取材
果奔は、目を凝らし、来た道の彼方を見つめたが、車が数台、来たばかりで、修羅の自転車など、いっこうにやって来る気配もない。信号が、赤から青に変わった。
「これから、実は、きみのお爺さんのところへお邪魔しようと思ってるんだよ」
千場が口早に告げた。
「そうなんですね。僕も、お祖父ちゃんに呼ばれていて、ギャラリーに行く途中だったんです」
果奔が、信号に目をやった。
なかなかスタートしない三輪スクーターと自転車に、痺れを切らした後続車が、軽くクラクションを鳴らす。
「じゃあね」
千場は、後続車に、挨拶代わりに、左手を挙げて、アクセルを開いた。
果奔も、ペダルを力強く踏み込んだ。
(…それにしても、なぜ、アッシュは九曲坂へ引き返したんだろう?)
自転車のスピードが、アシストが解除される速度まで上がり、自分の脚力だけで走り出すと、漕ぐことに気を取られ、修羅のことを考える余裕などなくなった。
「取り敢えず、いまは、ギャラリーへ、早く着くことだけを考えよう」
果奔は、修羅のことが気掛かりではあったが、祖父のギャラリーで待たせている二人の音楽の家庭教師のことも気になった。
千場光一郎は、自社の出版する情報誌を、市内の各協力店に、自ら配送する。それは決して楽な仕事ではないが、配送業者への出費を削減し、協力店とのコミュニケーションを強め、各店の“声”を聞くなど、業務を進めるにあたり、いくつものメリットをもたらしてくれる。また、配達中に、町の様子を窺い、新しい情報や出来事などを知るための情報収集も兼ねているので、他のスタッフには、任せられない。この日、カトービルディングを訪ねるのも、本日予定されているライブコンサートの取材のためである。
千場は、駐車場の隅に、三輪スクーターを止めて、エレベーターの横で、親王へ電話した。
「会長、千場です。お約束をいただいておりますコンサートの取材で伺いました。はい、到着しています。畏まりました」
千場は、エレベーターに乗り、ギャラリーのある10Fのボタンを押した。エレベーターの壁は、ギャラリーで開催予定のコンサートのポスターで埋め尽くされている。これなら、階下にある飲食店や会社を訪ねる客も、否応なしに、ポスターが目に入り、よい宣伝になるだろうという、何事にも抜け目のない親王の目論見である。
千場がポスターを眺めているうちに、エレベーターは、ギャラリーのある10Fに到着した。ドアが開き、ギャラリーの前まで歩くと、入口のガラス扉は、開け放たれていた。
「おう、光一郎くん、ようこそ!開演まで、20分くらいあるから、そこの椅子に掛けて待っていてくれないか」
「ありがとうございます」
親王が、自らコーヒーを入れ、供した。
「会長、すみません。お忙しいでしょうから、お構いなく準備をどうぞ」
しかし、親王は、そのまま横の椅子に座り、千場の顔を覗き込み、口を開いた。両眼の奥には、親王が商談の際に見せる、鋭い、相手を射貫くような光が宿っている。
「…ところで、光一郎くん、尋ねたいことがあるんだけど」




