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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
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魔人の出現

 心地よい、青空の下、ジルフリードやフレデリカ、隊長のドースらが中心となって護衛の騎士達に声をかけ、暫く皆で談笑していた。


 「さあ、遅くならないうちにそろそろ出発するとしようか、といっても領都まで、そんなに距離はないけどな」

 ジルフリードがドースに声をかけた。


 「そうですな。それでは、ほら、皆の者行くぞ!」

 「ははっ」

 皆が腰をあげ、夫々が馬の方に動き出していたその時である。


 森の奥から、ガサッ、ガサガサッと草むらの中を移動しているような音が聞こえてきた。

 気が付いたのは、その場の見張りの者のみである。


 見張りの者が、音のする方を見ると奥に人影が見える。

 木々の影に隠れて顔は見えない。

 その人影は無言で、ゆっくりと近づいてきた。


 「そこにいるお前、何者だ! 答えっ……ごふっ」

 威嚇した声が響いたが、直ぐに途切れた。


 護衛の者は皆、周囲に異変があったことを察知し、声の聞こえた方へと向きを変え、警戒しつつ集まった。同時に馬車の守りも固められた。


 警戒をしつつ、近寄ると緊張が走った。


 そこには、全身が爬虫類のようなダークグリーンに染まった者が立っていたのである。

 手にしている剣には血が滴っている。


 …ダークグリーンの肉体に、額の右辺りに角のような突起物が見える。


 誰もがその容姿を見て、魔人を連想した。そして直に確信へと変わった。



 魔人は耳裏をかきながらこちらを見ている。

 体躯はそれ程に大きくはない。


 人を殺して奪い取ったのだろうか、防具を身に着けている。

 魔人は、目を細めながらゆっくりとこちらへ歩いて来た。


 騎士達は、仲間が殺されたという「怒り」とは別に「恐れ」という感情が沸き、混ざりあい、気圧されていた。


 恐れるのも当然である。


 この場にいる全員が、魔人を初めて目にしたのである。


 魔物に出くわすことは多々あっても、魔人族と出会うことなんてまずない。


 王国内でも、ここ300年ほど目撃されたという記録はないのである。


 勇者パーティーが長耳族や獣人族らを率いて戦った時以来のことであろう。


 今、お伽話に出てくるような“邪な者”が、敵意を持って近づいてきているのである。


 彼らは身構えたまま、硬直状態となってしまっている。


 相手の力量が未知数なため、硬くなるのは無理もなかった。



 隊長のドースを含め全員が、既に抜刀している。

 既に犠牲者がでているので、話し合いの余地はない。


 魔人は立ち止まり、左右を見渡している。


 人数を確認しているようにみえる。


 「お前は、魔人なのか」

 ドースが口を開いた。


 「見てのとおりだ。妖精にでも見えるのか、ケッ」


 「なぜ、仲間を殺した」


 「別に。大した理由はねえな」


 「仲間を殺したのだ、覚悟はできているのだろうな」

 ドースのこの言葉が終わると同時に囲いが完成した。


 「一体、何の覚悟だ。あ~、これだけ人数がいても何とも感じねえんだよ。この俺の言っている意味わかるか? 強ええ奴がいねえって言っているんだよ」


 現状では、相手の正面と両サイドの三方向を囲い、戦闘隊形をとっている。


 魔人の出方がわからないため、こちらも容易には動けない。

 魔人の剣は、恐らくミスリル。やや短めのものである。



 二人のやりとりの間、副隊長のコールは、警戒をしつつ、フレデリカらを馬車へ誘導していた。



 ふと。魔人の目に馬車へと移動する彼女の姿が映った。


 「ふうん。いい女だな。……弱ってきた魔女を捕まえにきたんだがな。やめだ。魔女は殺すことにして、この『隷属の首輪』は、あの人間の女につけるか。くくっ、あのエルフといっしょに可愛がってやる。…構わんだろ」

 薄ら笑いを浮かべながら、魔人が喋った。


 その視線、その言葉にカルの剣は反応した。

 決して許すことのできない将来の主への非礼に。


 剣に躊躇いはなく、怒りの突進であった。


 カルは、前衛2列目の位置から真っすぐに敵の右腕を目掛けて斬りかかった。


 魔人は虚をつかれたものの、僅かに斜め右に向きなおしたので、右腕は無傷であったが、地面から振りぬかれた剣を躱しきることはできず、浅くではあるが右腰から左胸にかけて斬り裂かれた。


 やや後ろに退いた魔人に対して、さらに間合いを詰めたカルは、袈裟懸けに剣を振り下ろし、相手の左腕に傷を負わせた。


 魔剣術の階級は、『初級』、『下級』、『中級』、『上級』、『剣豪』、『剣聖』とある。階級は、『魔術の力』と『剣術の力』が夫々一定の基準に達しないと上がっていかない。


