表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/54

うつくしいアヒルの子

 勝ち気な性格なのだろう。修羅は、果奔の心配してくれる言葉に、素直に応じられないようだ。もしかすると、二人の境遇の違いが、影響しているのかもしれないと、剣介は思った。


 今度は、果奔が言い返した。


「アッシュといったら、相変わらず素直じゃないなぁ。…だから、クラスのみんなから“怪物”なんてあだ名付けられて、陰口を言われるんだよ」


 剣介は、果奔の言葉を聞いて、まるで、自分が揶揄されているようで、内心、ドキッとした。知らなかったとはいえ、つい先程まで、修羅のことを“幽霊”扱いしていたのだから。


(…怪物であれ、幽霊であれ、どちらにしても、修羅にとっては、いい気分はしないだろう)


 剣介は、修羅が、周囲の者から、心無い言葉を投げ掛けられ、きっと苦しんでいるに違いないと思い、同情した。ところが、当の修羅は、これっぽっちも悲観している様子もなく、明るく言い放った。 


「あはははは。確かに、みんなの言う通り、俺は“怪物”だよ。ただし、“身体が”という意味じゃない。俺が言う“怪物”とは、“精神力”が、みんなの理解を超えているという意味なんだけどな。どんなに意地悪されたって、怒ったりしないからな。俺の心は、“怪物”みたいに、大きくて、強いんだ。そして、もっともっと、大きく、強くしなくちゃいけないんだ。俺が大人になって、いずれ社会に出たら、もっともっと、嫌な思いをする。だからといって、それらの一つ一つを気にしてたら、引っ込み思案の弱虫になるって、母さんが言ってた。俺もそう思う」


 修羅は、果奔を見据えて、言葉を続けた。


「みんなの俺へのいじめは、“神様の進級試験”だ。俺が、立派な大人になって、サーフィンの日本選手権で優勝するにふさわしい人間かどうか、神様が試してるんだ」


 修羅は、そこまで言うと、少し間を置いて、言葉を継いだ。


「…それに、おまえたちからすれば、病気だから、俺が辛いと思っていると考えるだろうが、俺は、この症状を、そんなに嫌ってはいない。“アルビノ”って言ったっけ…詳しくは教えてくれないけど、母さんは、『おまえの姿は、神様が与えてくださったんだ。おまえが、人生の中で、ここ一番の大勝負に臨むとき、神様はおまえが世界中のどこにいたって、探し出して“運”を授けてくれる。世界中の人間の中からおまえをすぐに見つけるために、特徴を与えてくださったんだよ』と言ってた。それに、白いトレーナーを着た俺が、スケボーで、跳躍する姿を見て、米軍基地の友達は、『スワン‼️』と言ってた。俺は、正直、誇らしかったぜ」


(アルビノ…)


 剣介には、聞き覚えのあることばだった。


(確か、白子症といったな。生まれながらに身体の色素が不足している状態で、約2万人にひとりに発症するんだっけ。毛髪、体毛、皮膚、眼などの色に影響し、視力障害などの症状もあるんだよな)


 そして、修羅は、笑いながら、最後にこう言って、話を締めくくった。


「果奔、“みにくいアヒルの子”って、知ってるだろう?黒い白鳥の雛が、白いアヒルの雛に、『黒くて醜い』といじめられ、仲間外れにされるけど、やがて、成長して美しい白鳥になるという寓話だな。俺も、白鳥の雛なんだ。でもな、俺は、“美しいアヒルの子”。生まれながらに、白いのさ。あははははは」

 

挿絵(By みてみん)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