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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
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覚悟を決めて

「エスティル様ッ!」

 男の声が響いたその瞬間、襲い掛かってきたホーンラビットは、首から血しぶきをあげて地面に落下した。


「エスティル様、ご無事ですか?」

「えっ、だ、誰?」


「え? 私目です。シャルティエットです。今、お助けいたします」

「えっ、あっ、助けなさい! はっ、早く!」

「はっ、こちらへお移りください」

 シャルティエットは、彼女を自分の背後へと誘導すると、直にホーンラビットへと向き直った。


「ウィンドエッジ!」

 彼がそう声を発すると、空中に風の刃が形成され、目の前のホーンラビットの喉もとを切り裂いた。

 

 すると、直に村人達から歓声が上がった。

 シャルティエットの放った風魔術を、幾人かが見ていたのである。

 もう、これで何とかなる、助かる、そう村人達は思い、表情にも変化が生じ始めた。

 彼らの目には、シャルティエットが勇者の如く映ったのだろう。

 だが、現実は異なった。


「お早く! 私目の魔力では、そう何度も通用しません」

「えっ? 何を言っているのよ、全部倒しなさいよ」

「無理です。退却致しますので、お急ぎください」


 その時、1匹のホーンラビットが角を押し出して、飛び掛かってきた。

 角は、シャルティエットの左腕に刺さり抜けなくなっている。


「ちょっと、あんた左腕に角が刺さっているわよ!」

「大丈夫です。義手ですから。それよりも、お下がり下さい」

 シャルティエットは、右手の剣で左腕のホーンラビットを斬り捨てると、剣で威嚇しながら、何とか脱出できる方法を探っていた。


「女、子供を先に行かせろ!」

 カルは大声で村人を誘導している。

(助けが来た。助かるかも知れない。……出来ることはやらないと。)


「ああっ!」

 シャルティエットが叫んだ。

 脱出先と考えていた方向に、大角のホーンラビットが2匹も待ち伏せしていたのである。

 

 右手奥の丘には、大きく反り返った角のホーンラビットが『狩り』を楽しむように気味悪く、笑っている。


「あの『大反り角』が、本当のボスだ! 利口な奴だ。逃げ道を抑えてやがる!」

 ジルの声がした。背中に受けた傷は、先程一度、エスティルが発したエリアヒールで既に治っていた。


「感心している場合かっ、逃げ道が塞がれたんだぞ!」

 叫んだカル自身も、何も出来ていない。

(助けに来てくれた男は戦ってくれている。け、けれど俺は口だけだ。………ここは、もう、覚悟決めて、お、俺も前に出て戦わないと。)


 2匹の大角のホーンラビットらは涎を垂らして、エスティルとシャルティエットに詰め寄ってくる。


「2属性も持っていて、魔術能力も高いのに! 魔術が使えないなんて、……ってあれ、治癒魔術は使えたよな。なら怪我しても。…ええい、それなら、何とかなるだろっ!」

 カルは、恐怖を押し殺して叫びながら斬り込んだ。


「うおおおっーー」

 命の覚悟を決めての斬り込みだったが、動きに固さはなく、むしろ、思った以上に動けた。

 この肉体は、魔力は少ないが、剣術は十分な程に身に着いているのだ。


 体が覚えている。

 思っている以上にホーンラビットの動きに反応できる。


 カルの鋭い斬撃は、薙ぎの一振りで、向かってきた小さなホーンラビット2匹の首を刎ねた。


「凄い」

 シャルティエットは目を見張った。

 自分の放ったウィンドエッジでは、ホーンラビットの喉を切り裂くことしか出来なかった。それに対し、目の前の男は、魔力を一切使わずに剣のみで首を刎ねたからだ。


 この一瞬の出来事に、2匹の大角のホーンラビットが後退りしている。

 とその時、「ザザザッ」と音がして、さらに後方から何者かが飛び上がった。

 そして、もの凄い速さでこちらに移動して、剣を振るっている。


 途中、立ちふさがった魔物は、次々に血飛沫をあげて倒れていく。

 その者は、ホーンラビットが跳ねる速度よりも、速く動き、蹴散らしている。


「エスティル様、応援が来ました。助かりますぞ」

 シャルティエットは、安堵の表情で言う。


 ワンテンポ遅れて、銀髪の剣士もやってきた。

「さすがに早いね。ジュノーは」

「パルーが遅いのにゃ」

 ジュノーは、パルーが追い着いたのを確認すると、既に状況を把握していたらしく、ホーンラビットの囲いを解こうと移動し始めた。

 

 突如として、自分らの後方に敵が現れて、焦った大角のホーンラビット二匹は、夫々パルーとカルに襲い掛かった。

 パルーは、いとも簡単に大角のホーンラビットを切り捨てると、ジュノーとは逆廻りで動き出し、囲みを解きにかかった。


 ボスである『大反り角』のホーンラビットは、二人が村人の包囲を解きにかかっていることに気付くと、目を吊り上げながら、大きく唸った。


「ギャウ、ギャウアーーー」


 この唸り声は、攻撃の合図であった。

 全てのホーンラビットは、一斉に動き出した。

 ジュノー、パルー、カル目掛けて、角を押し出し飛び掛かってきたのである。

 攻撃の対象は3人であったのだ。


「ちょっ、ちょっと、どういうことにゃ!」

 ジュノーは少し焦っていた。

 致命傷を与えたにも拘らず、光に包まれたホーンラビットは、皆復活してきたからである。


 乱戦状態となりつつなる中、カルは長爪を振るってきた大角のホーンラビットを一刀両断に切り伏せた。

 全身から汗が噴き出す。

 そんな時、男の声が聞こえてきた。

 声の方へと目をやると、奥の方からフルプレートアーマーの戦士と大斧を担いだ戦士二人が走ってくるのが見えた。


「彼らの仲間か。これなら、みんな、助かる」

 生還できると思ったその時、奥の戦士から、たくさんの光の矢が放たれてきたのである。

 光の矢は、多くのホーンラビットを射抜いたものの、カルの右肩にも刺さった。


「グウ、無差別か! 味方じゃないのか」

 剣を握れない程の痛みであったが、エスティルが即座にヒールで治療してくれた。


「大丈夫?」

「何とか」


「あの『大反り角』が『ボス』だ。彼奴をやっつけないと。逃がすと、また直ぐに増えるんじゃないか」

 カルは『ボス』の方に目をやっていた。


「それは次の機会にいたしましょう。今はこの場を脱出するのが先決です。この場は未だ安全とは言えません。お早く!」


「お早くって! シャルティエット、あなた、後ろには未だ子供もいるのよ! 残して逃げられないでしょう」

「う、ははっ、ではここで、今暫く持ちこたえましょう」


「ごめんなさ~い。さっきの光の矢、当っちゃてなかったー 」

 フルアーマーの戦士は、エレンであった。

 何とか追い付いてきた感じで、緊張感は全くない。

 エレンは『光』の属性を有する魔術師であり、冒険者としては極めて稀な存在である。


「あんた、カルの肩を射抜いてたわよ」

 エスティルは睨んでいる。


「やっぱしぃ。あの、ごめんなさいね。魔物がいっぱい、いたから、とりあえず撃っちゃったの。でもお陰で、この辺の魔物は殆どいなくなったわよね」

 エレンは、あっけらかんとしている。


 カルは右腕で剣をしっかりと握れることを確認すると言い放った。

「それじゃ、あの『ボス』を何とかして来る!」

(何で、こんなに強気なんだ。俺は。)


『 == 強気、大いに結構。任せろ == 』

 

 以前に聞いたあの声が心の中に響いた。


「この声は」


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