護衛
「カ、カル!」
エスティルは止めようとしたが、疲労があって走り出せない。
ジルも止めきれなかった。
そもそも、俺たちは他のチームと目的が違う。俺達の目的は残りの魔法通路の扉を探すことだ。そして扉を開き、リエルの安全を確保する。魔物退治は二の次なはずだ。それなのに、助けに行くなんて、………ジルは、カルの行動が理解できなかった。
「仕方ないわ。ジル。『チームB』のあの人達が心配なのよ」
「今日、あったばかりの奴らじゃないか」
「何か、感じるものがあるのよ。きっと」
「大体、最弱チームが助けに行っても、足を引っ張るんじゃないのか」
「女神を守る騎士なんだから、必ず無事に帰って……」
エスティルは、急に大きな魔術を使った反動からふらついて、そのまま倒れてしまった。
「お、おい、お前大丈夫か! シャルティエット、早く戻ってこい! 俺様だけじゃ」
「うるさいね! 見張りをきっちりやっといておくれ!」
グリアは気が立っている。
シャルティエットの案内には、モルトンではなく別の者が行った。
モルトンは精神的疲労を理由に、体よく、案内を断り休んでいた。
今、ここには、グリアとモルトンを含む前衛が3人とジルとエスティルの2人、計5人であり、5人と2人に分かれてしまっている。そしてカルが離脱している。
一度は伸びきっていたフォーメーションを修正出来、敵を追い払えたが、また芳しくない状況にあるのは確かである。
「グリア! あそこ」
ジルが叫んだ。
「わかってるさ」
走り出すと、木の枝に立っていたゴブリンをクローで仕留めた。
今迄は、ゴブリンは見逃していた。たかだか、1匹を追い回しても仕方がないと思っていたからだ。しかし、今回の件で『チームC』は考えを改めた。
今回は恐らく、前衛2人が前に出過ぎていたために狙われたのだろう。
レッドベアーが地中に潜み、襲ってきたタイミングの良さからして、合図をしたものがいる可能性がある。そう考えると、ちょいちょい、見かけていたあのゴブリンらは、偵察部隊等の役割を担っているはず。なので、もう見逃す訳にはいかない。
カルは『チームA』を助けに行く途中、5、6匹のゴブリンを斬っていた。こいつらも、恐らくは情報伝達のための予備員であろう。
カルは走り続けた。
一方で、こちらは、最後尾となる『チームB』の面々である。
「先程の音といい、ファイアボールも3発上がっています。前方へ急ぎましょう」
「ははっ」
「いやお待ちを、フレデリカ様。ここは敢えてペースを崩さずにいきましょう」
否定したのは、パルーである。
「移動しながらで、構いません。理由を聞かせてください」
フレデリカは、味方を見殺しにするとも取れる、彼の発言に対し既に怒っている。
「慌てて行くと、罠にかかります。それこそ、こちらに犠牲が出る可能性があります。この森の敵はそういう敵なのです」
パルーが進言した。
「今回の魔物が罠を張ってくることは、私も聞いております。だからと言って、罠に嵌められた仲間を助けないという判断は致しません」
フレデリカの口調は厳しい。
「助けないということではありません。助けに行く途中で、何らかの罠をはり、こちらの人数を減らしに掛かって来るのではということです。ですから慎重に進むべ…」
パルーは、穏便に話をおさめようとしていた。
「ねえ、こんな獣道よりあっちに開けた道があるわよ~」
エレンが会話を遮るように大声を出した。左方向を指さしている。
しかも、その道は、チームAの方角へと真っ直ぐに伸びているのである。
フレデリカは、即座にこの道を選択し、皆、続いた。
『銀翼』も続いたが、この不自然さに違和感を覚えたパルーは、警戒するようジュノーに伝えた。
走りだしてすぐに、大きな地響きとともに大きな魔物が、一直線に突進してきた。
ブフォー、ブフォー、オー
ズドドドッドーーー
襲ってきたのは、メタルバックボアという巨大イノシシである。背中を中心に体全体が金属のように硬いのが名前の由来である。鋭く大きな牙もち、冒険者でもガーディアン系の職種が3人いないと止められないというのが一般常識である。
メタルバックボアが、さらに加速して、直ぐそこまで迫って来ていた。
「躱せーー」
ダルクが叫んだ。
一直線に進んで来るだけなので、容易に皆が躱し切る中、一人仁王立ちの者がいた。
ガルツである。
ガルツは、半開きの目で、少しばかり嬉しいのだろうか、微笑んでさえいる。
