記憶喪失者の言い分
石化が解けたばかりなのに良く喋る。
と呆気に取られたが、カルはすぐさま反論した。
「これで契約成立ねって、強引すぎるよ。それに、そっちは黙っているだけで良くて、こっちは身元調査と石化の原因をつきとめなきゃいけないって、こっちの方が大変じゃないか」
「それだけ重要な情報を黙っているってことでしょ! それに一緒になんだからいいじゃない! そもそも、あなた、私に何したのかもう忘れたの? 犯罪よ、犯罪! 私は許してないんだからね」
そう言いながら、彼女は胸を隠した。
(あれだけ、殴って置いて……この世界では、暴力は犯罪に含まれないのだろうか)
「ごめんなさいって誤ったじゃないか」
「誤れば、全て解決する訳がないでしょ。そんなんで解決するのは、あなた都合の世界だけです」
「………わかった。わかりました。でも、『記憶喪失者』と『この世界初心者』が組んでも、何とかなりそうにも、ないんだよなあ」
「それもそうね。じゃあ、あなたの友達にも、あなたから頼んでみて!」
「なんで、そんな強引な展開を強いることができるんだ」
「それはね。あなたの『親切な心』と『犯した罪の重さ』と『記憶喪失者』を全部足すと、当然の展開になるわね」
「記憶喪失者だけよくわからん」
「可哀そうとかって、思わないわけ!」
「そういう意味なんだ」
「そうよ」
「『親切な心』と少し被ってない?」
「いちいち、文句を言わない! …まったく」
そう言うと、彼女はまた一人で考え始めた。
彼女が黙り込んでしまったので、カルは岩から降りて湖の水に右腕をつけてリハビリを始めた。
少しして、頭の整理ができたのか、彼女も岩場から降りてきた。
「ここにいるのも、怖いから、もう、あなたのお仲間の所へ、とりあえず連れて行って頂戴。魔術については、多少覚えているみたいだから、ちょっとは役に立つと思うわ」
「うん。君をここに置いていく訳にも行かないしね。わかった。一緒に行こう。といっても僕も居候みたいなもんでね。暫くおいてもらえるようメリーザ様に一緒に頼んであげるよ」
「そうか、そうね。居候ということになるのよね。……あ、ありがとう。そうだ、あなた、お名前は?」
「カルって呼んでくれ」
「わかったわ、カル。でもごめんなさい。私は自分の名前を憶えてないの。思い出したら教えるからね」
カルは不安げな表情の彼女を気遣いながら、魔法通路へと向かおうとした。
彼女は直ぐには着いて来ようとはせずに、立ち止まって自分が石像とされていた場所を見つめている。
「どうしたの? 何か、思い出したの?」
「うううん。何か忘れているような気がして」
「もう少し、見ているかい」
「うん」
彼女が岩場へと歩を進めた時、靴にコツンと何かが当った。それは小さな生き物の形をした石であった。
彼女はその石を拾いあげた。
「見て! カルッ、この子生まれたばかりで石化してしまったんじゃない?」
彼女は振り向いて、掌の石像をカルに見せた。
「あっ、石像を捨てろ!」
「えっ、なんで? こんなにかわいいのに」
「いいから、早く、捨てるんだ。手を良く見て!」
「あっ!」
彼女は自分が石化し始めていることに気づいた。だが、既に腕まで石化しており、石像を捨てることができなかった。
「いっ、嫌、助けて! お願い!」
彼女は、徐々に石に変化していく自分の体を見て恐怖に陥った。
咄嗟に「ヒール」と口にし、治癒魔術を使ったが石化は止まらない。
カルは、その石像を投げ捨てようと、石像の頭を掴んだその時であった。
カルの手も石化が始まったのである。
だが、石化したのは手首までで、直ぐ様、石化が解かれた。
そして、そのまま彼女の抱いている石像と彼女の腕周辺の石化も解け始めた。
「こ、これは、………一体」
「助かる? 助かるの?」
彼女は涙しながら、徐々に自分の体の色が戻っていくのを見ている。
「あ、ありがとう」
彼女は腕が動くのを確認した後、俯いたまま暫く動けなくなっていた。
相当な恐怖だったのだろう。ぐったりとしている。
「……」
小動物も完全に石化が解け、膝の上で彼女をジッと見ている。
「なんだろうね。この真っ白な動物は?」
「………この子も見たことがある。私に懐いているし。………きっと、私と一緒に石にされたんだわ」
「でも、こいつに触ったら石化したよね。こいつが原因かも知れない」
そう言われて、少し彼女は考え込んだ。
「あくまで、仮説だけれども、何者かが私を狙ったのよ。そして私は石にされて、岩に張り付けられた後、この子が私に触れて石化したんだわ」
「こいつの肩を持っているけど、実際は君がこいつに触れて、石化したよね」
「多分、この魔術は触れたものを石化させるのよ。術者は発見者を石にすることで、なるべく、私が発見されない様にしたかったのよ」
「………なるほど。そういう考えもあるか」
「そうでしょ。でもそうだとすると、誰かが私を狙っていたということは確定だわ」
「石像の君は寝ているようだった。目をつむっていたしね。髪や服の位置からして、君は横になっているところを石像にされたんだ。きっと、寝ている間にされたのかも知れない。石像にされた後、あの大岩に張り付けられたんだと思う」
それを聞いて、彼女の表情は凍り付いた。
「それって、親しい人といる時か、一人の時じゃないの!」
「というよりも、森の中まで運んだとも思えないから森に一緒に来た人じゃないのか」
それを聞いて、彼女は黙ってしまった。
「この森に入ろうとした記憶も全然ないわ」
「無理して、思い出さなくてもいいよ。徐々に思い出していこう」
「………」
「あ、ああ、いずれにしろ、もとに戻れて良かったよ」
「うん。あなたのお陰よ。ありがとう、カル。カルが助けてくれなかったら、私は永遠に石像のままだったかもしれない」
「あ、ああ」
「カル、あなた少し顔色悪いわよ。大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫、問題ない。とりあえずは、良かった。………また何が起きるかわからないから、もう、行こうか」
「う、うん」
彼女は、歩き出すと不安と恐怖からか、再び黙りこんでしまった。
(あれ、俺は魔術が使えたってことか。でも、あれは魔術なのかな? 実感は全くないけど)




