ホーンラビットの大儲け話
カル達が街に到着してから4日後に援軍が到着した。
『魔人捜索及び討伐』のための部隊である。
銀色に煌めくプレートアーマーを装備した兵団に観衆の目は奪われた。
領内全域は、歓迎ムード一色となり、人々は王都兵団を一目見ようと駆け寄り、沿道には人だかりが出来ていた。
魔人は出現したその日の内に討伐されたこともあり、領民達は実際に被害にあった訳でもない。
皆、差し当たって恐怖は感じていなかったのである。
しかし、ここで困ったことが起きていた。
冒険者らの間で、ある噂話が流れていたのである。
「おい、聞いたか?」
「あれか? ド素人の村人がホーンラビットを大量に討伐して大儲けしたって話のことか?」
「そうだ」
「詳しくは聞いてないんだが…」
「換金して大儲けした奴ら、調子に乗って冒険者登録したら、パーティーランクはFだったって話だ」
「Fって! 見習い程度の奴らが、大儲け出来るんなら、討伐の参加登録するのなんか馬鹿らしい。王都兵団が動き出す前に森に行って、サッサと稼いじまったほうが利口だな!」
「そうだ。何でもここのホーンラビットの部位は質が良くて、高額で買い取って貰えたって話だからな」
「魔人を討伐して名を挙げようと思って来たが、あれっ切り出たなんて話は聞かないしな」
「やるか」
「だな」
冒険者らにとって、この話はとても魅力的な話として、『ホーンラビットの大儲け話』と呼ばれ、街中では誰もが知るところとなっていた。
実は話をしていたこの二人、いつしか酒場でエレンに声を掛けてきた二人組である。
二人の話を聞いていたエレンは、今度は自分から声を掛けた。
「止めた方が良いわよぉ。あなた達、生きて帰って来れないかもよ~」
「何だと! あっお前『銀翼』の女。」
「何が起きるか分からないんだから、王都兵団と一緒に行った方がいいと思うけどぉ」
「あのな。駆け出しのFランク冒険者が大儲けしているんだぞ! 俺らはもうⅮランクに成ろうかってレベルだ。俺らなら余裕だ」
「え~。Ⅾランクって、判断も実力もやっと一人前ってレベルじゃない。まだEランクなら半人前なんだし、行かない方が良いんじゃない?」
「喧嘩売ってんのか、お前! ランクなんて制度があるから下に見えているかもしれないがな、俺たち『双竜』の実力はお前達よりも上なんだよ。」
二人は剣を抜きそうな勢いである。
「あら、怖い。怖い。それじゃあ、ご勝手にしてください」
エレンは、面倒ごとは嫌いなので、必要以上に止めることはせずに退散してきた。
「あいつらだけで、行ったら絶対に戻って来れないのにゃ」
ジュノーは、少し離れたテーブルで自分の剣の手入れをしていた。
「お。こんな時に剣を変えたのかい?」
パルーが驚いてジュノーの剣を見ている。
「軽くて魔力が少なくても扱えるものに変えたのにゃ。今迄のは、ホーンラビットと戦っていたら、刃がガタガタになってしまっていたにゃ」
「……やはり、普通のホーンラビットじゃないよな。魔道具や武具を強化しておかないと危ないな」
この夜、複数のパーティーが荷馬車に揺られてルデス村へと向かった。
考えることは皆、『双竜』と同じだったのである。
この日の午前中。カル達4人はエッダの防具店に行った。
微調整が済んだ防具の受け取りのためである。
店内に入ると、ヨルブもいた。
ジルは駆け寄って、メリーザの容態を尋ねた。
「メリーザ様は、お体、大丈夫ですよね。何もないですよね」
「う、うむ。……相も変わらず、臥せっておられる。お話も出来ぬ状態なのじゃ」
「そ、そんな」
「長年、森を護るため魔力を消費し続けて来たのじゃ。ましてや、ご高齢でもあられる。今は公爵様にお任せするより仕方がなかろう」
「うう」
「泣くでない。ジルよ。王都から応援が来たのじゃ。魔人も魔物も討伐されるじゃろ。討伐されれば、リエルとも連絡が取れるはずじゃ」
「は、はい」
ジルは俯きながら返事をした。
シャルティエットは無言で廻りを見回している。
