困惑
「村の方ですか?」
「ち、違うわ! お、俺、俺様だよ」
「え、えええっーーー、も、もしかして、ジルセンセですか」
「そ、そうだよ」
「って、兎人族だったんですか!」
カルは、ジルの姿を見て大声が出てしまった。
いつものグレーの大きなウサギの姿でなく、人間の顔にウサギ耳がついていたからだ。
「あの大きなウサギの姿と、どっちが本当の姿なんですか!」
「……こっち」
「……何で、あんな姿してたんですか」
「あんなってなんだよ!」
「す、すみません」
「あ、あっちの方が、い、威厳があるだろう」
「……」
(そんなこともないような。)
「この機会だから言ってしまうけど、お、俺様の唯一出来る魔術は、へ、変化の魔術なんだ。」
「え、す、凄いじゃないですか! な、何で隠してたんですか! 凄い魔術ですよ。自慢できることじゃないですか」
カルは、少し興奮気味である。
「あっ、いや、そ、その、変化と言っても、あの姿にしかなれなくて……」
「へっ? あれだけ? ……う、嘘でしょ」
「ほんと」
「…………」
(……つっ、使えない。)
「い、言うなよ! 絶対にエスティルには、言うなよ。絶対だぞ! 彼奴なんかに知られた日には、もう俺様は……あああ、お先真っ暗だー」
「そんな、オーバーな」
「オーバーじゃない! 知られたりしたら…」
「センセ、強気で行くべきです……」
カルは、ジルが言っていた第一の教えはどこへ行ったのかと思ったが、敢えて突っ込まず、元気づけることにした。
「ほ、本当は、お、お前も馬鹿にしているだろう。う、う、う、……も、もう、お前なんか、ううう」
ジルは涙ぐんでいる。
(……何も泣かなくても。)
「馬鹿にしてませんよ。エスティルには言いません。気にしすぎですよ。センセ」
「そ、そうか、言わないでくれるのか。うう。お前は心の友だ~」
(……心の友に昇格してしまった。)
翌日、兎人族の姿を発見され、エスティルに滅茶苦茶、弄られることになる。
「あ。そんな話はどうでもいいんだよ」
ジルは我に返った。
「そういえば、大変な事って?」
「メリーザ様に、リエルに何かあったんだよ! 絶対にそうだ! うあああっーー」
ジルは頭を抱えて、また泣きだした。
「落ち着いて、落ち着いて話して下さい」
「お、俺様は、お前がボスを倒した後、薬が必要だと思って、取りに戻ろうとしたんだ。そうしたら扉はなくなっているし、リエルと念話も出来ないんだよ」
「扉は幾つもあるから良しとしても、リエルと話せないのは気になりますね。…でも、たまたまだったんじゃないですか」
「違う! リエルは呼んだら、必ず、返事をしてくれるんだ! それが、ここに戻ってくるまで、ずーっと返事がないんだよ。何かあったんだよ」
「な、何かって?」
「わからない! そうだ、扉がないのだって、メリーザ様に何かあった証拠だって、あっ、魔物に襲われたんじゃ! 絶対そうだ、メリーザ様-----------、わ--------」
ジルは困惑している。もう気が気でない。
今すぐにでも、森へ探しに行こうと言わんばかりだ。
「……お取込み中だけど、もう夜も遅い。森に行くつもりなら明日の朝にした方がいい。装備が必要なら、俺らと一緒に領都・エンデルまで行って揃えよう」
パルーは一緒に戻りたそうである。
「泊まる金がないんだよ」
ジルが言い返す。
「全然問題ないよ」
パルーが言うには、カル達の分け前、即ちカルが倒したホーンラビットを換金すれば、暫くは領都で十分に生活ができるという。
確か、ホーンラビットのボス、大角1匹、小物12匹。これらの角、皮、爪等が対象で、ギルドの受付を経てから査定窓口にもっていくだけだという。特に角や爪は強力な武具にもなるので、高く売れるそうだ。
「まあ、お金の問題はないんだから、連絡を取りに行くのは、明日にしたほうがいい」
「そ、そうですね。明朝、森に行ってきます」
とりあえずは、カルは、明朝、ジルと森へ行くことにした。
翌日の午後。
女3人組は、深酒のため正午まで寝ていた。
カルとジルが、森から戻ってきた頃に、丁度エスティルは起きた。
「う~ん。さすがに飲み過ぎたわね。途中から記憶がないわ。うん」
「お前は気楽でいいな」
ジルが不満たらたらの表情で絡む。
カルと『扉探し』に行って、戻ってきた彼は、少しばかり疲れていて機嫌が悪かった。
「……もしかして、あなた、ジルなの?」
エスティルは、目の前の兎人族を見て、声を聞いているので確信はあったが、一応聞き返した。
「あ。…………しまったぁあああーー、見るなぁああああああ」
ジルは顔を隠して、しゃがみ込んでいる。
「・・・馬鹿なの?」
自分から声を掛けて来て、何を言っているのかと。
エスティルは冷たい視線を浴びせている。
前日のお酒の影響もあり、機嫌も、少しばかり悪い。
「そもそも、あんた、何で服を着ているのよ?」
「このペンダントがそういう魔道具なんだよ」
