゴブリンが剣を振り下ろしてきていた。
カルはその剣を受けずに躱しながら、ゴブリンの胴体を切り裂き右に抜けた。
が、その先にもゴブリンが剣を構えていた。こちらも、何とか、即斬り伏せた。
しかし、ゴブリンの多さに圧倒され、すぐに追い込まれてしまった。
結局、剣を振るい続けるも、岩壁を背に囲まれてしまった。
「ま、まずい、敵が多すぎる! 何とか突破口を見つけて、味方の方まで移動しないと!」
剣や鎚を手にしたゴブリンらが、詰め寄ってくる。
「ちょっと、この数、尋常ないな。っておい!!!」
カルの目に、たくさんの光の矢が映った。
エレンがサービスと称して、援護のために放ったものである。
カルは瞬時に誰の矢であるかも理解できた。
エレンの矢で死にかけたことがあったからだ。
味方に当てても、そんなに気にかけないのがエレンである。
ここに、エスティルはいない。
つまりは、矢が当っても治療してくれる人はいないのだ。
一瞬、死も覚悟した。……伏せるしかなかった。
けれども、それは杞憂であった。
真っ直ぐに放たれた矢は、途中でカーブを描きながら、カルに当たることなく、多くのゴブリンを射抜いたのである。
カルの手前にいたゴブリンらは次々に倒れさった。
「た、助かった。………って、あいつ、コントロール出来るんじゃないか」
カルはそう一言呟くと、奥に見えるパルーの姿目指して斬り込んでいった。
一直線に進む。
カルには、魔力を使った魔剣術の必殺技はない。
だが、剣術の才能は肉体に沁みついている。回避するのか受けるのか、はたまた斬り進むのか、後退するのか等の判断が速い。例の『魔感受の仮面』が後押ししているため、カルの後方にはゴブリンの死体が連なっていった。
次々とゴブリンを斬り伏せていく、カル。
『魔感受の仮面』をうまく使いこなし始め、地面が何度揺れようとも、ゴブリンが繰り出す攻撃にこれまでのような恐怖を感じることなく進んだ。必死なのである。
暫くすると揺れが収まった。
大蛇と巨大赤コブラの決着がついたらしい。
暴れていた魔物二匹は、お互いが噛みつきあったまま、膠着状態となっていたが、巨大赤コブラが大蛇の体を食いちぎってしまっていた。
そして、巨大赤コブラはそのまま大蛇を喰い始めたのである。
この状況の変化に、ゴブリンの行動にも変化が生じた。
岩壁にある洞窟内に、捕捉した冒険者や兵士らを、急ぎ運び始めたのである。
どうやら、巨大赤コブラは奴らの味方という訳でもないようだ。撤退するようである。
洞窟入口辺りには、ホブゴブリンが集まり、立ちはだかっていた。
ホブゴブリンとはゴブリンの上位種である。
体がゴブリンよりも三廻りほど大きいことから、すぐに見分けがつく。
魔物や人族の魔力を吸収して肉体の進化を遂げたのだが、知能は通常のゴブリンとさほど変らない。要は肉体が強化され、攻撃力が増したゴブリンということである。
グレインは、ゴブリンが仲間達を担いで移動するのを見て、怒りの形相で追った。
仲間を返せと叫びながら、ゴブリンを斬りまくったがパルーに止められた。
「何の真似だあ、パルー!」
「馬鹿か! 目の前のゴブリンを斬り伏せられても、奥にいるホブゴブリンらを相手にして、さらに仲間を助けだせる体力と魔力が、お前に残っているのか!」
「だからって! 見捨てられるか!」
「よく見ろ。あんなに人数をかけて、大事に抱えて移動している。早々、殺されはしないはずだ。それにお前、もう剣を持つのもやっとだろ、走ることも碌にできないんじゃないのか! このまま進めば犬死になることくらいわかるだろ」
「くっ」
グレインは言い返せなかった。
既に立っているのが精いっぱいだったのである。
パルーは、ずっと退却のタイミングを見計らっていた。
何としても、余力のあるうちに、この場から脱出しなければならない。
一部が退却しただけであり、この場には、まだ残されたゴブリンは多い。
いきなり、反転して襲って来る可能性は否定できない。
退路はガルツとジュノーで切り開いており、味方負傷者も一緒に脱出できそうではある。
唯一の懸念は、巨大赤コブラである。
あれが退路近くに移動して来たら、まず全員の生還は難しい。
赤いコブラの方へ向かった公爵家一行が、何とかしてくれるのを祈るのみである。
