寿命
剣介を見送った後、修羅と果奔は、九曲坂の頂上にいた。勾配がきついつづら折れのカーブが幾重にも続くこの坂は、車やバイクで、サーキット走行まがいの走り方をする若者の聖地となっている。無茶なスピードで走るために、車を制御しきれず、事故も多く、崖下へ転落する者も少なくない。運動神経に優れるとはいえ、中学校1年生が、スケートボードの練習をするような場所ではない。
しかし、修羅には、危険を承知の上で、この坂を練習場所に選んだ理由があった。
それは、ある日の放課後のことだ。心無いクラスメートが、インターネットの百科事典の“アルビノ”の項目を、修羅に見せた。スマートフォンの画面に表示された記事の内容は、わずか12歳の、しかも、その疾患をもつ当事者には、あまりにもショッキングな内容だった。
“アフリカでは、アルビノの疾患をもつ者の大半の者が、アルビノ狩りと皮膚がんが原因で、30代を迎えることができない”
(外国のこととはいえ、俺と同じ症状のひとが迫害され、若い年齢であるにもかかわらず、死んでしまう。もしかしたら、俺も永くは生きられないのか?)
気持ちが、一気に落ち込んだ。しかし、幸か不幸か、修羅の劣悪な生活環境で鍛えられた精神力は、この衝撃を跳ね返した。
その意地悪な友人に、優しく、感謝の言葉を述べた。
「…そこに書かれていることが本当なら、急がなきゃな。それに、もしも、国は違っても、俺と同じ疾患をもつひとたちが迫害されているのなら、俺がその状況を変えてやる!!なんとしてでも、有名になって、世界中のひとたちが、俺のはなしを真剣にきいてくれるような大人にならなきゃな。教えてくれて、ありがとね」
この日を境に、修羅のスケートボードの練習には、いっそう熱が入った。いま見下ろす、この地獄谷のような景色も、修羅が歩んできた人生を思えば、それほど恐ろしくもない。この場所を練習地に選んだ理由は、これほどの難所で特訓すれば、きっと、比類なき高度なテクニックと強靭な精神力が備わると考えたからだ。それに、何にも増して、怖気づいて、自分の人生の持ち時間を無駄にすることのほうが、よほど恐ろしいと感じていたのだ。
「果奔、あと1本、滑り下りたら、帰ろうぜ」
果奔が、修羅のボードを指差しながら、言った。
「アッシュ、ウィールが限界じゃない?もう終わりにして、ゴッドで交換してもらおうよ」
「大丈夫!大丈夫!!まだ、もつさ!」
果奔は、不安に思ったのか、なおも説得した。
「アッシュ、やっぱ、このままゴッドへ行こうよ。ベアリングだって、軋むって言ってたじゃん。もしもクラッシュしたら、大怪我するからさぁ」
しかし、修羅の脳裏に、一瞬、クラスメートに見せられたアルビノについて記述された記事がよぎった。
「うん。わかった。ゴッドで修理はするけど、せっかくここまで上がって来たんだから、時間がもったいないじゃないか。この1本は滑るよ」
そう言うと、勢いよく、左足をスケートボードに乗せ、右足で路面を蹴った。スケートボードは、修羅を乗せて、ゆるゆると坂道を滑走しはじめた。




