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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
30/129

勇気の源

「一気に四カ所から上がるなんて、………とりあえず、周囲に魔物がいないのなら急ぎましょう」

「ははっ」

 フレデリカの言葉に皆が続く。


 これだけ、緊急要請が立て続けに上がると、何かあった時、こちらに応援部隊がくるとは限らない。

彼女の中に焦りが生じていた。


 エレンは歩くのに嫌気がさしていた。

「あ~、も~、やっぱし行くのね。ねえ、この1本道って、さっき見えた大蛇が通った跡だったりして」

「それ、いい線いっていると思うにゃ」


 地面が抉られ、木々が薙ぎ倒されている。

 道幅からいって、まず間違いなかった。


 進み行く中、先頭のマーレが大声を出して皆を静止させた。

「みんな、止まって下さい! これ以上、進むのは危険すぎます」

「ど、どういうことだ」

 ダルクが聞き返す。


「この先にはあの大蛇の他に、もう1匹大きな魔物がいて、敵対しています。他にも魔物が沢山います。多すぎて危険すぎます」


「味方は生きているのですか」


「生きて…います。けれども、ゴブリンらしき魔物が概ね300体以上は、いると思います」

 マーレはフレデリカの問に答える。


「みんな、魔道具の準備をしてください。このまま進みます」

 フレデリカの意思は変わらない。


 魔人が出たあの日、戦闘に参加しなかったことを、今も彼女は悔いている。


 あの場を脱出するという判断は、公爵家としては正解であっただろう。しかし、その結果、ドース以外は帰らぬ人となってしまったのだ。……もう、彼女には仲間を見捨てることは出来なかった。


 森の魔物を殲滅する。

 

 彼女の意志は変わらない。


 坂を下った先に、広がった光景は戦場であった。

 そこは大きな窪地となっており、7、8m級の土や岩の壁に囲まれている。


 左方奥では、さっき見た大蛇と巨大な赤いコブラが威嚇しあっている。恐らくはもともとは大蛇の塒であったのだろう。大蛇と同じ色の小さな蛇がたくさんいる。

 そこへ、あの巨大赤コブラが侵入してきたようである。


 一方で、中央から右端にかけては、チームAの冒険者達が、沢山いる大小のゴブリンらを相手に奮戦していた。

 ゴブリンらは捕らえた冒険者を奥に運ぼうとしている。

 捕らえられた冒険者達はグッタリとして動く気配がなかった。


 その光景を見たパルーは、太もものバンドに差し込んである炎の杖を抜くと、少し多めに魔力を注ぎ、グレイン目掛けて一直線に火炎を噴射した。


 ゴブリンは黒焦げになり一掃されて、道が開けた。

 パルーはグレインの傍まで駆け、背中を預けながら、奥に捕らわれている冒険者について尋ねた。


「あの光景はどういうことだ、グレイン」

 

「お、お前、来てくれたのか」

 グレインは、息せき切りながら答えた。


「捕らわれた奴らは、生きているのか」

「ああ、生きていると思う。ゴブリンは網型の魔道具を投げつけてくる。その中に捕らわれると、皆グッタリして動かなくなってしまう。恐らくは魔力を奪われたんだと思う」

「なんだと!」

「あの魔道具には気を付けろ! それと大きなゴブリンには必ずとどめをさせ」

「わかった。…ほんとに厄介だな。あっちの蛇は任してくれ!」

「本当に助かる! パルー頼む!」




----------

 グレインがこの窪地に着いた時、魔物はゴブリンのみであった。

 300体はいるものの、メンバーの実力からして十分に勝てると判断して『チームA』は戦闘を開始した。


 その後、間もなく、後ろから大蛇が窪地に入り込んできたのである。

 いきなり、背後を取られたため、混乱しそうになったが、グレイン自らが大蛇の相手をしようと対峙し、スペースのある方へおびき寄せた。


グレインは時間をかけずに葬ろうと、魔剣術を発動させようとしたその時、同じ道を通って、巨大赤コブラが現れたのである。


 味方は、再度背後を取られ、グレインもその状況に一瞬混乱した。

 だが、運よく、大蛇と巨大赤コブラは敵対し始めたのである。


 このため、グレインはゴブリンの戦線へと戻ることができた。

 戻ってみると、味方がゴブリン相手に極めて劣勢となっていることに驚かされた。

 グレインは助けが必要だと思い、すぐさま、副官にファイアボールを三発空中へ放たせた。


 混乱の中、なんとか現状を打破しようと自己のパーティーである『隻眼の狼』のメンバーに指示しようと周囲を見回したが見つからなかった。

 それもそのはず、彼らはゴブリンに捕らわれていたのである。


 グレインは驚愕した。

 あり得ないことであった。

 今迄、共に戦ってきた仲間である。

 実力は十分に知っている。

 ゴブリンごときに遅れをとるなんて、信じられなかった。


 そんな中、網を投げられて捕らわれている味方の姿が目に入る。

 グレインは理解した。

 『隻眼の狼』のメンバーは、あれで捕られたのだと。

 

