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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
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公爵令嬢 フレデリカの決意

ある午後の公爵邸にて。

令嬢フレデリカは、自室に籠り塞ぎ込んでいた。


魔人から自分達を守るため、多くの護衛の者たちが死んでしまったことに心を痛めていたのである。そもそも、自分が小休止などを提案しなければ、こんなことにはならなかった。


自分の提案のせいで、16人も戦死させてしまったのである。

皆、愛する家族がいただろう。

彼女はそれを思うと胸が締め付けられる思いであった。

幸いにして、ドースは命を取り留めたとのことだが、未だ療養中である。


あの時、自分が逃げずに戦闘に参加していれば、これほどまでの犠牲はでなかったはず。


貴族階級にあるものは一般人と比較して、魔力総量が多い。

彼女は公爵家の血筋であるため、それ相当の魔術を使うことが出来る。


あの時、戦闘に参加しなかった最大の理由は、王家との婚約が正式に成立していたからである。もし、戦闘に参加して仮に怪我等がなかったとしても、悪い噂が流れでもしたら一大事である。


また兄であるジルフリードは療養期間中であった。

そのあたりを考慮したがための、離脱の判断なのであった。


しかしながら、惨劇を思い起こすと今でも後悔の念が残る。

フレデリカは、幾度も幾度も思い起こしていた。


今、エンデルの森では魔物が出現しているとの話が彼女の耳にも入ってきている。

メリーザが森から公爵邸に移動した途端に魔物が発生し出している。急速に増加した魔物は、通常の魔物よりも狂暴かつ強力なのだという。


最近も狂暴化したホーンラビットが村人を危険な目にあわせたという話を彼女は耳にしていた。


領主であるラルフリード公爵は、領内騎士団は領都の守りに専念させ、後日到着する王国兵団と集まってきた傭兵と冒険者らで、魔物を殲滅させるという対策方針を執っている。


今、彼女は自分には何ができるのか。思い悩んでいた。


「我が家の騎士団は、森に行くことはない。……やっぱり、これしかないわ」

 


 フレデリカが決意を固めたところに、突然扉がノックされた。

 侍女のマーレが紅茶とお菓子を運んできたのである。


「フレデリカ様、アフタヌーンティーのお時間です。……森での出来事は、あまり、お気にかけないようお心がけください。お体に触りますので」


「マーレ、私は決めました」

「お考え直しください」

 マーレは紅茶を淹れながら即答した。


「まだ何も、話しておりませんわ」

「いけません」

 マーレは、注ぎ終えたカップをゆっくりと差しだす。


「……マーレ」

「フレデリカ様のことです。大方、森に魔物退治にでも行こうと言われるのでしょう。絶対になりません」


「お見通しなのね」

「幼き頃よりずっと、ご一緒させていただいておりますので。……フレデリカ様に『お力』があるのは、お認め致します。ですが、ご婚約のことを第一にお考え下さい。今後、王族の一員として、今まで以上に社交界で華々しく、立ち振る舞って行かなければならないのです」


「マーレ、村人達が危険な目にあっているのですよ。魔物は強力になっていると聞いております。冒険者達だけでは大変なことでしょう。それに、今の私の心持ちでは社交界に出ること自体が失礼になりますでしょう」


「だからと言って、森に行き、もしもの事がありましたら、フレデリカ様を守って亡くなった者達は浮かばれません」


「……ごめんなさい。もう決めたことです。私に何かあれば、それは天命でしょう。……今のままでは、私は何一つ進めません。私はあの森に尽くすことで、彼らに報いたいのです。自分の中での勝手な思い込みかもしれません。ですが……」


「……フレデリカ様」

 マーレは言葉以上に、訴えてくる彼女の目を見ると次の言葉がでなかった。


「我儘で、ごめんなさいね。マーレ」


 マーレは、少し俯きながら口を開いた。

「ずっと、ご一緒させて頂いておりますので、……もう、何も申しません。ヤーファス様達に気付かれないように護衛の者をお選び致します。もちろん私もご一緒いたします」


「ありがとう。マーレ」


 数日後、フレデリカには静養が必要だということで、暫くの間、領内の別邸に移り住むことが決まった。勿論、これはマーレの根回しによるものである。


 この後、マーレは街なかで別に宿をとり、武具を集める等し、討伐参加の準備を進めて行くのである。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 この頃、冒険者ギルドでは、ギルドマスター以下、主だった幹部が招集されていた。

 会議の目的はエンデルの森に発生した魔物についての情報共有である。


 現状では、ゴブリンが非常に多く発見されていることと、発生した魔物は他のエリアでの同種の魔物と比較すると強力であるということだ。


 一昨日、受けた報告にしても、出現したホーンラビットは、通常のホーンラビットと比較すると、皮膚が厚く、剣も通りづらい。また牙や爪、角が大きく、鋭いし、動きも早い。

 進化したと言っても過言ではないほどだ。


 これが事実であれば、多くの犠牲者が出てしまう。

 だとすると、自由に戦わせる訳にはいかない。

 つまり、戦略が必要となってくるのだが、冒険者らは指示されることを嫌う。

 彼らは騎士らと違い、自分らの取り分が一番大事なのである。

 状況に寄っては、その日の取り分に満足すれば、その場から帰ってしまうことさえもありうるのだ。


 冒険者らを統率するのは、結構厄介なことなのである。


 幹部が集まる席上で、ギルドマスターであるトームは皆に伝えた。

「今回は、王都援軍と合同での討伐戦となります。それ故にみっともない、足を引っ張る行為は、決してあってはなりません。そのため、冒険者らには参加登録しただけで、金貨をお支払いしましょう。そして目立った功績を残したものは、それ相当に賞することと致します。逆に理由なく帰還する等、規律も乱す者は厳罰に処することとします」


 この発言後、討伐日が決定され、方針が張り出された。

 ルデス村の傍には、簡易な宿泊、休憩所や医療施設、武具の補修所が次々に建てられ始めた。


【レミング・トーム】

長年、領都・エンデルのギルドマスターの地位を任される彼は、公爵家とも付き合いが深い。彼は老齢のエルフであり、今回の総責任者を務める。


トームは一人執務室で考え込んでいた。

王都の冒険者『銀翼』のリーダーであるパルーと面談した際の事柄についてである。ボス格には知性があり、魔物を統率し罠を張って攻撃をしてくると。

とても信じ難い話である。だが、ボスを探し出し倒してしまえば戦略上有利にはなる。

あくまで、探しだせればの話だが。


そんなことを考えながら、何十冊もある資料に目を通していた。

暫くして、疲れがみえたころ、自分の目を疑った。


「む、なぜ、このような方が………」


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