第3話
──次の日
いつも通りの時間に登校し席に座ろうとした、その時、
「ねぇ、昨日の呼び出しは結局なんだったの?連絡しても既読すら付かないし」
ヒヨリに声をかけられた。
「クラス委員だから生徒会の雑用を手伝わされただけだよ。一緒に帰れなくてスマン。」
生徒会長とキスをした。など言えるはずもなく、それっぽい言い訳を付いたが、
「……」
ジトッと猜疑心に満ちた目を向けられる。
まずい…。
「まぁ、そういうことにしといてあげるわ。それより、あんたミルクティーなんて好きだったっけ?」
渾身の言い訳は完全に嘘だとバレているようだ。
まぁそれもそのはず、ヒヨリとは10年来の付き合いで、昨日までの俺のことなら何でも知っている人物だ。
「最近ハマり始めたんだ。今まで毛嫌いしてたけど、飲んでみると美味しいもんだな。」
——また俺は幼なじみに嘘を付いている。本当はミルクティーなんて好きじゃない。
だが、自分でも信じられないほど体がシオン先輩を求めてしまっていて気づけば好きでもないミルクティーを買ってしまっていた。飲む度に昨日の出来事が蘇ってきてその快感に溺れそうになる。
「今日の放課後、用事あるから先に帰っててくれないか?」
「今日も!?1人で家に帰るなんて退屈なんだけど!」
ヒヨリがかなり大きめの声で言うと、
「今日も今日とて仲良いね〜どうしたらそんなケンカの種が生まれるんだよw」
友人である長瀬拓哉ながせたくやが笑いながら声をかけてくると、その後ろから同じく友人である齋藤健太さいとうけんたが顔を出し、
「たまにはレンにも1人で帰りたい時があるでしょ。許してあげてよ、夏瀬さん」
八方塞がりだった俺にとっては彼らのことが聖母マリアのように見えた。
ヒヨリはやるせない表情を一瞬見せたが、
「分かったわよ!じゃあ、明日は一緒に帰ってよね!約束だから!」
と言うと、女子グループの方へと走っていってしまった。
「いや〜夏瀬さん、相変わらずツンツンしてるね〜。これでお前ら付き合ってないんだもんな。驚きものだぜ。」
去っていくヒヨリを見ながらタクヤが微笑混じりに言った。
「お互い長い時間を過ごしすぎて、もう付き合うとか付き合わないとかの目線で見れないわ。」
実際、ヒヨリのことをそういう目線で見たことが無い。おそらく今後もそうだろう。
「レンはそう思ってても、向こうは案外違うかもしれないぜ?」
「……」
「そ、そういえば、放課後がなんちゃらって言ってたけど何かあるの?」
沈黙を見兼ねたケンタが咄嗟にフォローを入れる。
「…ただの野暮用だよ。」
と俺が明らかにお茶を濁したところで——
——キーンコーンカーンコーン
朝のHRのチャイムがなった。
2人は如何にも質問したがっている表情を見せていたがその音を聞くと焦って自分の席へと戻って行った。
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──放課後
あの後、毎休み時間タクヤとケンタの質問攻めにあったが俺は何とかやり過ごした。
そして、俺は昨日通った廊下に歩みを進めている。
崩壊していた理性が息を吹き返し俺に''行くな'' ''まだ間に合う''と制止を促しているが、全てあのミルクティーの味に掻き消されていく。
もう俺は俺自身を止めることが出来ない。
──ならば俺はそれを甘んじて受け入れようと思う。
そう覚悟を決め昨日入ったあの部屋のドアに手をかけた。
─—— ガチャッ
「来てくれたんだ♡ダーリン♡」
ハスキーがかった先輩の声が脳内を揺さぶる。
闇の深淵を写したような先輩の堕ちきった目を見るとどうしようもなくメチャクチャにしたい衝動が体の奥から止めどなく湧き出ててくる。
「鍵かけてコッチにおいで♡」
先輩は少しばかり笑みを浮かべ腕を広げた。
俺は言われた通りに扉の鍵を閉め、
獲物を見つけた肉食動物のように呼吸を荒らげながら、甘物を見つけた蟻のようにその声の主のもとへと吸い寄せられていくのだった。
——もう戻ることはできない。