 皆、味方が捕らわれて運ばれていくのを目の当たりにして、追いかけて、奥へと進み、気が付けば、『チームA』全体が、退却も出来ない位置まで、中央へとおびき出されていた。

 

 なぜか、ゴブリンの数が減らない。

 次から次へと現れるのだ。


 グレインは、目の前の敵を払いのけるので精いっぱいになっていた。

 このままでは、消耗していくだけだ…。

 

 切迫した状況の中、今、パルーが目の前に現れたのである。


----------


 崖上に多くの人影が現れた。


「あちらを見てください! 王都の応援部隊が到着したようです。20名はいます。上から降りてくるようです」

 ダルク配下の騎士が、力強く叫んだ。

 崖上の兵士達は、急勾配の坂を遅々とした動きで降りてきた。


 ゴブリンらは兵士達に気付くと。彼らが下りきった辺りに、投網を投げる要領で網を投げつけた。投げられた網は、空中でパアッと広がり、幾人かの兵士の上に被さった。

 すると、網を被った兵士はすぐに膝をつき、倒れ込んでしまったのである。


 実はこの網は、グレインの言うとおり魔力を吸収してしまう魔道具であった。


 ゴブリンは、兵士達が立てなくなったことを確認すると、網を引っ張り、兵士達を手繰り寄せ始めた。それを見た崖上の兵士達は、何とか仲間を救おうと、火魔術でこの網を焼こうとするも、焼くことはできなかった。それならばと、飛び掛かり、網に剣を突き立てたが、切り裂くことも出来なかったのである。


 パルーは、このゴブリンと兵士達の攻防を戦いながら見ていた。

「グレインの言ったとおりだな」


 その光景を目にしていたのは、パルーだけでは無かった。

 まだ戦いに参加していない後衛職の2人も、遠くから見ていたのである。


 マーレは、もと来た道を昇り、少し高い位置からあの投網魔道具の傍にいるゴブリンらを弓で射抜き始めた。

 エレンも同様に位置取りを終えると光の矢を放ち始めた。

 今回はコントロール重視のため、本数を減らしている。



 そんな中、カルは彼女らの反対側の崖上に到着したのであった。

 汗ビッショリである。息も荒い。


 崖の下を見ると、人と魔物が入り乱れて戦っていた。

 この窪地に一歩踏み込めば、確実に命を落とすのでは。

 死が過る。

 いかに『魔感受の仮面』があろうと、この乱戦の中での攻撃を、そうそう躱し切れるものではない。


 カルは足が竦んだ。

 勢いで走ってきたものの、崖下を見た途端、戦えなくなってしまった。


 しかし、ここで逃げ去るわけにも行かない。

 魔力が少ないというハンデを承知で、戦う決意を一度はしたのだ。


 みんなの居場所を、いや自分の居場所を守るために決意をしたのだ。

 そう。決意したのである。


 けれども、この場に立っているだけで恐怖が先立つ。

 指一つ動かせられない。


 一歩を踏み出す勇気がでない。


 勇気。…勇気。……勇気がなければ。


 勇気って、どうすれば自分の中でつくれるのだろうか。


 勇気の源って何なのか。勇気へと変えられるもの。勇気となるもの。


 カルはこの場に及んで、考え事を始めてしまった。


 すると……なぜか、ジルセンセが浮かんできた。

 そうだ、戦えないジルセンセでさえも、森に一緒に来たのだ。

 彼の方がよっぽど怖かったはずだ。



 領都では、俺は彼と同部屋に宿泊していた。

 彼も魔物と戦うのは怖かったのだろう。

 深夜、隣りのベッドで、震えて、よく泣いていた。


 エンデルの森にいたのだから、これまで魔物とは無縁であったはず。

 それなのに、魔物との戦いに参加しようとしているのだ。


 彼は、泣いて腫れてしまった目を見られないよう、気づかれないよう、午前中は兎人の姿ではなく、ウサギの姿に変身をして過ごしていた。


 俺は、彼の前向きな姿を見て、勇気づけられて、一緒に討伐参加の登録をしたのである。


 もしかして、これなのか。


 逃げてはいけない。

 逃げたくもない。…けれど。


 いや、もう、考えたって同じだ。十分だ。

 ジルセンセの決意と勇気が、俺の勇気の源だ。

 一緒に頑張るんだ。

 それでいい。

 もう結論だ。行動する。行動だ。


 カルは、王都の援軍と同じところから降りようと駆けだした時、大地が大きく揺れ動いた。


「とっ、ととと、あっ!」


 これまで、ずっと威嚇しあっていた大蛇と赤コブラが、とうとう、戦い始めたのである。

 互いに牙をむき出して、嚙みつこうと体を大きく、くねらした。

 その反動で、二体は岩壁にぶつかり合い、周辺一帯が揺れ動いたのだ。


 カルは足元のバランスを失い、崖縁から落下してしまった。


「う、うわぁ--------------------」

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