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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
22/129

すれ違い

 ヨルブは目を凝らして武具をチェックしながら、店の奥の人と話しをしていた。

 カルが声を掛けようとしたその時である。


 隣にいたジルセンセが半泣きで、ヨルブに駆け寄っていった。


「ヨルブ様~、うわわぁーーん」

「おおお、どうした、ジルよ」

 

「ご無事だったんですね。ヨルブ様」

「無事? 儂は、このとおり問題ないぞ」

「はっ!? メリーザ様、メリーザ様は、どちらにおられるのですか!」

 ジルは、急に必死の形相である。


「何じゃ、リエルから聞いておらんのか。メリーザ様は、今、公爵邸にて治療をされておる。容態が芳しく無いのじゃ」

「お会いすることは出来ますか!」

「今は警備が厳しいからのう。儂以外は、公爵邸に入ることは難しいじゃろうのう」

 ヨルブの表情は硬い。


「ところで、お前達こそ何でこんなところにおるのじゃ」


 カルは、多数のホーンラビットに襲われたことやリエルと連絡が取れなくなってしまったことをヨルブに伝えた。

 ヨルブも事態の変化に困惑する。


「メリーザ様が、ちょっと森を離れたくらいで、魔物がそんなに発生する訳がない。やはり、魔人が影響しておるのじゃろうか」

 ヨルブは腕を組みながら続けた。


「儂は、メリーザ様に旨い物でもと、買物に来たついでに、たまたまここへ寄ったのじゃ。お前さん達のホーンラビットの話を公爵様に伝えなければならぬ故、直ぐに戻ることにする。この店は儂の弟子の店じゃから、遠慮せずに好きなものを装備してゆけ。そしてリエルと連絡をとるのじゃ。儂も情報を集めておくからの」

 

 そう言うと、奥にいる店主へ「頼む」と言わんばかりの合図をして、早々と出て行ってしまった。


「お好きなものを持って行って構いませぬぞ」

 奥に座っていた店主らしき人が出て来た。

 見た感じ、ドワーフである。

 店主はヨルブの弟子だといっても、ヨルブと年齢はそれほど変わらない様にも見える。


「いえ、お金は持っていますので、お支払いいたします」

「遠慮は無用ですじゃ。どうせ、定価では一つも変えぬじゃろ。気に入ったものがあれば、言うてくれ。使い方を説明するからの」


「あ、はい。……それではお言葉に甘えて」

(そんなに高かったんだ。)


 そこへ扉が開き、エスティルが入ってきた。

「窓が空いているから、全部聞こえていたわ。好きなもの選んでいいのよね。ラッキーね!それと、カル。防具もそうだけど、薬や魔道具も必要でしょう」


「確かに。薬は絶対に必要だね。いくらくらいするんだろ」

 

 エスティルが魔術で攻撃参加するとなれば、治癒魔術の回数が減るはずである。

 今後は、自分で回復薬を持っていなければならない。

 

 ジルセンセの方をチラッとみたら、首を傾げている。

 3人揃って、薬の値段など全く分からないのだ。

 まあ、防具はタダということなので、とりあえず、選び始めた。

 

「……物理防御か魔法防御、どっちが重要なのかがわからないけど。候補はこれかな」

「……馬鹿なの。あれだけ、血だらけにされたんだから物理防御に決まっているでしょ!」

「確かに。でも実際、死にかけたのはエレンの矢の方だったんだけど」

「味方に当たっても『ごめんなさい』の軽い一言で済ませる。…あの女、どうかしているのよ! ホントに!…あの矢の方が確かに危険ね」

 二人とも、エレンに対して良い印象はない。


「むう。カル殿でしたか、あんたはノヴァが出来ておらぬの」

 店主が話しかけてきた。


「ノヴァって何ですか?」

「やはり、知らぬのか。ノヴァとはのう、ほれ、彼女の手を、目を凝らして見てみよ。薄っすらと白い半透明の膜の様な物が見えぬか、半透明の膜が指や手の形をかたどっておろう」

「ほ、本当だ。見える」

「ほ、本当ね」

 エスティルも不思議そうに自分の手を見ている。


「それが、ノヴァじゃ、所謂アナザー魔術の類で、ボディコーティングじゃ。これは魔力操作の程度にもよるのじゃが、体温対策や防御対策にもなる。例えば森で夜を過ごしても体温の維持が出来うる。また普通なら掠り傷程度であっても、無傷ですむといった具合で、総合的な肉体のコーティングのことじゃ。お主はこれが一切出来ておらぬ」


