第5話
———ヒヨリ視点——
——朝HR前
ここ数日、レンの様子がおかしい。
会話をしていてもどこか上の空で、心做しか受け答えが素っ気なくなった気がする。
——おかしい。絶対何か隠してる。
「おはよう、レン」
「あ、おはよう」
「今日は一緒に帰ってくれるわよね?」
「あぁ、そうだな」
「……」
「……」
会話をしていても心ここに在らずといった感じで、前みたいに上手く会話が続かない。
きっと放課後には話してくれるはずだよね…
————放課後 帰り道
「…」
「…」
「…レンって最近変わったよね」
私は敢えてぼかして聞いた。なんとなく確信に迫るのはダメな気がする…
「そうか?変わってないと思うけど」
レンは嘘をついていない。
ということは本人に自覚症状がない…
ならば外部からの影響を受けたのだろう…
「——何か隠してるよね?」
「…いや、なにも」
「レンは気づいてないって思ってるかもしれないけど、私には分かるよ」
「ホントに何でもないよ。心配してくれてありがと…」
そう言ってこちらを向くレンは私を見ていない。
厳密に言えば私の方を向いているが、その瞳は私を写していない。私じゃない誰かを偲ぶ淡い目付きに私は漠然とした恐怖を覚える。
——その相手は一体誰だろう…
思い返してみればレンはあの呼び出しを受けた日から変わった。おそらくあの場所で何かが起きたのだろう。あれ?
——生徒会役員って昨日も一昨日も駅で活動してたよね?
ならば、そこにいなかった人物が生徒会室へ呼び出したのだろう…
——っ!? 柊会長か…
思い返してみると、以前生徒会役員が朝の挨拶運動をやっていたときにたまたまレンと登校した。そのときのレンへ向けていた彼女の視線は明らかに違った。
——言葉では表現できない何かを抑え込んだ視線
おそらく生徒会役員でレンを呼び出すとしたら柊会長で確定だろう。
いや、確定している訳ではない。先生や他の生徒が呼び出した可能性も十分に残っている。
私の勘違いだと願うしかない。
うん。勘違いだよ、きっと
だけど、自分の考察で不安になった私は
「——この前あんたを呼び出したのって柊会長?」
確信へと迫る一言を呟いてしまった。
「いや、違うよ…」
ほら、やっぱり私の勘違いじゃん。
——このときの私は気が動転していて、その言葉を鵜呑みにしてしまった。
「ごめんごめん。ちょっと気になっただけだから」
「なんで俺がシオン先輩に呼び出されたと思ったんだ?」
——シオン先輩…?
私は思わずレンの顔を見る
————!?
一瞬目の前にいる人物が誰なのか分からなかった。
恋した瞳をしているが抱えているのは恋という甘ったるいものではないドロドロとした何か。
目を背けていた現実が嘲笑うように追いついて私の胸に突き刺さる。
——間違いなくレンは柊会長に堕ちている。
「いや、ホントに気になっただけだから…」
悲しい。苦しい。
その後のことはよく覚えていない。
気づいたら私はお風呂の中にいた。
どうしてこうなったんだろう…
どこで追い抜かれたのだろう…
私のレンなのに…
よくも私のレンを…
行き場を無くした悲しみはやがて怒りへと変わっていき、寝る頃にもなれば、私の抱えていた悲しみは全て怒りへと変換されていた。
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——次の日
「柊先輩…一昨日レンを呼び出したのはあなたですか?」
消えることのない怒りに身を任せ、気づけば私は柊会長の前にいた。
「——ふふっだったら何なの?」
「え…?えっと…」
拍子抜けな返答で責めようにも責めれない。
「あなたは広瀬くんの何?」
「…わ、私はレンの幼なじみでレンのことなら何でも知ってます!」
対抗心からか思ったよりも強めに言ってしまい気まずくなって思わず目をそらす
「…ふーん」
「……」
「……」
え…?それだけ?終わり?
そう思って私は柊会長へと視線を写すと、狂気に満ちた目が私を刺している。
——しばらくの沈黙の後、柊会長は『あはは♡いいこと思いついた♡』と独りでに呟いた。
「明日の放課後、生徒会室に来て。そこでお話しましょ、夏瀬さん。」
「…分かりました。」
依然として質問は山ほどあるが、明日の放課後話す時に言えばいいだろう…
そう思って私は会長のいる教室を後にした。