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【ミヤコ饅頭】


佐堂が、AIテクノロジー相の八重咲に、上座の席を勧めた。八重咲は、弁当をみんなに配り終えた後、勧められた席に着座した。これで本日の会議の参加者6名、全員が揃ったことになる。


佐堂が申し訳無さなさそうに、八重咲に声を掛けた。


「大臣、申し訳ありません。大臣の弁当、事情がありまして、後からの追加となっております。間もなく届くとは思うのですが……」


恐縮する佐堂市長の姿に、市議の大栄が居たたまれずに、追いかけるように声を発した。


「申し訳ありません。わたしが突発的に参加させていただいたために、数が足らなくなりました。宜しければ、この弁当、大臣、召し上がっていただけませんか?わたしはこの会議の後、恵母子ビーチで、自主映画の撮影が控えており、むしろ空腹の方が都合がよいので。満腹になって眠くなってもいけませんし……ご遠慮なく」


大栄は、気づかいのできる男である。市議も当選回数を重ねてくれば、つい心に油断ができ、驕り高ぶる議員もいるが、大栄にはそんな気配は微塵も感じられない。むしろ、“実るほど頭を垂れる稲穂かな”を地で行く言動を心掛けていた。


「あははは。いや、ありがとう!気を使わせてすまないね……でも、わたしは生憎……小腹が空いたので、ここに来るまえに、ちょっと、これを食べて来たんだよ」


そう言いながら、自分のスマートフォンで撮影し保存しておいた画像を見せた。そこには、八重咲自身の似顔絵らしき焼印が押されたミヤコ饅頭が写っていた。ミヤコ饅頭は、本来は、ある菓子製造機械メーカーの特定の機械で生産した製品の名称なのだが、その機械を導入し、製造する各菓子販売店は、各々独自の商品名で販売している。製品的には、サイズの小さな今川焼きを想像すれば間違いないだろう。


「地元の支援者の和菓子屋が、いろいろな絵柄の焼印を付けてつくってるんだ。なかなかおもしろいだろう?」


修羅は、弁当の蓋を開けながら、ボソッと呟いた。


「大臣……いくら、忙しいからといって、そんな饅頭だけじゃ、栄養失調で倒れちゃうよ。大臣が病気になったら、大臣のお父さんがかわいそうじゃね?……」


修羅が突然話しはじめて、一瞬、周囲の大人たちの動きが止まった。この少年がこれからいったい何を話し出すのかと固唾を呑んで、注目している。修羅は、弁当の蓋に、ステーキ肉とごはんを取り分け、弁当箱を、八重咲大臣に差し出した。


「半分、大臣、食べてよ……俺の父さんは、酒ばかり飲んで、パチンコや競馬の話ばかりしてたけど、一度だけ、真面目な話をしたことがあるんだ。それは、ずいぶん昔のことだけど、大臣が、大臣のお父さんの病気を治すために、自分の内蔵を分けてあげたという話だよ…」


大人たちは、記憶を揺さぶり起こされたかのように、はっとした顔をしている。実は、八重咲宗太郎は、以前、父の治療のために、生体肝移植のドナーになったことがあった。当時、八重咲の父も有名な政治家ということもあり、マスコミ各社がこぞって報道したからか、世間で話題になり、全国に喧伝された。修羅は、このときの話をしているのである。


「……俺の父ちゃんのことだから、大臣のお父さんの話にかこつけて、『俺を大切にしろ』って言いたかったんだろうな。厚かましい親父だと思ったけど、大臣の話には、素直に感動したんだ……だから、これ……」


修羅は、そう言うと、割り箸を弁当箱の上に置いた。


「……少しは、食べておいた方がいいぜ」


八重咲は、中学一年生の大人びた言いように、失笑しそうになりながらも、心に温かいものを感じた。一瞬、八重咲の目が潤んだように見えた。黙って、差し出された弁当箱を引き寄せ、箸で、ステーキをつまみ、口に頬張った。


「うむ、美味い!さすがは恵母子牛、特別な味がするな」


その言葉を聞いて、大人たちは、胸を撫で下ろし、安堵のため息を漏らした。佐堂が、女性職員に、修羅のために、割り箸を一膳持って来てくれるよう頼んだ。

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