高梨純子
果奔は、その女性のファッションには、恵母子ビーチの潮の香りが漂っていると感じた。夏の照りつける太陽の光を浴びて、チリチリと肌を焼くほどに熱を含んだ恵母子ビーチの砂浜は、明るい灰色に見える。彼女が、その砂浜とコントラストとなり、浜沿いのCモニュメントまでの細道を歩く姿を想像しながら、彼女のつぎの言葉を待った。
「…それにしても、きみたち、こんなところでどうしたの?歩いて、下りて来たの?危なくないの?あっ、それスケートボードだね?まさか、それに乗って下りてきたとか?あまり無茶なことは止めておきなさい。万一、怪我をしたときに、ここじゃ、救急車だって、すぐには来れないでしょ?」
果奔にとっての女性とは、優しくて、子煩悩。慎ましく、いつも、父や姑のことを気づかっている穏やかな母のようなイメージである。
(はきはきして、明るいひとだなぁ)
修羅にとっての女性とは、粗暴な父の振る舞いに怯えている母のイメージ。一見、従順そうだが、腹の底では、父から解放されたいと願っている。タクシーの運転手である父が、仕事で、家を空けているとき、自宅周辺で、救急車のサイレンの音を耳にすれば、
「どうか、うちの糞ったれ亭主が、担ぎ込まれていますように」
と、子どもたちがいるにもかかわらず、声に出して祈るような女である。
(うっせい女だな!学校の先生みたいなやつだ!!)
その女性は、修羅に、目を留めた。
「きみ、ずいぶん、泥だらけだね…それに、顔に、擦り傷を負っているようだし…もしかして、事故っちゃったのかな?大丈夫?(ふーん、それにしても、かなり美しい男の子だなぁ。金髪に、灰色の瞳。透き通るように白い肌…外国人かな?)」
修羅が、いたずらっぽく笑う。
「恵母子ビーチはね、この道を真っ直ぐ行くんだ。目をつぶってたって到着するから、安心しな。でもね、行き過ぎると、海にはまっちゃうから、やっぱ、目は開けといたほうがいいかな。てか、そのまえに、交通事故に遭うから、閉じちゃ、ダメだぜ!」
果奔は、はらはらしながら、横目で、修羅を見ている。
(アッシュ、失礼じゃないか…まったく、短気なんだから)
女性は、くすっと笑いながら、ポーチの中から、絆創膏を取り出した。
「きみ、おもしろいね!その鼻っ柱が強そうなところもいい。名前、なんて言うの?」
修羅は、ぷいと横を向いた。
「お姉さん、おとなだろう?まずは、自分から名乗らなきゃね!」
どこまでも、生意気な修羅だったが、女性は、けっして、笑顔を失わない。
「あら、ごめんなさい。うっかりしてたわ」
女性は、修羅の頬の擦り傷に、絆創膏を優しく貼り付けた。
「わたしは、髙梨…髙梨純子よ!」