彼は大きく深呼吸をすると、魔力を大斧に流し込んだ。
体中の筋肉が膨れ上がり、大斧も光を発している。
そして、腰を落とし、上段に構えると、タイミングドンピシャで大斧を振り下ろし、突進してきた魔獣の脳天を打ち砕いた。
グジャアーー
魔獣は頭部を割られて地べたに伏した。勢い余って反り返ってきた下半身も遅れて地に伏す。
一瞬の出来事であった。
フレデリカは、手を口元へ持ってきたまま、声が出なかった。
鮮やかな仕事振りに皆も声がでなかった。
「彼奴の口もと。…血がついておる。前方で犠牲者が出ているのかも知れぬのう」
ガルツは斧を振り、魔獣の血を払っている。
「さすがだね。ガルツ」
パルーが寄って来た。
「大したことでもないじゃろ」
「……それにしても、我々がこの道に入るのを見越して、用意したんじゃ………」
「偶然じゃろ。パルーは考え過ぎじゃ」
「そうかい」
実は、パルーはこの森には魔物全体を統率する者がいるのではないかと考えている。
先程のフレデリカへの進言もそういう考えが背景としてあった。
「パルーの言うそんな幾つもの魔物を統率できるような魔物なんておるとは思えんがの」
「でも用心するに越したことはないよ。出て来て敵いそうもなかったら即逃げ、しようね。はははっ」
「逃げる時、メタルバックボアに追われたら大変なのにゃ」
「ちょおっと、ジュノー、怖いこと言わないでよ。私は逃げるの遅いんだから」
「それなら、逃げないでエレンが全部やっつければ、いいのにゃ」
「それは、ガルツに任せるわ!」
『銀翼』のメンバーはお喋りが絶えない。
今回、『銀の翼』は他の冒険者らとは別に、ギルドより別の依頼を請け負っている。
ギルマスであるトームから直々にである。
内容はというと、公爵家令嬢・フレデリカの護衛である。
そもそも、なぜこのような展開になったのかと言うと。
例の『ホーンラビットの大儲け話』を聞いた多くの冒険者らが、自分達も大儲けをしたい一心で、急遽、参加登録を取り消して、各々で森へ行ってしまった。
登録者が減少したために、討伐に不安を覚えたトームが自ら参加者の書類を確認していたところ、公爵令嬢の参加登録に気付いたのである。
その後に、事を進めていたダルクやマーレと接触を試みた。
2人からは、公爵様からの協力であるとの説明を受け、ギルマスは納得のうえ、了承した。
実際の処は、公爵は何も知らず、フレデリカの独断ではあるのだが。
今回、ギルマスとしても戦力的に心配という側面があり、了承したということもある。
だが、如何に嬉しい申し受けとは言え、危険が伴うのだ。公爵令嬢の身に何かあってはならないと、ギルドとして『銀の翼』に護衛を依頼したのである。
それ故、パルーは進言という形式で先程から彼女へ意見していたのであった。
護衛の件については、当初、フレデリカは不服としていた。
けれども、参加条件だということで、渋々了承をしたという経緯があった。
因みにマーレがおこなったギルド登録のフェイク工作は、完璧といえるレベルであったのだが、さすがにトームの目までは誤魔化すことができなかった。それ故に、フレデリカの素性が知れてしまったという訳である。
「マーレ、前方に来てくれ」
ダルクは魔力探知に長けている彼女を呼んだ。
「はい」
マーレは後方に魔物がいなくなったことを確認した後、走って前方に来た。
マーレは周囲を見回す。
特に感じるものはない。
彼女はシャルティエットが使う探索魔術とは違い、生まれ持った感覚のようなもので周囲の地形をも把握ができてしまう。
「どうだ。マーレ」
「周囲に魔物はいません。けれども、少し進むと緩るやかな下り坂となっています。その先の広い地形で戦闘が行われています」
「さっき見えた大蛇だな」
「そうだと思います」
マーレは少し落胆していた。
探知した周囲に、カルを感じ取れなかったからである。
「ちょ、ちょっと待って、下り坂って、逃げる時は上りってことじゃないの! 嫌よぉ。危ないんだから」
「大丈夫にゃ。エレンは逃足一番早いのにゃ」
「上り坂は苦手なの!」
2人が言い合いを始めたその時であった。
ファイアボールが三発右手の方向に上がった。
緊急要請の合図である。
しかも、上がったのは四カ所。つまり、王都からの先鋒隊七部隊の内、四部隊が援軍要請をしているということになる。
「一度に四か所から…」
そう呟くと、フレデリカは先を急いだ。