「だから、この前一人で血だらけだったのね」

 エスティルがキョトンとして見ている。


「何で、そういうの教えてくれないの?」

「記憶喪失者だもの。覚えてるわけないでしょ」

「……」


「ど、どうしたらノヴァを使えるのですか!」

「どうしたらといってもじゃな。儂にも分らぬ。普通は小さい頃に取得して、成長すれば無意識レベルで出来るものなのじゃ」

 店主も困ってポリポリと頭を搔いている。


「ジルセンセは、ノヴァのやり方……」

 ジルも首を振っている。知らないようだ。


「む、無意識レベルで、皆はやっているのか」

「す、すぐに出来るようになるわよ、ねえ、ジル」

「魔術の使えない、俺様だって出来ているんだから、大丈夫、大丈夫」

 取り敢えず、フォローしている感じである。


「こ、これって、俺が一番死ぬ確率が高いってことじゃないのか」

 カルは自分の両手を凝視している。


「ひ、飛躍しすぎよ。いざとなったら、私がヒールで治してあげるから。元気出して」

「お、俺様も薬や魔道具を買って、いざという時はフォローするから」

「……そうだ、魔道具なら」


「そうよ! ま、魔道具なら大概のものをフォロー出来るわよ。魔道具のことなら、何でも聞いて! 私に任せて、ね、カル」

 エスティルも勢いで、元気づける。


「……お前、記憶ないのに分かるのか」

 ジルが見ている。


「あ、確かに何も覚えてないっていうか知らない………」

「「……」」


「………話は終わったかの。ふむ。魔力量が少ないとなれば、こちらの防具が良いかの。軽装じゃが、微量の魔力で、関節部分を中心に守ることができる。武具も儂が選んだ物の中から好きなものにしなさい。師匠からああ目配せされては、有用なものを用意せざるをえないからの」

 店主は選ぶのが好きなのか、にこやかである。


「あ、あの、可愛らしいものを選んでください。ピンク色のものとかあったりします?」

 エスティルが少し恥ずかしいような口調で言う。


「……実用的なもので、お願いします」

 カルが言い直す。


「チョットくらい、お洒落なものにしても、いいじゃないの。もう」


「そんなものがあるのかよ」

 ジルが呆れた目をしている。


「あるかも知れないでしょ! 私、ピンク似合うの」


 結局、3人とも店主が出したものの中から選んだ。

とりあえずということで、その場で一度装着したところ、着こなしがイマイチである。

しっくりきていない。

店主が微調整するのに3日はかかるというので、4日後にまた取りにくることにした。



「なんか、いろいろと説明してもらったけど、頭に入ってないから、いざという時に使えるか微妙ね」

「う、うん」

 カルはノヴァが出来ないことを気にして、返事も上の空である。

 カルを元気づけようとエスティルは、話を続けてみる。


「なあに。元気だしなさいよ。ヨルブ様のお蔭で凄い防具を付けられるんだから大丈夫よ」

「………そうだな。そうだ、あの店主って、名前何て言うんだっけ。聞くの忘れた」

「バグシ・エッダに決まってるでしょ」

「何でわかるんだ」

「だって、店内に『武具店 バグシ・エッダ』って書いてあったじゃない」

「あ、ああ、成程、そういうことね。ははは」

(……俺は字が読めないから街には住めないな)



 3人は店を出たところで、一人の女性とすれ違った。

 その女性は、目立たない服装ながらも柄の部分に家紋が印された剣を佩刀していた。

 

 亜麻色の髪に少し幼さの残る顔つきの彼女は、普段見せることのない険しい表情で扉のノブに手を掛けようとした時、「ハッ」とした。


 今、すれ違った3人の内、見知った顔があったのである。

 彼女は、信じられないといった面持ちで、慌ててすぐに踵を返すと辺りを見回した。


 夕方、この時間帯は冒険者らが情報収集を兼ね酒場に繰り出す頃合いである。

 領都は人も多い。

 もう、3人の姿を見つけることは出来なかった。


 彼女は急いで戻り、店の前までくると、もう店主は閉店の準備をしていた。

「あ、あの、今し方、出て行った3人組はどこへ行かれたかご存じですか!」

「道具屋に行くと言っておったぞ。でも、道具屋も閉店の頃合いじゃしのう」


 彼女は、唇を噛みしめていた。

 恐らく、あの3人も閉店の時間に気付いて道具屋へ行くことはないだろうと思ったからだ。これで、もうどこに行ってしまったか、わからないと落胆した。

 今直ぐにでも、探しに行きたい気持ちがあったが、彼女には重要な仕事があった。


 だが、彼女は勝手な思い込みをしていた。

 この名工の営む店で発注ができるのは、領内でも限られている。

 ほぼ、公爵家ぐらいなものであろう。

 そのため、あの3人は結局何も買うことはできずに諦めて、店を後にしたに違いないと思い込んでしまったのである。


 今日の彼女には、彼らが発注したかどうかを確認する程の余裕はなかった。

 何よりも彼女は急いていたのである。


 気持ちを切り替えて、店主に話しかけた。

「先般、当方にてご依頼したものは出来ておりますでしょうか。」

 彼女はそう言うと、書面を差し出した。


「おお、これは、これは。全て上がっておりまするぞ。しばしお待ちください」

「ありがとうございます。武具はあちらの者たちが全て運びます故、お渡し願います」

 そう言い終えると、彼女は、諦めきれないのか往来する人達に目をやり、意中の人を探していた。

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