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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
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ホーンラビットに囲まれて

 2週間も経つと、エスティルは廻りに解け込んでいた。

 もう、ジルをイジッテいるのだ。


「ほら~、とっときの魔法を見せてみなさいよ。俺様君~」

 エスティルは余裕の表情である。


「こ、こいつ、絶対に俺のこと馬鹿にしているよな! カル!」

 ジルは弄られることに慣れてないのだ。

 カルは苦笑いしている。

 二人の間に入りたくはないのだ。


「あら、今日は“俺様”の“様”は付ぅけないのかな~。俺様君~」

「ううう、絶対馬鹿にしている!」

 リエルはそれを聞いてクスクス笑っている。


 エスティルは、今日の弄りに満足したらしく、笑顔で切り出した。


「それでは、お昼も食べましたし、今日も3人で薬草採りをがんばりまっしょう!」

 エスティルは、ノリノリである。


 3人で行く薬草採取は、日課になりつつあった。

 因みに3人とは、俺とエスティルとジルセンセである。

 ジルセンセはメリーザ様に言われたために、仕方なく参加していた。



 森の入口から少し進んだところに樹木のないスペースが広がっていた。

 村人達に森の広場と呼ばれているこの場所は、いろいろな薬草が生い茂り、薬草採取には持って来いの場所であり、またリスやウサギなどの可愛い小動物も多く、子供達にとっても人気の遊び場であった。


 エスティルは、子供達に会いたいということもあり、薬草採取の場は絶対に、ここと決めている。子供達とじゃれ合いながらの薬草採りがとても楽しいらしい。

 

「お姉ちゃん、こんにちわ~」

「こんにちわ、ミル、メイ、クウ。あら、みんな、今日はお母さんだけでなく、お父さんも一緒なのね」

 エスティルは、村の人達とは家族ぐるみで仲良くなっていた。


「えへ、実は、今日は、おじいちゃんも一緒なの~」

 いつもどおりにお母さんと手を繋ぎながら、メイが人懐っこく答えた。

 

 皆、家族連れで来ていて、たくさんの笑い声が聞こえてくる。

 家族みんなで、遊びながら薬草採取している姿はとても微笑ましい。

 幸せな光景だ。


 実は、俺には家族の記憶が全く残っていない。

 まあ、家族に限らず、記憶は部分的に沢山欠落している。


 ……そう言えば、白の光が言っていた。

 今の俺では、転生しても前世と前々世の記憶が混在してしまうと。


 もしかしたら、前々世の記憶が戻った分だけ、前世の記憶が掻き消されているのではなかろうか。前々世の記憶とは、あの『内なる声』のことである。

 と思っているだけで、実際のところ、記憶に対して明確に前世と前々世の区別が出来ている訳ではない。


 ふと、一人考え込んでしまった。


 ふいに、声を掛けられた。

 声を掛けてきたのは、メイの父親のサックである。

 サックは話好きで気のいい男だ。

 彼はルデス村一番の大きい体の持ち主で、一見冒険者にも見えるが、魔力も碌になく、剣も扱えない。だが、手先が器用なため、副業で鋼細工師をしている。


「カル、どうしたんだ。ボーっとして」

「い、いや、考えごとしていただけ。何でもない。大丈夫、大丈夫」

「そうか、大丈夫ならいいけど。そうだ。前々から気になっていたんだが、その剣をちょこっと、見せてくれないか」

「構わないけど」

 カルは剣を彼に渡した。

 

「これだ、これ、ここ、ここ」

「何だい。そんなに興奮して」

「気になって仕方なかったんだ。カルの剣って細かい装飾がされているんだよな」

「え」

 カルは改めて、柄の部分を見てみた。


「確かに」

「気づいて無かったのか。立派なもんだぞ」

「本当だ。でも、剣の価値は装飾じゃないよ。いざという時に役に立つかどうかだからな」

「そりゃ、細工師の前で言うセリフじゃないぜ。わ、ははは」

「わ、悪い」


 村の人達は、とても優しい人が多い。

 

 村人たちに日々の生活をいろいろ聞いてみると、大半が農夫であり毎日が忙しいらしい。

 けれど、今日みたいに仕事を中断し、大勢で薬草採りに来たりすることもあるという。今日は大イベントと言ってもいいのかも知れない。因に採取した薬草は、煮詰めて薬として作り置きし、町の商人が来た時に纏め売りをするのだそうだ。


 サックは農夫なのだが、町から鋼細工の依頼を受けたりして生計の足しにしている。

 細工師は別として、農夫や薬作りなら俺にもできそうだ。


 この世界で、生きていく希望の光が見えた感じがして、ほっとする。

 平和主義者の俺としては、やっぱり、こういうスローライフに憧れる。

 召喚してくれた人達には申し訳ないが、『魔力』が少ない今の自分では、期待に添うことはできないだろう。出来れば、俺は、この先この村で普通に生きていきたい。



 エスティルは、薬草採取そっちのけで、村人たちと話し込んでいた。

 母親たちの間では、専ら来週にもやって来る『王都兵団』の話で持ち切りである。

 

 みんなの話を聞きながら、エスティルはカルが話していた『魔人の話』を思い出していた。

(村人らの話だと魔人が討伐されたのは確定事項らしい。けど、未だ他にも魔人がいるかも知れないので、王都兵団が探索にやって来るという話だった。……魔人って本当にいたのね。カルが倒したっていうのも、本当だったのかしら)


