表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/54

13歳の野望

恵母子市の財政は、決して、豊かではない。東には日本でも有数の観光スポットをもつ藤嶺市、坂東市。西には、J1リーグ所属のサッカーチームをもち、国際的試合を催せる大規模スタジアムがあり、さらには、潤沢な税収を吸い上げることができる競輪場をも有する江南市がある。一方、それらの富裕な自治体に囲まれた恵母子市には、特筆できるほどの観光資源もなく、大規模な工業地帯があるわけでもない。恵母子市にとって、安定した財源を確保するための手段を見出すことは、今後の自治体の発展には重要な課題であった。


恵母子市第28代市長の佐堂輝の悲願は、先々代市長の旗振りのもと策定された「恵母子市観光振興ビジョン・恵母子動く」の指針に基づくプロジェクトを具現化することであった。


佐堂には、長年温め続けて来たアイデアがあった。


「……幸い、近年、この恵母子市からは、有名なミュージシャンが輩出される傾向にある。そのおかげか、市民の音楽への関心は高く、音楽の町として、全国的に認知され始めている。また、歴史的に有名な映画監督との縁も深く、映画祭も活況を呈している。そして、スポーツ分野においても、日本のサーフィン黎明期を支えて来た人物がおり、恵母子市はサーフィンのメッカと言っても過言ではない……こうして考えてみると、別に、不利な“土俵”で勝負することもないな。得意な分野を伸ばし、そこから税収を得る道を模索すればいいのではないだろうか?」


その具体策の一環として進めているのが、既存のスポーツ推進課に加え、市役所に“芸能推進課”を新設することで、市内の芸能・文化の振興と発展に寄与し、芸能界や音楽業界で活躍する人材の育成に努める。さらには、国際的な試合を開催できることを前提とした、3万人以上の観衆を収容できる大競技場を併設する総合アミューズメントパークを建設し、この恵母子市で生まれ育ったスポーツ選手や芸能人、ミュージシャンたちが活躍できる場をつくることである。


「日本のショービジネス、スポーツビジネスの発信地として国内に名を轟かせ、全国から観光客を誘客する。そのためには、観光イメージのアイコンとなるインフラを、なんとしても建設したい」


そして、市長である佐堂が、この構想を抱いた真の理由は、まだだれにも明かしてはいないが、将来起こり得る天変地異への備えにあった。表向きは、税収を上げるための企画であり、そのためのインフラ整備だが、その真意は、災害対策にあるのだ。


「…もしも、一説として、100年周期で起こると言われている南海トラフ地震が、恵母子市を襲ったとしたら、狭い路地がうねうねと複雑に交差する、蟻の巣のような、この小さな町はどうなるのだろう?識者によれば、今後30年以内に発生する確率は、80%にも上るらしい」


きょう、佐堂が各参加者を招へいした理由は、各業界の有識者に、自分の考えを諮り、構想をより現実的にしようと考えたからである。


改めてテーブルを囲むメンバーを見渡して見ると、なかなかユニークな顔ぶれが揃っている。


中国、米国、日本の三ヶ国同時デビューを果たし、デビューした年に、新人ながら日本音楽大賞を受賞、その後、20年に亘り日本の音楽シーンで活躍を続け、いまや国民的ポップスグループと世間で称される“ノーザンクロスシグナス”のリーダーである醍醐剣介。そして、日本にサーフィンというスポーツの存在が知られていない頃、ベニヤ板でサーフボードをつくり、湘南の波に乗り始めたサーフィン界の“レジェンド”こと、鈴木聖。未来の日本経済の礎となるデジタル技術の発展を国家レベルで推進するための旗振り役であるAIテクノロジー大臣に就任した内閣総理大臣臨時代理就任順位第5位の政治家・八重咲宗太郎。さらには、自らが私費を投じて映画を制作し、地元の地域格差の是正を訴える、政治家のニュータイプと呼ばれる大栄勇斗は、図らずも、地元の自治体の市議の代表者となり意見を述べることとなった。


そして、最後に……


スケートボードに、己の野心と、家族の生活、命までも懸ける13歳の中学1年生、長田修羅である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