パルーがそう思った瞬間。
周辺一帯が、白い光に包まれた。
「ギゲゲェエエエエッ--------------」
振り返ると、白銀色に輝く光の大槍がコブラの頭部を貫いていた。
赤コブラは、瞬時に絶命した。
「公爵令嬢様クラスともなると、凄い魔術を扱うもんだな。巨大魔物も一撃じゃないか」
パルーもさすがに驚いていた。
「取り合えず、ここから撤退だ!」
パルーは、フレデリカらに撤退の合図を送った。
杖を空に向け、青く燃えるファイアボールを一発打ったのである。
これはチームBのみの合図である。
皆、もと来た道付近に集まることができた。
ゴブリンらも、巨大赤コブラへの一撃を見て、恐れをなしたのか一斉に退却を始めた。
カルもこの場にやってきた。
50匹以上のゴブリンを斬り、足元はふらついていた。
さすがに無傷というわけではない。
良かった。……死ななくて良かった。
……逃げ出さないで良かった。
自分が、ここまで戦えたことにも驚きがあった。
もう、何ひとつ、考えることは出来なかった。
カルは体力の消耗が激しく、無言でその場に座り込んでいた。
意識が遠のきそうな中、こっちに向かってくる足音に気が付く。
「お、義理堅いね。さすが! わざわざ、戻って助けに来てくれたんだね。ありがとう」
パルーが労った。
「…とりあえず、貢献できたみたいで、よかったです」
「助かったよ。ホントに。ん、あれ、一人なのかい?」
「そうです」
「………良く一人で、参戦してきたね」
「…………自分でも、今いろいろと驚いているところです」
そこへ、重い足取りでパルーの傍へと男が歩いて来た。
「いや、よく助けに来てくれた。……ありがとう。みんな、ありがとう。ありがとう。助けにきてくれて、本当にありがとう。うううぅぅぅぅ」
グレインは泣きながら礼を言った。
その後も、彼は一人一人に礼を言っていた。
彼の涙は止まらなかった。
正義感の強い彼は、仲間を救ってくれたことへの感謝の涙であった。
いや、救えなかった仲間のことを思っての、涙も含まれていたのであろう。
生還できた『チームA』全員が泣いている。
生還できたのは4人。内『隻眼の狼』は、グレインを含めて2人である。
11人中7人がこの場にいないのである。
援軍としてきた兵士も22人中15人が、この場にいない。
兵士らは本体へ報告するため、すぐにこの場を離れるという。
一方で、フレデリカは魔力を一気に大量消費したため、疲労していた。
状況からして、このまま進むのは無理そうなので、パルーは撤退する旨の献言をフレデリカにして、了承を得ると、カルには『チームC』の呼び戻しを頼んだ。
カルは、ポーションを飲むとすぐに立ち上がった。
パルーに道を確認し、例の坂道へと向かおうとしたところ、ジュノーが着いて来た。
「魔力にゃしで、あの中に飛び込んでくるなんて、どういう頭してるんだにゃ。馬鹿だと誰もパーティーを組んでくれないのにゃ」
「……確かに。馬鹿なことしているよな」
「そこは分るんだにゃ。カルは、ゴブリンよりは頭はいいのにゃ。」
「な、なんだぁ」
「ふにゅ」
ジュノーは、カルの顔を覗き込むように見ている。そして笑顔になる。
それを見ていたガルツも表情が緩んだ。
ジュノーが、相手に小馬鹿な態度をとる時は、好感を持った時なのである。
彼女はカルの度胸のよさが気に入ったらしい。
「この急坂の上には、エレンとマーレちゃんがいるのにゃ」
「マーレちゃん?」
「カルの顔を見たがっていた女の子だにゃ」
「えっ」
窮地を救ってもらったエレンには、すぐにでもお礼を言わなければと思っている。
けれども、あの少女とは会いたくはない。…本音である。
彼女が気になって、ここまで来たものの、やはり、緊張する。
答えたくないことを、いろいろと聞かれるのも嫌なものだ。
少しドキドキしながら、ジュノーと一緒に坂道を上り始めた。
正直、何を話していいのかわからない。
それでも、一歩一歩と進んだ。
ジュノーの足が止まる。
様子が変である。
…表情が厳しい。
「どうかしたのか?」
「………連れ去られたに違いないのにゃ」
「!!!」
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