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第1話 現代転移

「じゃあ俺、もう行くよ」

 

 目の前に開かれている巨大な次元門は、大賢者の最終魔法・『異世界転移(ワールド・トリップ)』だ。体中から魔力が抜けていくのを感じる。この扉を維持出来るのも、あと数十秒だろう。


「本当に今までありがとう。いくら勇者と持て囃されていても、僕の力だけじゃ帝国からこの国を守ることは絶対に出来なかったよ」


 目の前の男は紺碧の籠手をとりはずし右手を差し出す。傷だらけの手だ。王国を旅立つときの、あの青年と同じ手だとは到底思えない。

 強く握手を組みかわし、俺は言う。


「世話になったよ。向こうに行っても、時々でいいから俺のことを思い出してくれると嬉しい」


 少し困ったような顔をして男は笑う。


「それはミリアやロウに言ってあげてくれよ。最後に二人には会わなくて良かったのかい?」


「短いけど手紙はおいてきた。忘れ物がなんだとか、ごちゃごちゃ言われてまた出発が遅れたら困るしな。それにミリアなんかは俺が居なくなって今頃せいせいしてるだろうよ」


「ふふっ、きみの相変わらずそういうところが……」


「何か言ったか?」


「いやなんでもないよ」


 今度こそ男は屈託のない笑顔をこちらに向ける。送りだされるなら笑ってくれていた方がいい。


『――阿蓮(あれん)、聞こえますか。もうそろそろ時間です』


 脳内に鈴の音のような女の声が響く。この世界に来てから何かある毎にお世話になってきた。この世界に降り立って右も左も分からない頃、彼女が手助けしてくれていなければ、とっくに命を落としていただろう。


「ああ、ありがとう女神さま。あんたの声を聞くのもこれが最後かと思うとなんだか寂しいような気がするな」l


『そういって頂けるのであれば私も嬉しいです。最後ですがあた……私からもお礼を申し上げます。皆の愛するこの国を護っていただき本当にありがとうございました。これでリンクは外れますが、また貴方とどこかでお会いできることを願ってい……あれ、上手く外れないな。まああとでいいか……ゴホン、お会いできることを願っています!』


 なんだかノイズの様な者が混じっていたが、上手く聞き取ることが出来なかった。まあ今までにも有ったことだ、大まかに聞き取れていれば問題ない。

 

俺は後ろを振り向き、男に向けて手を挙げる。


「今生の別れって訳じゃない。いつか俺みたいな大賢者が生まれたら、最終魔法でこっちに遊びに来てくれよ。待ってるぜ!」


 そうして俺は強烈な魔力の奔流の中に飛び込んだ。

 視界が光に白く染まる。

 天地が逆転したかのような感覚が阿蓮を覆った。この世界に飛ばされたときにも味わった懐かしい感覚だ。こればっかりは耐えるしかない。

 目を瞑り、流れに身を委ねること数分。

阿蓮は自分の身体に重力が掛かっている感覚を取り戻す。

 そのままゆっくりと目を開ける。しかしあまりのまばゆい光に目が慣れない。

 

 なんだか様子がおかしい。

 この『異世界転移』の使用に先駆けて、俺は何回か予備実験を行った。失敗して知らない土地に送り込まれたら大変だからだ。

 そしてその実験で二つの事実が判明した。一つ目に元居た現実世界と異世界では昼夜が逆転していること。二つ目にお互いの土地の座標は対応関係にあり、次元門を開く位置で、現実世界に放り出される場所を大まかに決められるということだ。

 その二つを踏まえて、阿蓮は転移先に二つの条件を課した。

 まず転移先の時間は真夜中であること。これは転移直後の姿を現地の人間に見られることを防ぐため。

 そして場所は、自分が生まれ育った町であることだ。見知らぬ国や、太平洋のど真ん中に転移してしまったら、そのまま野垂れ死にの可能性がある。これは絶対に避けたかった。でもそれも、異世界に転移してきた場所から逆算すれば容易に制御できる。



 そして阿蓮が放った最終魔法は完璧なはずだった。

 真夜中の東京、そして生まれ育った孤児園の広場に定められた狙いは、寸分の狂いもなかったはずだった。

 しかし、阿蓮の視界を覆う煌々とした光は、明らかに真夜中のモノではない。


「どういうことだ?」

 

 理解の及ばないまま、阿蓮は目を慣らしながらゆっくりと開く。

 その視界に映るのは、多数の人。視線は明らかに阿蓮の方を向いていた。

 見渡す限り人、人、人。

いくら東京と言っても、俺の住んでいた場所は、あくまで住宅街。そして狙った位置は孤児院だ。ここまで人通りが多かった訳がない。左右に掛ったネオンライトは、ギラギラと大通りを照らしていた。


 こんな場所、見覚えが無い。というかここは本当に日本なのか?


 転移失敗の可能性や、現状把握の早急性が頭をよぎる。

 しかしそんなどれよりも阿蓮の思考を埋め尽くしたのは、

 

 「あ、あれはいったいなんだ……」


 ――天を捉える程の巨大な二対の摩天楼だった。


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