 彼女は、今でも半信半疑である。

 


 一方で、ジルは少し離れた場所からみんなを見ていた。

「あーあ、こういうの、苦手なんだよな。ウサギは小さいから可愛いって言われるのであって、俺様みたいに大きいと、子供は怖がるに決まっている。泣かれると面倒だからここで隠れているのが一番いいんだけど。……はあ。少し寂し」


 そう一人呟いていた時、小さな女の子が、隠れていたジル目掛けて笑顔で走って来た。


「え、こんな、こんな、お、俺様のところへ? 怖くないのか?」

 涙しそうなジルであったが、言い終えた時点で全てを理解した。


 女の子は、ジルの手前にいる『小さな白ウサギ』を見つけて走ってきたのだ。だが、その白ウサギには、額の中央に小さな角があったのである。


(ホーンラビットだ!)

 

「危ない! こっちに来るな、魔物だ! それは、ホーンラビットだぞ!」

 ジルは大声で叫んだ。


 少女は、ジルの大声と大きな姿を見た途端、怖くなってその場にしゃがみ込んで、泣き出してしまった。


 通常、ホーンラビットは飛び跳ねてきて、額の角で刺してくる。何度も跳ねては刺して、弱って動けなくなった後に、獲物を食べるのだ。牙もあり、獰猛な肉食獣なのである。


 村人達の視線はジルに注がれた。

 その瞬間、女性達の悲鳴が鳴り響いた。


 ジルが魔物だと思われたのである。


「メイっ!」

 サックが走ってきた。


 ジルは反射的にホーンラビットを取り押さえようと前に出た時、背中に激痛が走った。

 もう1匹、後ろにいたのである。


「ぐううっ」

 ジルの顔が、苦痛に歪んだ。


 ジルを刺した大きな角のホーンラビットは、真っ赤な目で嫌らしく笑うと喉を鳴らした。「ギギギ、ギギギッ」


 その鳴き声を合図に10匹くらいの仲間が現れ、ジルは囲まれてしまった。


「やばい、こいつらに滅多刺しにされたら終わりだ」

 ジルは、一か八かで持てる魔術を使ってみた。ジルの体が光りだし、それを見たウサギらは驚き、わけもわからずに後退りしていった。その隙にと、ジルは移動を試みるも2匹がついてくる。

 少し離れたところで、もう一度、魔術を使ったところ、驚いて引き返して行った。


「た、助かった。でも、この傷じゃ………。エスティルの所まで行かないと」

 ジルは背中の傷に耐えながら彼女を探した。

 エスティルが、治癒系の魔術を使えると聞いていたからである。


 視線を移すと、いつの間にかホーンラビットが村人達を大まかに囲んでいた。


 村人達は恐怖で立っているのがやっとだった。

 子供達は泣き叫ぶというよりも、恐怖で震えて声がでない。

 エンデルの森に魔物が出るなんて信じられないことなのだ。

 男達は一応、剣を持ってはいるが魔物と戦った者なんていない。

 とりあえず、内側に女、子供を入れ、外側に男達が剣を構えて威嚇をしていた。


 ホーンラビットは、すぐに飛び掛かってくることはなく、ジリジリと距離を寄せてきている。


「無駄に剣をぶん回すな! このウサギ、自分の方が『速い』と分かったら、飛び掛かってくるかもしれないぞ」

 カルの声にも恐怖が入り交じっていた。


「わ、わかった」

 返事をしたのは、サックである。


「あっ、みんな、大声で威嚇しろ。耳がいい分、結構効くかも知れないぞ!」

 村人の一人が、皆に聞こえるように叫んだ。


「よ、よし」

 女・子供も、強弱をつけて声で威嚇してみたものの、効果があったのは最初だけで、すぐに学習したのか、元の距離まで戻ってきた。


「カル、どうにかしなさいよ!」

 エスティルが気丈に叫んだ。

 声が少し上ずっている。


「な、なんか、ここは、こいつらの狩場だったみたいだな」

「そんな感想は要らないわよ! 何か『案』はないの!」


「子供がいるんだから一転突破は無理だし、ボスをやっつければ、事態は好転しそうだが、あの大角のボスとの距離があり過ぎる。やっぱり、剣を構えてジリジリと村の方向へ進んで行くしかないだろ」


「じゃあ、カルもこっちに来てよ! 進行方向にいるホーンラビットを何とかして! こっちから寄って行くなんて怖過ぎる!」


「魔術は使えないのかよ!」

「使えるなら、とっくに使っているわよ! 早く来て!!」

 エスティルは、極度の緊張状態になっている。


 母親らは子供を抱きかかえ、男達は剣を構えた状態で、みんな汗だくになっていた。


「わ、わかったよ」

(俺に期待しているのだろうけど、『内なる声』が聞こえなければ、村人と一緒だ、いやそれ以下かもしれない。実際のところ、剣なんか扱えやしない。どうすればいいんだ。このままだと、一番先に死ぬことになりかねない。けれども、雰囲気的に行かないと)


「グファーッ!」

 カルが前へ移動を開始し始めたと同時に、ホーンラビットがエスティルに襲い掛かってきた。


「きゃああっ」

 恐怖のあまり、エスティルは持っている剣を動かせなかった。


「エスティルッッ!!」


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