ジグムとエッダ
カル達3人は道具屋に向かっていた。
陽も落ちている。
エスティルは、今から向かっても、道具屋はもう閉店しているだろうと思っていた。
だが、言えずにいた。
ノヴァが出来ないなんて、魔物と対峙する者にとっては、命に関わる一大事である。
今、必死になって魔道具に望みを繋ぐカルの姿を見ていると、明日にしようとも言えなかった。
「あ~、俺様はもう疲れた。腹も減った。道具屋は明日にして、もう宿に行こうぜ」
「あんたは、デリカシーの欠片もないわね!」
「え、ええ?」
ジルは怒られた意味が分からない。
「はは、ジルセンセの言うとおりだね。明日にしよう。遅くなると、シャルティエットも心配するだろうしね」
「彼奴が心配するのは、エスティルだけだけどな」
「ジルッ、いちいち引っかかる言い方しないで」
「ふん!」
「もう」
「ま、まあ、戻ってみんなで、楽しく夕飯でも食べよう」
3人は宿屋に戻り、1階の食堂で、シャルティエットを含め4人で夕食をとった。
「ヨルブ様のお陰で、武具関係は全て無料になったのは大きいね」
その分、魔道具や薬の代金に回せるのでカルは安堵の表情である。
「ヨルブ様の声が聞こえてこなかったら、絶対に入りたくない店だったけど、以外と凄い剣とかが置いてあったわね」
二人の話を聞いていたシャルティエットは、合点がいかない。
「そのような武具を無償にて提供いただけるとは、信じ難いことです。店名と場所を教えてくださいませ。明日、私目が見て参りましょう」
「えっと、確か店名は、『武具店 バグジ・エッダ』だったわよね。看板は店内にあるのよ」
「『バグシ・エッダ』ですと!」
「ええ、確か」
シャルティエットは驚いた。
『バグシ・エッダ』といえば王国5大名工の一人である。
10年程前に諸国を見て廻りたいと、王都より旅立ち、その後行方知れずとなった人物なのである。そのような人物が手掛けた武具を無償で頂けるなんてことは普通では考えられない。
彼は、擬物、いや呪いが掛けられている武具でないかと疑った。
なので、何か兆候がなかったか3人に聞いて見た。
「そんなもの、あるはずないだろ!」
ジルが怒り出した。
「そうよ。自分の弟子だって、ヨルブ様が言っていたのだから」
「ヨルブ様? ヨルブ様とは」
「ヨルブ様はヨルブ様よ。…言われてみると、お酒が好きな事ぐらいしか知らないわね」
「確かに」
エスティルとカルは顔を見合わせている。
「ま、まさか、あの、ジグム様のことですか!」
「「「ジグム様???」」」
3人で顔を傾げている。
「ヨルブ・ジグム様といえば、爵位を一切受けとらず、アーティファクトの研究に専念し、そこから多くの魔道具を世に出された方です。まだご存命であられるのですか! どちらにいらっしゃるのでしょうか!」
シャルティエットが、捲くし立てて聞いてくる。
それに対して3人は、引き気味である。
何か、言ってはいけないことを言ってしまったという感じである。
「あ、あはは。き、きっと別人よ。ジグム様だっけ? そんなに大層な人じゃないわ。お酒ばかり飲んでいる人よ」
(あ、軽く、ディスっている)
「先程は、『バグシ・エッダ』が弟子であると」
「そ、そんな関係に見えた~、みたいな。ね、見えたわよね2人とも」
「そ、そうだね」
「あはは」
ジルまで愛想笑いをしている。というか取り合えず、笑っている。
三人で胡麻化そうとしているのが、見え見えであるため、シャルティエットは詮索をするのを止めた。その代わりという訳ではないが、余計な事は話さないことを条件に防具店に同行させてもらうことを願い出てきた。
彼はエスティルの従者である。エスティルの指示に背くことはないからと、特別問題は起こらないだろうとジルも同行賛成した。
「もとい。武具についてはOKね」
「そうだね」
カルが相槌をうつ。
「それでジル。魔道具については、あなたが一番詳しいでしょ。私達、『記憶喪失者』と『転生者』だもの。聞いても良く分からないわ。だから、あなたが聞いてきて、私たちに教えて」
「確かにそれはそうだが」
いきなり、話を振られてジルは少し合点がいかない。
「ジルは何でも知っているし、理解力も高いし、こういう時、本当に頼りになるのは、あなたなのよ。ねぇ、カル。…そうよ、ノヴァの出来ないカルのために頑張っていいものを選んできてあげて」
「確かにノヴァの件は大事な問題だよな」
「私は、魔術の練習。カルは剣術の練習が夫々あるから頼みたいの」
「そ、そういうことか。そ、そうだな。俺様の使い方を良く分かっているじゃないか、分かった。明日は俺様一人で選んでくる!」
ジルは、満たされた表情になり、食べ終わると意気揚々と一人で部屋に戻ってしまった。
(エスティルは、ジルセンセの弄り方だけでなく、扱い方も上手くなったな。)
三人とも食事が済み、席を立とうとした時、シャルティエットが口を開いた。
「森に魔人はいるとお思いでしょうか」
「いるわけがないでしょう。カルが倒したんだもの」
エスティルが、当然といった口調で答える。
「そ、それは嘘、偽りは無いのでしょうか、カル殿」
「え、まあ、正確に言えば、俺の力だけじゃない。命がけで足止めをしてくれた騎士がいたから倒せたんだ。俺はただ、後ろから魔核を貫いただけなんだ」
「メリーザ様やリエルだって見ていたんだから、本当なんでしょう。それがどうかしたの?」
「ならば、森にいるのは魔物のみということになりますな」
「それはわからないでしょ。まだ他にも魔人がいる可能性があるんでしょ」
エスティルの言動に対して、シャルティエットは返答を避けた。
間をあけて、シャルティエットが話し出した。
「……先程の話ですと、カル殿は『転生者』であると」
「ああっ! エスティル!!」
カルもエスティルが口を滑らしたことに、今、気が付いた。
カルが転生者であることは、今後のカルの人生を左右することでもあるので、身内だけの秘密事項としていたのである。
「ご、ごめんなさい、カル。シャルティエット、それは誰にも言わないで!」
当のエスティルも、無意識に口から付いて出ていたのである。
「畏まりました」
シャルティエットは特に詮索をしなかった。なぜなら、疑念よりも納得する部分が多かったからである。
カルは思った。
(これって、契約不履行ってやつじゃないのか)




