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ダブルアップ  作者: 皆賀 幸
第三章 天塔迷宮(トゥルス・ダンジョン) Ⅰ
103/137

103 巡る

 ――― 時は少し遡る。


 王都のギルド近くに冒険者が集まる酒場がある。

 そこで、男が一人で酒を飲んでいた。

 そこそこに、目も座っている。


 店内を火魔石が照らす。

 灯り越しに映る、美しく揺らぐ銀髪は冒険者らの目を奪った。


「おい、あれ、パルーじゃないのか」

「本当ね。間違いないわ。あの銀髪」

「魔人討伐に行って、戻ってきたんだな」

「でも、一人で飲んでるぜ」

「本当ね」

「メンバーは…もしかして、仲間は全滅…したのか」

「ま、まさか」

「そ、そんな可哀そう」

「ありえるな」

「あの、B+ランクの『隻眼の狼』でさえ、犠牲が出たって話だぜ」

「名を売るために、遠征して一人だけ生き残ったってところか」

「無茶するからだ」

「パルーさん、可哀そう」


 魔人討伐に出向かなかった下位ランクの冒険者達が、口々に同じようなことを話しているのが聞こえてくる。

 …今宵の酒の肴にされていた。


 パルーは目も虚ろで突っ伏していた。

 頭の中で、幾度となく、同じ話しが巡っていた。


 思い返すと、公爵家との繋がりは、ある少女からの伝言であった。

 信じてはいなかったが、手紙に書いてあった場所に行くと、そこには本当に公爵邸があり、守衛に声を掛けると屋敷の中へ通された。

 そして、あの少女がメイド姿で現れて別部屋へと案内してくれた。

 半信半疑であった俺らは、順々に現実となっていく様に驚くばかりであった。


 部屋に通されてからどれくらい経ったのか、時間の感覚はなかったが、扉がノックされると、フレデリカ様が入ってこられた。


 俺はフレデリカ様を一目見て分かった。

 この方は上流貴族に間違いないと。

 ここまで、虚実の判断に迷いが生じていたものの、今、この瞬間、断ち切ることが出来た。


 彼女の瞳は、時折悲しげであった。

 だが、言葉には強い意思を感じた。


 俺らは『エンデルの森』への護衛依頼をされた。

 予想だにしなかった貴族からの依頼に二つ返事で引き受けた。

 理由は、遥々、王都からやってきたものの、もう魔人は出てこないだろうというのが、専らの噂であったからだ。そうであるならば、ここは貴族とのコネクションを作っておいた方がいいとそれだけで、引き受けた。

 メンバーからの反対意見もなく、逆に喜んでくれた。


 そして、カル達とともに『エンデルの森』やダンジョンで戦ったのだ。

 『エンデルの森』での魔物は、王都ダンジョンの魔物とは違い、致命傷を与えても魔石になったりはしない。


 魔物は確実に殺す。

 止めを刺す。

 ……血なまぐさい戦場での戦いとなった。

 危うく、エレンを失うところでもあった。



 ダンジョンを後にしたあの日。

 魔人討伐後、ルデス村に滞在していた時のことだ。


 公爵令嬢・フレデリカ様から直接声をかけられた。

 兄のジルフリードに会って欲しいと言われたのだ。

 断る理由も特になかったので、当然、メンバー全員で公爵家の別邸に向かい、ジルフリード様とお会いした。


 その席で、ジルフリード様は語られた。

 魔族達との歴史を。

 知っていたこともあったが、初めて聞くことも多かった。

 俺らは、侍女の淹れた紅茶に手を付けることも忘れて聞き入った。


 遥か昔、神話とされる時代のことは、事実を知り得ることは出来ない。

 だが、約300年前に勇者パーティーが魔王を倒した時の記録は王国にも残っている。


 遥か昔。

 世界の人族と称される、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、人間族等は夫々に種族のみで国家や集団を構成していた。

 夫々の種族内での、いざこざは相当数あったにせよ、異種族との戦争というものは稀なことであった。

 これは、一際ひときわ優秀なエルフ族が平和を愛するが故に成立していた。


 時は流れ、異種族がともに住むことが出来る国家が形成されていく。

 長きに渡り、平和な時代が続いていた。


 だが、約300年前。

 突然、魔人族が勢力範囲を伸ばそうと、いや食糧である人族を喰わんと襲ってきたのである。

 最初に襲われたのが最北にあった人間族の国で、次に隣接していた獣人族の小国であった。


 当時の人間族で魔力を持つ者は人口の半分にも満たない比率であり、極僅かの者のみが、魔力を大量に有しているといった具合であった。

 その極僅かの者達が、今、貴族と呼ばれている者達である。

 獣人族も同様で一部の者のみが魔力を有していた。


 人間族や獣人族は壮絶に戦い、抵抗を続けるも、蹂躙され、凄惨な死を迎えるという結末の連続で、次第に領土を奪われ、魔人族側に屈していった。

 この状況を見かねたエルフ族とドワーフ族は、魔人族と敵対することを明言し、人間族らの援軍要請に応諾した。

 援軍効果もあって、侵攻に歯止めがかかりはしたものの、押し戻すまでには至らなかった。

 業を煮やしたエルフ族は、早期に決着をつけようと援軍とは別に戦闘に秀でた者を選び出し、魔王暗殺を企てたのだが失敗に終わってしまう。

 これに衝撃を受けたエルフの王は、各種族をまとめ上げて、それまでバラバラの動きをしていた各国の情報を取りまとめ、戦力を統合し、混合の軍を編成する等して戦った。

 だが、それでも、容易に決着をつけることは出来なかったのである。


 そのような中でも、エルフ王は同時進行させていた秘策が二つあった。

 一つは禁呪とされていた『勇者召喚の儀』の大魔術の行使である。


 エルフ王の命を受けた人族は幾度の失敗を重ねつつも、計六人の召喚に成功した。

 六人は何れも、異なる時代から召喚され、もともとが武に秀でた正義感の強い者達であった。

 だが、如何にチートスキルを持ち合わせているといっても、行き成り魔人族との戦場へ送り出す訳にもいかないため、ダンジョンで適性を見ることにした。

 召喚された6人は、ダンジョン内での戦闘経験を積むと、魔術を駆使した戦闘方法を立所に習得してしまった。


 その成長速度に驚きつつも、喜んだエルフ王らは魔王打倒の必勝の作戦を実行することを決断した。

 まずは、人口が多かった人間族と獣人族の王達中心の協力のもと、種族の生き残りを賭けると称して大軍勢を創出してもらう。勿論、種族混合軍であるが、大半が人間族と獣人族となる。


