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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第一章 エンデルの森
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魔女メリーザの容態

 翌日の午後のことである。

 『エンデルガーデン』にラルフリード公爵がやって来た。

 厳しい表情をした公爵は、メリーザの棲む家屋を目掛けて真っすぐ進んできた。

 いつもであれば、気軽に声をかけるヨルブも、何事かと思い黙ってついて行った。


「おう、ヨルブか、メリーザ様は中におられるか」

「おるには、おりますが、体調を崩されて寝ております」

「なんと!」

 公爵が声を上げた直後に扉が開いた。供の者2人と階段を昇り、部屋の前で立ち止まった。


 部屋の扉は開いたままである。


「お話を望まれているようですな」

 ヨルブはゆっくりと部屋の中へと促す。


「う、うむ」

 公爵は、扉をくぐり、メリーザのベッドの傍へ行き、椅子に腰かけた。そして、ドースに仮死魔術を施して助けてくれたことの礼を述べた。


「この前、来た時にお礼はしてもらったぞぇ。それにリエルがしてくれたことじゃ。会ったら直接言うてくれ。それとは別に、今日はまた要件があるのじゃろ。ごほっ」

 メリーザは、ベッドから出てくる様子はない。


「病を患っておられるのか」

 公爵は真剣な眼差しを向けた。


 最近、エンデルの森の結界が不安定になっている。

 原因は間違いなく、メリーザの容態によるものであろう。

 森を覆う『結界』が、以前と比較すると明らかに弱まっているのだ。


「そうじゃ。それを確認しに、わざわざ来たのかぇ」

「い、いや、実のところ、お聞きしたいことは他にも山ほどあるのだ。相談にのってもらえますかな」


「ふむ。相談にのるのは構わん。じゃが、私は御覧の通りじゃ。病を患っておる。実際のところ、結界については、弱まっているのかも把握できんようになっておる。ごほっ」

 公爵は、大凡の検討はついていたが、直接現状を聞かされて固まってしまった。



 その昔、この『エンデルの森』は、強力な魔物が蔓延っていた地域であった。

 見かねたメリーザが魔物を退治し、森を浄化し、結界を張ったのである。

 公爵が子供の頃の話である。


 もし、この先メリーザの結界が効かない状況に陥れば、強力な魔物が現れるかもしれない。そうなると、討伐のために犠牲も出てくるだろう。

 現に魔人が出現した以上、早急な対処が必要となる。



「困ったことがありましてな。先般、魔人出現の事実については、すぐに討伐完了の情報を知らしめたのですが、未だ魔人が他にもいるのではないかと考えている者が多いらしく、名を挙げようと各地から腕に覚えのある者、無い者様々な冒険者・傭兵が、領内に集まって来ておる始末……」

 公爵の表情は硬い。


「集まって来てしまったものは仕方ないのう。彼らの間では、魔人は未だ他にもいるはずというのが定説なのじゃろ。まだまだ増えるやもしれぬのう」

 メリーザはベッドから起き上がることなく、答えた。


 魔人を討伐すれば、ただ名が売れるだけでない。富と名声が約束されるのだ。いろいろな輩が集まってくるのは無理もないことである。


「正直なところ、冒険者等がここまで多く集まって来るとは思っておりませなんだ。人が集まり、領都が活性化するのは喜ばしきことではありますが、魔人騒ぎで傭兵等が多く集まってくるようでは、領民が不安に陥り、商人らも去っていってしまうやもしれませぬ」


 領都エンデルは、公爵家とメリーザの二人三脚で作り上げたといっても過言ではない。少なくとも、今の規模に迄、発展させたのは二人の力によるものである。

 それ故にメリーザに政治的な状況も話している。


「増える方は防げそうにないしのう、減らす方を防ぐしかないのう。ごふぉっ」

 メリーザは天井を見つめながらボソッと呟く。


「まさにその通りなので、ございます」

 供の一人が答えた。


「いきなり、割り込んでしまいまして、失礼を致しました。私目は執事統括のヤーファス・レイビルと申します」


「存じておるぞぇ。何度か来ておろうが」

「は、覚えていていただき、感謝いたします」


「で、何が言いたいのじゃ? 言うてみよ」

「閣下、私目がご説明をしてもよろしいでしょうか」


「うむ。構わぬ。お前からご説明いたせ」

「ははっ。人口流出の原因と考えられます不安を払しょくするため、まずは、領内の騎士団は都市の守りに専念することといたします。これで治安を保てば良いかと思います」


「魔人討伐で集まってくる傭兵、冒険者らはどうするのじゃ」

「冒険者ギルドに正式に魔人探索を依頼いたします。それで、いる、いない、が明確となれば宜しいのかと」

「なるほどのう。もし、森に魔人がいれば討伐をし、いないと分かれば、冒険者らは元に戻って行くという塩梅かえ」


「はい、さらに王都から援軍の兵士団が来る予定となっております。この援軍と冒険者及び傭兵らによって探索してもらいます」


「ふむ。そこまで描けておるのであれば、問題なかろうの。私に相談とは何じゃ」

 メリーザは公爵へと目を向けた。


 ヤーファスが話し続けた。

「ははっ、今は結界が緩くても構いませんが、魔人討伐期間が終了した時点では、結界を元通りにしたく思います」


「緩くても構わないという訳でもないのだが、結界を戻さなければなりませぬ」

 公爵も真剣な目をしている。ここからが本番だからだ。


「当然じゃ、何が言いたいのじゃ」


「要はですな。メリーザ様には、すぐにでも当家にお越しいただきたい。当家の専門医に診させ、治療をさせます」

 公爵は、このまま連れて帰る気なのである。


「馬鹿なことを言うでないよ。私が行ったら、邸宅に魔人が襲ってくるかもしれないじゃろうに」

「当家は強力な結界を張っておりますので、近づくこともできませぬ。それに、もし、第二の魔人が今、森に存在していたとしても、腕利きの冒険者らが集まっているのです。討伐してくれるでしょう。ですが、恐らくはそんなものは居りませぬ。ご安心ください」


「……しかしのう、森の方がのう。リエルの魔力だけでは結界に不安がある。やはり駄目じゃ。もしも、森に魔人が現れでもし、結界石を破壊されていったら、それこそ取り換えしがつかぬ」


「結界石については、当家の中でも選りすぐりの高魔力保持者を幾人かつれて、魔力を補充させますゆえ」


「ふむ」

 メリーザは考え込んだ。

 実際のところ、自身の魔力が、森にどの位有効となっているか、メリーザ自身が把握できていない。

 

 この会談の最中、メリーザは吐血してしまったことから公爵邸に世話になることを決断した。


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