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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
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冒険者登録

 ホーンラビットの村人襲撃事件がギルドへと報告された日、即ち討伐日が決定する1週間前のことである。


 カル達4人は、冒険者ギルドを目指して街中を歩いていた。


 領都の賑わいは、村とは段違いである。

 立ち並ぶ建物は3階建てと高い。道幅は広く、石畳が敷かれている。

 お店も多く、行き交う人々も多い。


 領都に到着した際には、城壁の高さに圧倒されていたものの、直に街の雰囲気に馴染み、気にいったようである。さらには、到着するやいなや、『銀翼』のメンバーがエレンを連れて行ってくれたことから、エスティルの機嫌は直っていた。


「街って凄いわねぇ。人がいっぱいいるのね。あ、あの立派な建物、あれが、冒険者ギルドの建物ね。あそこに書いてあるわ」

 

 エスティルは領都の華やかさに魅了され、ステップも軽やかである。


 彼女は、冒険者ギルドの建物を見つけるやいなや、我先にと階段を駆け上り入って行ってしまった。


「あいつだけ、最上階の一人部屋だもんな。いいよなぁ。……ちょっと、浮かれ過ぎじゃないか、あいつ。なぁ、カル」

 ジルとカルは、同室の二人部屋を選んでいる。

因にシャルティエットは財布が別なので一人部屋を借りている。


「仕方ないですよ。唯一の女性なんだし。大喜びしてたんだから、あれはあれで、いいじゃないですか。この間の森での戦いでは、結構、エリアヒールを連発して大変だったと思うし。……そんなことより、本当に討伐戦に参加登録するんですか?」


「当たり前だ! メリーザ様の身に何かあったに違いないんだ! そうでなければ、いきなり、魔物があんなに多く発生する訳がない! 魔物達を蹴散らして、早く『エンデルガーデン』に戻るんだ」


「参加登録すると、自由が効かなくなるかも知れないですよ。討伐は、名のある冒険者らに任せて、俺らはエンデルガーデンの扉を探す方が良くないですか? そもそも、俺達では戦力になり得るかどうか」


「俺様は戦力にはならない。お前は十分なるだろ。そもそも、参加登録しないとギルドに規制されて、森に入れないかも知れないだろ。何にしても、俺様は早くメリーザ様の傍に行って上げたいんだ」


「わかりましたよ。……一応聞きますけど、本当にジルセンセも参加登録するんですか?」

「す、するよ。する。俺様は足腰が強いから荷物運びだけどな」


 実際にホーンラビットの毛皮やら大半の荷物を背負って運んできたのは、ジルである。


「か、勘違いはするなよ。お、俺様は、た、戦わないからな! でも、目も耳もお前達よりずっといいから、そういう見張り的な役割をする。ただの荷物運びじゃないんだからな」

「なるほど」

 結構な説得力があって、カルは納得した。


「ふう。それじゃ、登録した後に防具でも買いに行きましょう」

「そ、そうだな」


 ギルド本館の中に入ると、立派な武器や防具を身に着けた冒険者やら傭兵が大勢いた。

 身なりがいいのは、恐らく王都から来た冒険者らだろう。


 これまでは、領内に魔物がほとんど出なかったため、1階フロアでも冒険者の姿は疎らであった。だが、幾日前からは互いに情報交換のためか、冒険者がごった返すようになっていた。


 先に入ったエスティルとシャルティエットは、既に受付を済ましてこっちを見ている。


「何で、そんなに遅いのよ。カルは参加登録の前に冒険者未登録なんだからね。手続きが多いんだから、早くしなさい」

 言われるほど、遅かったとも思えないのだが、エスティルが急かしてきた。


 エスティルに言われるまま、列に並んでいると、意外と女性の冒険者が多いことに驚いた。

 自分としては、命の危険がある仕事なんて絶対に付きたいとは思わない。

 でも、これだけ女性が多いとなると、そんなにリスクはないのだろうか。

 それとも、ここにいる女性は、特別な能力を持った人ばかりということか。

 多分、後者なのであろう。


 そんなことを考えているうちに、順番となったので、受付の女性に挨拶をすると、すぐに始めてくれた。

「それでは、そこの三角錐の水晶に人差し指を付けてください」

 受付の女性に言われるまま、水晶の先に指を付けると血が一滴流れ落ちた。

 血が流れたのに、指に痛みはなく、傷も無かった。


「はい、次にお名前を仰って下さい」

「カル、あ、いや!」

 カルは、本名を口走ってしまい、慌てた。

 実は、登録名は別の名前にしようと考えていたからだ。

(ちょっとまて、そもそもエンデルで、登録するのは不味かったのでは?)