 この大軍勢をもって、魔人族へ最終決戦を挑むのだ。

 この挑戦に対して、魔人族は喜んで承諾した。

 魔人族のおもだった強者でも、時と場合によっては人間族や獣人族に討たれることもあったために、この機会に敵のおもだった智将や豪将を纏めて葬りたいと思ったのである。


 だが、その思惑は人族側も同じであった。

 一遍に敵のおもだった強者を葬る。

 もしくは、この最終決戦の地に釘付けにする。


 魔王を討てない理由として、この魔人族の軍と群を抜く力を持つ強者らの存在があったのだ。


 決戦の地でもって、その軍と強者らを葬る。もしくは釘付けにさせるというのが目的で、その間に『勇者召喚の儀』に寄って導かれた六人の異世界人に魔王を討ってもらうというのが、この作戦の肝なのである。

 これにより、勇者らは傷を負う事もなく、仲間が欠けることもなく、魔王の元へと辿り着き、直接戦うことが出来るという算段である。


 そして…。

 もう一つの同時進行させていた手段とは『勇者召喚の儀』を逆転させた禁呪である。

 その名を『召喚逆流の魔術』という。

 この魔術については、エルフ王の命令もあり、かなり昔から研究および実験を試みてはいたものの、理想だけが先行していて、成功にはほど遠いものであった。

 けれども、平和を願うある魔女の協力により、可能性は低いが成功の目途がたつ。


 魔女の名はメリーザ。

 森を愛する心優しき人である。


 決戦当日、メリーザを中心に、この時代の大魔導士らで『召喚逆流の魔術』に挑む。

 大魔術の発動中、大魔導士らは血を吐きながら、その場で次々と落命していく。

 生き残っているのは、メリーザと数人となったところで、

 最終決戦中の敵味方全てが、その場の大地ともども転移消滅した。


 エルフ王が用いた秘策は、二つともに成功したのである。


 結果、『勇者召喚の儀』によって召喚されし勇者らは魔王を見事に討ち果たし、

『召喚逆流魔術』によって、魔人族の強者らは味方の軍とともに消え失せたのである。


 魔人族ともども、味方の軍を消失させたことは酷い話しだとも取れるが、魔王を討ちとれなかった場合を考えれば致し方の無い作戦であった。

 この戦いは人族が生き残れるかどうかの戦いだからである。


 勇者達は魔王と戦い終えた後、魔王の僅かな側近と残党を捉えた。

 この時に捉えた魔人の魔核や魔瘴石はというと、貢献度によって各種族の王や各国へ、後日分け与えられたのであった。



 そして時が流れ。

 魔核等の存在や在処を知り得て盗み出す者が現れた。

 その者が、今回の魔人を復活させた首謀者と関係していることは確かであろう。


 話しは未だ続く。

 最終決戦の最中さなかで、先頭に立ち、戦っていた勇敢な将軍が俺の祖先であると、ジルフリード様は言ったのである。

 その時の、彼の眼光は鋭いものであった。


 だが、これまで聞いたことのない話しである。

 俺はあまりにも滑稽な話しであるため、適当に流そうとしたのだが、これには確証があるのだという。


 ギルドで冒険者登録をする際に、魔力の確認と血液が採取されることは俺も知っている。

 これは、いずれ訪れるかも知れない魔人族との再戦に向けて、失った元貴族の血縁者を探している行為なのだという。純粋に魔力量やら特性を確認するのであれば魔力鑑定だけで足り、血液は不要なのだ。


 最終決戦で、残念ながら俺の祖先とされるサーバイン伯爵家は滅亡した。

 これはその時、後取りとなる者が見つからなかったからである。


 いずれ訪れるかも知れない魔人族との再戦…。

 一人ではあるが、魔人が復活したのは事実。


 俺達は上流貴族とのコネクションづくりと金貨を目的に、一時的に雇われただけという考えだけであったのだが、相手側には血縁者と接触するという明確な意図があったのだ。


 今は全てを話して貰えてないように思えるが、恐らく、メリーザ様は再戦の準備に必要なピースであるに違いない。

 騎士団でも到達できない階層に、カル達とともに一緒に行く…。

 そして、メリーザ様のために『全癒の翆石』を持ち帰ってくる。

 燃えてくる話である。

 パルーは熱い力が漲ってきた。


 俺は乗り気だが、皆はどうなのだろうかと横目で見ると、反対する様子もない。

 意外なことに、エレンまでもが黙って、頷き、同意をしてくれていた。


 ……なんでだ。


 !!!



 -------------------

 パルー行きつけの王都の一酒場。


「なんでなのよーーーーーーーっ!」

 エレンの声である。

「だから、大声を出すでない。迎えに来たお前が騒いでは店に迷惑であろう」

「なんで、ガルツは平気なのっ!!」

「平気ではないわ!」

「パルー、起きてよーー!、ジュノーが、どこにもいないのよーーー!!」

「!!!!」

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