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南部と北部

【南部と北部】

昼食会を兼ねた会議は、和やかな雰囲気の中、進められた。雑談をしながら、料理を堪能し、初対面同士という遠慮も薄らいだと感じた市長の佐堂が、話題を本題に振った。


「……いろいろと、将来への構想がある中で、わたしがこの恵母子市の経済的基盤をより強固にするための核となるアイデアである総合アミューズメントパークについてのご意見をお聞かせいただきたいと願います」


日本のサーフィン業界に、この人ありと讃えられた“レジェンド”こと、鈴木聖は、静かに箸を置いた。


(うむ、ようやくだな……さて、どういった展開になるか、まずは様子を見てみるかな)


聖は、右隣にいる修羅の様子を窺った。弁当を八重咲AIテクノロジー相と分け合い、早々に食べ終わった修羅は、久しぶりに食べたステーキに満足した様子で、食後に供されたオレンジジュースを、暇を持て余した幼児のように、ストローでかき回している。聖は、ふと、孫の顔を、思い出し、微笑んだ。佐堂は、コーヒーを一口すすり、構想の概略を説明し始めた。そして、一通り説明し終えた後、佐堂が、鈴木聖、八重咲大臣の方に顔を向けた。


「鈴木さん、大臣、実は、お二方がお見えになるまえに、少し、この件についての話をしていたところです」


醍醐剣介と大栄勇斗が、相槌を打つかのように頷いた。


「わたしの抱く構想の詳細については、先日、メール添付したPDF資料の通りです。ご一読いただいていると思います。本日、皆様にご意見を賜りたいと願っておりますのは、アミューズメントパークの建設場所を、南部、北部のどちらに建てるべきかということです……幸い、約1万平方メートルの予定公物が、芹沢から行谷、下寺尾の丘陵地帯にあり、そこを候補地という前提で話しをしていたところです。また、海側にも、江南市との境に、約1万8千平方メートルの遊休地があります。広さ的には、こちらの方が、より相応しいように思われますが、ここは、来年に建設に着手する予定の“道の駅”の候補地ですから、仮に、併設するとなると、意見調整や設計の変更など、話が複雑になって来ると思われますし、最悪の事態として、工事延期ということにもなりかねません」


佐堂の言葉を聞き終えて、まず口火を切ったのは、東京からこの会議に出席するために、数十年ぶりに帰省した醍醐剣介だった。


「醍醐です。歌手デビューと同時に、恵母子市を離れたわたしにすれば、この件について意見を申し上げるのは、少々、気が引けますが、“内”を知り、“外”から故郷を見る者の視点で語らせていただきたいと思います」


醍醐剣介がミュージシャンで“食べていこう”と決意したのは、高校三年生の夏頃である。一応、進学校に在席しており、大学進学をする予定で、受験もし、第一志望の都内の大学に進学した。しかし、剣介は、大学で勉強をすることなど微塵も考えてはおらず、「バンドのメンバーを集めるには、好都合」くらいにしか考えていなかった。だから、最終的に、地元恵母子市内に在住する中学時代の同級生で、バンドのメンバーが固まった時点で、惜しげもなく退学してしまった。そして、間もなくデビューが決まり、活動の拠点を東京へ移したために、居住地も都内のアパートへ移してしまったのだ。


剣介が、言葉を継いだ。


「……とすると、南部、北部、どちらにしても、問題があるということですね?」


佐堂は、壁に貼った地図の前に立った。


「……はい。そうなのです。南部には道の駅との併設問題があり、北部にしても、先程申し上げたように、建設計画を阻む大きな“棘”が刺さっています。地元の権力者の加藤親王氏のことですが……予定公物の中心地に、買収できていない小さなギャラリーがあることは、醍醐さんと大栄市議には、説明しましたね?このギャラリーの真の持主が、加藤氏なのですが、自治体の買収に、頑なに応じてくださらないのです」


大栄が、剣介の方を向きながら、小さく頷いた。


「……とすると、どちらにしても、問題はあるわけですね」


剣介は、大栄に会釈を返し、佐堂の方に顔を向けながら、呟くように言った。


そのときである。ズズズッという、大きな耳障りな音がした。修羅が、オレンジジュースを、ストローで飲み干したときに立てた音であった。修羅は、氷の入ったグラスを自分の目の高さまで持ち上げると、グラスを振った。


「果奔のじいちゃんだろ?……姉ちゃん、お替り!」


修羅はそう言うと、ドア付近に控えていた女性職員に、グラスを差し出した。剣介は、修羅の言葉を聞いて、九曲坂での出会いを思い出した。


「ああ、きみはあのときの少年だね!思い出したよ!!加藤氏は、果奔くんのお祖父さんなのかい?」


修羅と加藤親王の間に、剣介の言葉から、なにかしらの縁があることが窺え、佐堂の顔に、明るい笑みが浮かんだ。


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