白雪姫
修羅は、夢を見ていた。見覚えのない草叢に、仰向けになり、流れる雲を見ている。客観的に、自分の寝転んでいる姿を見ているのだから、夢であることに、すぐ気づきそうなものだが、その自覚がないところが夢なのだろう。意識が、寝転がっている自分に移ったようだ。目の前に、晴れ渡る空が広がった。朦朧とした意識の中、突然、誰かの顔が覆い被さるように、修羅の視界を遮った。見覚えのある顔だった。
(お母さん!!)
2年ぶりに見る母は、懐かしそうに、微笑みながら、修羅を見下ろしている。
「アッシュ、大丈夫なの?」
母は、そう言いながら、顔を近づけて来た。
(お、お母さん?!)
修羅は、ぎょっとした。なんと、母は、自分の唇を、修羅の唇に押し付けて来たからである。夢の中とはいえ、初めての口づけが、まさか自分の母親なんて、冗談にしても笑えない。しかも、まだ12歳である。咄嗟に、手で払いのけて、跳ね起きた。払った手の指先が、母の鼻先をかすめた。
「痛い!!何するんだよ!アッシュ」
母の顔を、払い除けた瞬間、右肩に激痛が走り、意識がはっきりした。
「ん?果奔じゃないか…どうして、ここに?…ところで、おまえ、変なこと訊くけど、俺にキスしようとしなかったか?」
「うん。アッシュを目覚めさせようと思ってね」
修羅は、右肩の痛みを我慢しながら、訝しげに尋ねた。
「なぁ、果奔…俺を起こすのに、なぜ、キスしなきゃならないんだ?」
果奔は、真顔で答えた。
「アッシュ、白雪姫、知ってるだろう?王子さまが…」
修羅は、果奔がしゃべり終る前に理解した。そして、自分が崖から転落したことも忘れたかのように、大笑いした。
「おまえ、バカじゃないの?」
二人は、互いの顔を、見合わせ、笑い転げた。果奔は、修羅の笑い声を聞いて安心した。人の体調は、声に表れる。これまでの様子に、それほど変わったことはなかった。見たところ、小さな擦り傷はあるようだが、大きな外傷はないようだ。後は、骨折しているか否かだが、これは、レントゲンを撮らなければ、正確なところはわからないだろう。
「ねぇ、アッシュ。ちょっと、跳ねてごらんよ。両手も回してみて」
修羅も、先程の右肩の痛みが気になっていたので、果奔の言うことに従った。
「痛っ!!右肩のあたりが、すげぇ痛いわ…こりゃ、やっちゃったかなぁ?」
果奔が心配そうに、修羅の様子を窺いながら声を掛けた。
「病院へいったほうが、いいんじゃ
ね?」
「ああ、そうするよ…でも、その前に、行かなきゃならないところがある」
修羅は、傍らに落ちている、傷だらけになったスケートボードを見ながら、呟くように答えた。そのとき、果奔のスマートフォンの呼び出し音が鳴った。果奔は、通話アイコンをタップした。
「はい、加藤です!あっ、お祖父ちゃん!」
掛けてきたのは、果奔の祖父、加藤親王であった。