ジルは律儀なところがあり、酔っぱらいにもきちんと答える。
何でもペンダントを操作すると登録してある服に瞬時に変えられると言う。
暫く、二人はやり取りしていたが、結局、ジルは一方的に弄られ、半泣きである。
カルは、このタイミングで伝えるのもどうかと思ったが、早く話さなければと思い、『エンデルガーデン』に戻れない現状をエスティルに話した。
エスティルはショックであった。
やっと心休まる場所ができて安堵していたところに、メリーザとリエルに何か良くないことが起こったかも知れないというのだ。
さらには、『エンデルガーデン』に戻れる扉が見つからないという。
兎に角、二人を探しに行くには装備を整える必要があるため、領都に行かなければならない。それは理解できた。
しかし、エスティルは領都に行くことには不安があった。
なぜなら、彼女を石化した犯人が領都にいる可能性もあるからだ。もし、自分が生きていることを知られたら、また狙われる可能性があると考えたからだ。
エスティルは、また考え込んでしまった。
一方で、パルーの発言に呼応して、村人達から大歓声が上がっていた。
パルーは、昨日の宴で食べきれずに残ったホーンラビットの肉を、全て村人達に提供するというのだ。
みんな大喜びである。
領都へ行くのであれば、是非とも、今回のお礼として荷馬車ではあるが運ばせてくれと、村長が申し出てきた。勿論、カル達にもである。
ホーンラビットの皮等の荷物が多かったので大助かりである。
領都までは、半日もかからない距離だという。
道筋が出来たこともあり、エスティルとジルは出発に備え、到着したら直に店で換金ができるよう部位を整理し始めていた。
そこへ、シャルティエットがやってきた。
「あ、あの、エスティル様、もしかして、私目のことを覚えてはおられないのでしょうか?」
シャルティエットは、一連の彼女の振舞から不審に思っていたのである。
「あ、あー、そ、そうね。ちょっと忘れてしまったかも。……あはは、はは。あなたは私とはどのようなご関係でしたかしら? はは。ちょっと、度忘れしてしまって」
エスティルは、愛想笑いをしながら恐る恐る聞いてみた。
「やはり、そうでございましたか! ……私は貴方様の従者であります。もしかして、ご自分のことも、お忘れになられておりませんでしょうか?」
「じゅ、従者だぁ! お前、そんな者がいたのか!」
ジルが驚いて振り向いた。
「貴様、言葉使いに気をつけろ」
シャルティエットは、ダガーナイフをジルの首筋にあてている。
「ううっ」
ナイフを突き立てられて、もうジルは泣きそうである。
「シャルティエット、止めてあげて。助けてくれたことについては感謝しているわ。でも、最初に言っておくわ。いきなり、従者と言われても、私はあなたの全てを信頼するということは、未だ怖くてできないの」
「そ、そうですか。確かに仰るとおりです。今後、信頼していただけますよう努力して参ります。しかしながら、私目はいずれ、貴方様をご家族のもとへお連れしなければなりません。そのため、お傍にいることは、ご承知おきくださいませ」
エスティルは、自分が何者かによって石像にされた過去がある。
今、彼女が一番信頼しているのは、2度も石化から救ってくれたカルであった。
いきなり現れて、従者であると言われても、彼を信頼することはできないのである。
「分かったわ。でも、あなたよりもカルの方が信頼度は高いことは覚えておいて」
「承知仕りました」
彼女は、すぐにでも自分が石化された経緯について聞きたかったが、実際に知っているかもしれない人が現れると、怖くて何も聞けなかった。
そこへ、荷馬車に荷物を運びこもうと、カルがやってきた。
「第一従者のカル殿ですな」
シャルティエットが、一歩引く。
「誰が従者だ」
カルは荷物を持ち上げながら、切り返した。
「ははっ。そうだ……ジルも良くしてくれたのよ。信頼度は高いの。雑に扱わないで」
この先が心配なので、エスティルはジルのこともフォローしておいた。
「承知仕りました」
「そもそも、こいつは『銀翼』のメンバーだろ、乗る馬車が違うだろ」
ジルは、今し方怖い思いをしたため、同乗は嫌そうである。
「私目は『銀翼』のメンバーではありませぬ。雇われ案内人です。エスティル様の護衛を兼ねて、どうか私目をこちらの馬車に乗らさせてください」
…話し合いの末、結局、ジルを粗末に扱わないことを条件に、シャルティエットはカル達の馬車に乗ることとなった。ジルが折れたのである。
一方で、こちらは『銀翼』の馬車の中である。
暫く、馬車の揺れる音だけが聞こえていた。
エレンは剥れている、不満この上なしといった感じである。
「何でぇ、シャルティエットがあっちの馬車に乗っているのよ。くやしい~、あっちの馬車に光の矢100本、打ち込んでやろうかしら」
「「「絶対にやめろ!」」」 にゃ!」
『銀翼』メンバー全員が恐い顔でツッコんだ。