 カルの階級は『下級』ではあるが、これは魔力量が少ないことが要因であり、剣術の力量のみで判断するならば、『上級』レベルであった。


 それ故に、見事な剣技と一撃一撃が重い斬撃で、相手を圧倒しているものの、魔力量が少ないことから致命傷を与えることができずにいた。



 魔力が少ないことに、魔人も気が付いていた。

 だが、剣からの威圧が凄く、加速していく斬撃を受けるのがやっとだったのである。


 そのため、魔人は態と肩を斬らせることにした。

 そして、剣が肩を切り裂く間に魔術を放ったのである。


 カルの両腕が炎に包まれた。

 その炎は黒く燃え上がっている。

 黒炎は魔人族のみが使える魔術である。


 「グゥアアッ」


 突如として、黒炎が捲き起こったことで、カルは相手を見失い、いくらか体のバランスが崩れたところに腹部に蹴りをくらい、吹き飛ばされ、地面に叩きつけられてしまった。


 一瞬の出来事であったが、この瞬時の動きに連動して、両サイドの剣士が飛び掛かった。だが、剣先は届くことなく、掌から放たれた黒炎に2人とも捲かれてしまった。



 魔人は鋭い目つきで、周囲を見回している。

 「やってくれたな。ちょっとのよそ見で、斬りかかってくるとは。それにしても、・・・まさか、あんなガキに、これだけ傷を負わされるとは。チッ胸糞悪い。」

 両サイドから受けた斬撃に対しては、撃退したので気にかけていないようである。


 カルに斬られた肩の傷が回復し始めた。

 魔人には肉体の再生能力があった。


 「まあ、魔力がのりきっていない剣では、傷もこの程度よ。すぐ直るぜ。深傷を負うことはないな。ククッ」



「があああぅっ!」

 黒炎に焼かれている3人は、物凄い唸り声をあげて地面に伏していた。


「フハハハハッ、なああよぉ、お前が隊長だろっ、お前がかかって来たらどうなんだ。3人とも黒炎で苦しんでやがるぜ。可哀そうとか思わないのか? 直ぐに消炭みにしても構わないんだが、この苦しむ声が心地よくてっな。どうだ、聞いてるとたまらんだろ。ククッ」

魔人は、残忍な目をしながら挑発してきた。


「き、貴様、」

 ドースの額から冷汗が滲んでいた。


 魔族だけが扱う『黒炎魔術』を目の当たりにしたからだ。


 黒炎は、火魔術をのみ込むと言われているため、奴に火魔術は通用しない。


 逆に火魔術でおこした火を利用されてしまう恐れさえあるのだ。



「……だが、犠牲を払ってでも、奴をやらなければならない」

 ふと、自然にでた言葉だったが、口に出したことで、ドースの腹も決まった。

 彼は敵の挑発には乗らず、冷徹な目となり指揮を執り始めた。


 魔人を殺すには、胴体部分にある体内の「魔核」を破壊しなければならない。


 魔人は首を落としても、再生するとさえ言われているのだ。


 手足を斬り落として弱らせた後に「魔核」を突き破壊する。これが理想である。


 ドースは呟いた。

「逃がす訳にはいかない。何があっても、必ず、必ずこの場で仕留めなければ・・・」



 後方では、馬車に乗り込もうとしていたフレデリカが、カルの唸り声で振り向いていた。そして、その後の光景を目にして言葉を失っていた。


 黒炎で焼かれるもの、血飛沫をあげて倒れていくもの。


 水魔術や風魔術等が発動され、戦場となっていったのである。


 副隊長コールの指揮のもと、ジルフリードとフレデリカらを乗せた馬車は直ぐに出立し、全速力で領内を目指した。


 ダルクとスコットも馬車に並走している。


 ミューラー家領内には、強力な結界が施されているため、魔人は侵入することはできない。結界に近づくだけで肉体が焼かれてしまうからだ。


 全力で走る馬車の中で、フレデリカは恐怖と後悔が入り交じり、涙がとまらない。

 マーレも怯えている。


 そんな状況の中で、ジルフリードは、応援を呼ぶために屋敷へ先行して単騎走らせていた。


 ミューラー家の現当主は、彼の祖父にあたるラルフリード・ラノ・フォンミューラー公爵である。


 かつて、彼は王国の聖騎士として活躍していたこともある。魔力量の多さや魔力操作の秀逸さにおいて、領内において彼に及ぶ者はいない。即ち、今、剣戟にて魔人の肉体を貫き、「魔核」を破壊できうる可能性のある数少ない人材なのである。



「御祖父様であれば……」





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 カルへの黒炎魔術は、咄嗟に放たれたものであったので、他の騎士に放たれた黒炎に比べると弱いものであった。だが、腕の黒炎は消えるどころか、体全体に炎が回り始め、カルは激しい痛みの中、自身の死を覚悟していた。


 両サイドから突進して黒炎に巻かれた2人は、既に息絶えていたのである。



「……フレデリカ」

彼女の幼き頃の顔が浮かんできた。

そして、直ぐに「誓いの儀」の光景が浮かびあがった。


それが彼に最後の力を与えた。


「……なんとしても、奴を斬らなければ」

炎に焼かれ、体中に激痛が走る中、彼は立ち上がろうとしていた。


眼前では、幼いころから剣を教えてくれた、面倒を見てくれてきた先輩達が、倒されていく……。


カルは立ち上がった。

そして剣を構えようとした。


がしかし、もう腕の感覚はなかった。


炎がまわり、その身も焼かれている。灼熱の中、意識が消えつつあった。


「……ああ、熱い」


彼は、力尽き、地面に倒れ込んだ。




……最後に彼の瞳に映ったのは、碧色の光であった。


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