エスティルはというと、既に防具を装着し終わっていた。
「ど、どう、に、似合うかな?」
「お似合いで御座います。しかしながら剣はもっと短めなものにされた方が宜しいかと」
「あ、そうだったわね。剣術とあってないんだったっけ」
「はい。今、佩刀しているものと同じ長さのものを予備でお持ちください」
「わかったわ。新しいのと2本差しにするわ。」
エスティルはシャルティエットのアドバイスにより、剣術もある程度、思い出していた。
カルが奥から着替えて出てきた。
「す、すみません。俺だけ服まで作ってもらって」
「仕方ないじゃろ。ノヴァが出来ないのじゃから安全面を考えたら、チェーンウォームの糸から作ったその布が一番じゃ。肌がむき出しのところは効果ないがの」
「了解です。ありがとうございます」
「礼ならば、儂ではなく、エッダに言うがよい」
「エッダさんありがとうございます」
「何の、何の。無理はせんようにな」
ジルも装着し終わった。
「動き易いな。うん」
満足そうな顔である。
「ちょっと、ジル、そのお腹なんとかならないの。冒険者の体系じゃないわよ。かっこ悪い」
「う、煩いな」
かっこ悪いと言われて、顔が少し沈んでしまった。
カルは、ジルの沈んだ顔を見ていて、ふと思い出した。
「そうだ! あ、あのぉ、仮面は?」
カルは『元のカル』の知り合いが街中にいるかも知れないと思い、ジルセンセに仮面を買ってきて欲しいと頼んでいたのだ。
「仮面は道具屋だよ。頼んであるから安心しろよ」
「ありがとうございます。ジルセンセ。よかった」
「あれ、シャルティエット、エスティルは?」
「お着換えのため、奥へと行かれております」
「着替え? エスティルも服を頼んでいたんだ」
「いえ、頼んでいたわけではありませんが、なんでもキャンセルされた服があるとのことで、サイズがあうなら譲り受けたいとご店主に懇願されまして、今試着中です」
「何と図々しい」
「酷いこというわね」
「あ、痛っ」
カルは後頭部にチョップをくらった。
いつの間にか、エスティルが奥から出て来ていた。
「カルは、私が聞いていないと思うと、ディするわね。そういうの止めなさ~い」
「そういう時は必ず、エスティルは聞いているよ」
「何、反論しているのよ」
「ひてて」
右の頬を引っ張られた。お約束である。
「ろ、ろお、ヒャイズの方は?」
「あ、見て見てピッタリなのよ。ちょっと胸が苦しいけど大丈夫な範疇よ」
「どうしてそんなに胸元が開いているんだよ! パーティーに行くわけじゃないんだからな。そもそも、なんでスカートなんだよ、肩も出ているし、露出部分多すぎだろ、シャルティエットも何とか言えよ!」
「許可がございましたので、ではご意見を……魔物退治であれば、それほどの問題はありませんかと」
「なんで、擁護するんだよ」
「あのねぇ。カル、練習していて分かったんだけど、私って結構、魔術は凄いのよ~」
エスティルはご機嫌である。祈るように組んだ手を動かしながら体まで揺らしている。
なぜか遊びに行くような感覚になっているところが怖いが、エスティルはノヴァが普通の人よりも強力とのことなので、この衣装でも大丈夫なのだという。
因みにジルはエスティルの衣装に見とれている。
もともとウサギの姿の時は服を着ていなかったのだ。
服装には無頓着に、違いないはずなのに…。
「な、なんか、カッコいいなその服。王都の人みたいだ」
「そ、そう。ありがとうジル。カルも少しは私を褒めなさい!」
仕方ないので、チョットだけ褒めた後、俺らはエッダさんにお礼を言い、5人で道具屋へと向かった。
5人。そうヨルブも一緒なのである。
予約した魔道具を購入する前に確認してくれるとのことで、ついて来てくれたのである。
因みに、最初は疑ってかかっていたシャルティエットも、2人の超一流職人と話をして、感銘を受けたらしく、何か武具?の製作を依頼していた。それと、チャッカリ剣を1本譲って貰ったらしい。