「登録完了しました」

 受付の女性は答えた。

 素っ気ない対応をされたので、別の名前でもう一度とは言えなかった。

 

 彼女が淡々としていて素気ないのは、多くの冒険者が領都に集まって来ているので、いろいろと仕事が忙しいからだろう。

 全く、笑顔がない。

 何でもいいから、早く済ませて欲しいといった顔つきだ。

 

 彼女は獣人族である。耳からすると狼人族といったところだろう。

 肌は小麦色。

 よく見ると、ギルドの制服から露出している部分、手の甲や首筋には何かしらの傷が見て取れる。

 年も若いというわけではない。

 多分、元は冒険者で、引退後にギルドに勤め出したというところだろうか。


 勝手な想像をしていたところ、大事なことを思い出した。


「あっ、そうだ。この顔で、カルという名前の登録って別にあったりしませんか、そ、その二重登録とかになっていたり、しないですか?」


「顔は関係ありません。魔力を登録しているのですから。二重登録なんて起こりません」

……元のカルと魔力量は同じなのに、魔力そのものは別ものらしい。


「あ、ああ、そうなんだ。大丈夫だったんだ」

 カルは、受付の女性に愛想笑いをしながら取り合えず返事をした。


「それじゃあ、次はパーティー名を登録しましょ」

 エスティルはそう言うと、用紙に記入し始めた。


「ちょっと待て、パーティーは此奴も入るのか!」

 ジルは怒りだした。

 シャルティエットが一緒のパーティーとなるのに納得が行かないのだ。


「何で? この際、いいじゃないの。ねえ、カル」

「……」

「だってこいつは、お前しか守らないだろう。そんなの仲間じゃない!」

 ジルは、徹底抗戦の構えである。


「なるほど。一理あるな」

(エスティルの従者なのだから、協力放棄を主張される可能性もある。)


「私はメンバー加入には拘りません。ご指摘のとおり、エスティル様以外は守りませんので」

 シャルティエットは当然の風で答えた。


「じゃあ、パーティーは3人登録にするわね。もう!」

「当然だ」

 ジルはエスティルに勝った気分でいるのか、少し嬉しそうだ。


「それじゃ、次は俺様がチャッ、チャッとやらないとな」

 気分が良くなったらしく、ジルは荷物を背負いながら換金所に向かった。


 換金所はギルド内にある。

 ホーンラビットの部位を査定専門官に見せる必要があるのだ。

 今回のホーンラビットの件は、依頼があった訳ではないので単なる商品の持ち込みである。だが、エンデルの森には、これ迄魔物がいなかったこともあり、魔物の部位は予想以上の高額で買い取って貰えた。


 先程の宿屋では予約を入れただけなので、ホーンラビットの皮等を換金したらお昼までにお金を持って行かなければならない。

 別の者が来て、お金を支払われたら部屋は取られてしまうのだ。


 少しばかり時間が掛かったが、換金を終えて、ジルが意気揚々と戻ってきた。

 支払いが高額となったのは、自分のお手柄と言わんばかりの表情である。


 エスティルはそんなのは、お構いなしにシャルティエットに頼んだ。

「じゃあ予定どおり、シャルティエット、お願いね」


「しかと、承りました」

 シャルティエットは、ジルから宿泊料を受け取ると支払いに向かった。


 支払いに行くことについては、最初、彼は拒否していた。

例によって、エスティルの護衛の任があるからと傍を離れる訳にはいかないとの一点張りであったのだ。けれども、街中だから安全なのだと、また役に立って欲しいと、エスティルが説得し、一時的に任から外れることを了承したのである。



「じゃあ、俺らは、防具を見に行こう」

 カルは、この前の戦いで傷だらけになったので、防具に対しての真剣度が違う。


「ちょっと待ってよ。ここ見て! 依頼がいっぱい貼ってあるわ。この中から気にいった依頼を選ぶのね」

 エスティルはもう、冒険者になった気分でいる。


「こ、これみて! 指名手配されているこいつら! 途中で魔人の格好していた3人組よ。連れてくれば、金貨3枚も貰えたわよ」


「こっちをみろよ。こんな爺さんにも懸賞金が掛かっている。金貨200枚だってよ。俺様でも捕まえられそうなのに」


「何言っているのよ。捕まえるのが大変だから200枚も掛かっているんでしょ」

 エスティルは呆れ顔である。


「でも、この爺さん。凄い目しているな」

 カルは手配書を見て、背筋が凍る思いでいた。

 

 カル、ジル、エスティルの3人は、ギルド内を一通り見た後、防具屋へ向かった。


 2件、3件と防具屋を見て廻ったが、どこも値段が高くて手がでない。

 街中に、冒険者らが集まってきたことから、武具や防具等は全て値上がりしていたのだ。


「高くて3人分なんて、揃えられそうにないわ」

「……俺様は武器はいらない。防具だけでいい」

「別にそんな意味で言ったんじゃないわよ」


 3人とも、顔に疲れが出始めていた。


「あそこにもあるよ。ちょっと汚いけど行ってみようよ。外見からして安そうだし」

 カルが指さした方向を見たエスティルは、店構えを見て露骨に嫌な顔をしている。

 ボロボロなのである。

 本当に行くのかと、ジト目である。


「もう! 俺一人で行ってくるよ」

 カルは一人で行こうとすると、ジルは無言でついて来てくれた。


 店内に入って驚いた。

 そこには、知っている顔がいたのである。

 立派な髭を蓄えた。酒臭い爺さんだ。

 そう、そこにいたのは、ヨルブであった。

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